営業ノウハウは、チームの営業力を高める上で重要な要素です。市場変化の激化、人材流動性の高い近年において個人の営業スキルや経験に頼る企業は、チームで営業する企業よりも競争力が劣ってしまいます。各個人の営業スキルや経験を組織のノウハウとして蓄積し、チームの営業力を高める方法を本記事では、ご紹介します。
営業ノウハウとは?
営業ノウハウとは、営業活動を行うにあたっての専門的な知識やコツを指します。一般的な営業知識だけでなく、実践や経験から得た知恵やテクニックも含みます。具体的には、商談の作り方・進め方、セールストーク、提案書の作り方、クロージングの方法などが当てはまり、これらを組織内で共有し各営業担当者が習得することで営業活動を促進させます。営業ノウハウは、言語化がされにくく営業担当者のスキルや経験に依存しやすい傾向から、見て学ぶことが多かったと思います。ただ近年においてテクノロジーの発展や市場変化の激化により、営業ノウハウの蓄積・浸透が大きなテーマとなっています。各営業担当者のスキルや経験に頼るのではなく、データから規則性を見い出し最短で誰もが売れる営業担当者へ育成するために、営業ノウハウを蓄積し浸透させていく流れです。
Sansan社による 「営業活動におけるデータ活用の実態調査」では、「個人の営業スキル」はコロナ禍前の29.8%から17.2%へと大幅に減少。一方で「営業のデジタル活用」は1.8%から12.8%(7倍以上)、「営業のデジタル活用」ニーズは7倍、「社内のデータを営業に利用したい」は8割超という結果が明らかになっています。
出典:Sansan社 「営業活動におけるデータ活用の実態調査」
つまり個人営業スキル依存からの脱却、そしてチーム営業のためのデジタル活用がすでに主流となっています。また、ここ数年でセールスイネーブルメントという言葉が日本でも普及し始めており、市場の変化に負けない営業組織を目指す上でも、組織に営業ノウハウを蓄積し浸透させていくことは重要となっています。
営業ノウハウの蓄積・浸透で効果を発揮する企業の特徴とは?
営業ノウハウの蓄積・浸透による組織への効果を市場の観点から説明します。
そもそも市場の成熟度によって、営業やマーケティング、広報のやり方が異なります。市場の成熟度はプロダクトライフサイクルのフレームワークを活用することが一般的です。プロダクトライフサイクル上には「導入期」「成長期」「成熟期」「衰退期」の4段階があり、それぞれの段階ごとにあった営業活動を行うことが重要です。
出典:GLOBIS 知見録
導入期から成長期の前半にかけてはプロダクト自体の優位性が強いため、いかに顧客にプロダクトの魅力を伝えるかが受注に至るまでの重要な要素となります。また営業担当者にとって顧客への提案方法が理解しやすく比較的早いスピードで一人前になることができます。ただ成長期の後半から成熟期になると市場に似たようなプロダクトが多く存在するため、顧客に自社の優位性を説明することが難しくなります。もし社内から「自社のプロダクトは他の会社とどう違うのかが分からない」といった声が上がってくる場合は、まさに成熟期の特徴といえます。
成熟期では販売戦略(4P)が非常に重要となります。よく使われる例としてはソニーのウォークマンとアップルのiPodでしょう。ウォークマンは高品質路線で音質を高めることを優先していったのに対し、iPodは音質ではなくプロダクトを買う・使うことを通じての体験を優先しました。つまり、iPodは顧客への見せ方と伝え方によって差別化をはかっているといえます。このように自社と似たプロダクトが市場内に多く存在している場合は、販売戦略における優位性を考えていく必要があります。成熟期において「自社のプロダクトは他の会社とどう違うのかが分からない」のは当たり前であって、「いかに営業活動内で差別化をしていくのか?」を考えることが営業担当者に求められていることになります。
モノとサービスがあふれる時代にとって営業ノウハウの蓄積・浸透は必須
現代では、モノとサービスがあふれており商材そのものの優位性を見出すことが難しく、上記で説明した通り販売戦略によって差別化を測るケースが増えてきています。BtoB事業にとって販売戦略の大きな要は営業であり、営業方法によって差別化を図ることは重要となってきています。アポの取り方、商談時のトーク内容、提案書のメッセージ、顧客との関係構築の仕方、稟議への通し方など営業活動全てにおいて差別化できるポイントがあります。そのため、人のスキルや経験に依存した営業方針ではなく組織内で営業ノウハウを蓄積・浸透させることは営業業績へ大きく影響を与えます。
出典:オルタナティブ・ブログ
人材の流動性が高い現代において、営業ノウハウの属人化は企業の存続へも影響を及ぼす
また日本の人口減少に伴い、人手不足が深刻な課題となっております。その結果、定年退職まで同じ会社に勤めるのではなく、転職を繰り返しキャリアアップする流れが強くなってきています。社員の退職が当たり前の時代において、営業方法の属人化は組織として危険な状態であることは言うまでもありません。特に何人かのハイパフォーマーに依存していると、事業としての安定性を失うだけでなく企業の今後の存続にも大きく関わります。モノとサービスがあふれ、人材の流動性が高い時代において、BtoB事業における営業ノウハウを組織に蓄積していくことは、事業の優位性へと繋がり、今後企業が存続していく上で重要な要素となるでしょう。
営業ノウハウを収集する際の2つの視点
営業ノウハウは、大きく2つの視点を持って収集します。一つは、定量的視点です。数値面から営業プロセス全体での課題を把握する方法と課題を解決するためのノウハウを蓄積します。もう一つは、定性的視点です。営業トークや関係性の築き方、アポの取り方等の数値面以外の課題箇所を解決するノウハウを蓄積します。
ひとつずつ詳細について説明します。
定量的視点:営業プロセス上のノウハウを収集する
定量的視点の営業ノウハウはマネジメントする立場にとって非常に有効的です。特に目標達成が見込める各指標の基準値や受注数が下がっている原因を調べる際に営業プロセス上での課題箇所を把握するための指標などをまとめておくと良いでしょう。例えば「〇月までに目標数値の〇〇%まで達成していないと目標達成が難しい」や「目標金額まで至っていない時は商談数・提案数が〇〇件を超えていないことが多い」「〇月時点で受注率が〇〇%だと危険信号」等です。営業におけるKPIについては、こちらの記事でまとめておりますのでご参考ください。
定量的視点の営業ノウハウは、まず営業プロセスの結果KPIと行動KPIを計測できる環境があること、それらを経年比較で可視化できることの2つの条件がないと蓄積されていきません。上記2つの条件をエクセルで管理すると、マネジメントだけでなく現場にも膨大な負荷がかかってしまうため、SFA(Sales Force Automation)やCRM(Customer Relationship Management)などデジタルツールの活用をお勧めします。SFAの詳細・導入イメージについてはこちらの記事で紹介しているので、ぜひご参考ください。
定性的視点:営業業務上のノウハウを収集する
定性的視点の営業ノウハウは、現場担当者にとって非常に有効的です。一般的に営業ノウハウというと、この定性的視点(営業業務上のコツ)を指すことが多く、体系化することも難しい領域です。また一般的なノウハウだけでは自社の営業スタイルと合わないこともあるため、自社にあった営業業務のノウハウを蓄積することが重要です。ノウハウを蓄積・浸透させるためには、ハイパフォーマーへのヒアリング実施と各営業業務の観察を行い言語化、最終的にはロールプレイやケーススタディの作成まで落とし込みます。この定性的視点で重要なのは「ハイパフォーマーへのインタビューと、各営業業務の観察から得た情報のまとめ方」です。ハイパフォーマーへのインタビューと観察情報をまとめる際の観点は、「ハイパフォーマーの強みを活かした誰も真似できない領域」と、「一般的に真似できる領域」を分けることです。一般的に真似できる領域を営業ノウハウとして蓄積することで、汎用的なスキルとして比較的容易に組織に浸透させることができます。また営業組織の体制やレベルによって営業ノウハウとして落とし込むべき内容は異なるため、「今すぐに営業活動の改善へ活かせるノウハウ」と「長期的な視点で営業担当者の育成が必要なノウハウ」を分け、段階的に組織へ浸透させていくことも重要になります。「真似できない領域と真似できる領域」、「いま必要なノウハウと将来的に必要なノウハウ」の見極めの土台を作るためには、外部の営業プロフェッショナルに依頼し分析・言語化してもらうことも有効な手段と言えます。
定量情報と定性情報を定期的に収集できるマネジメント体制を作る
上記で説明した、これら2つのノウハウを定期的に集め、改善サイクルを回すことが重要となります。
そのためには営業組織のマネジメント体制を見直す必要があります。
マネジメント体制を考える際には下記の4つを定義していきましょう。
・ デジタルツールを活用すべき箇所
・ 外部に委託する箇所
・ マネジメント側が収集・整理する箇所
・ 現場担当者が収集・整理する箇所
これから営業ノウハウを蓄積していく会社は下記のようなマネジメント体制を参考にしてみてください。
営業ノウハウをまとめる際の3つの分解とは?
営業ノウハウをまとめる際は、「自社商材情報の分解」「顧客情報の分解」「営業活動情報の分解」の3つに分けて考えていきます。一つ一つの詳細を見ていきましょう。
自社商材情報の分解
自社商材における競争戦略と自社商材の情報をノウハウとしてまとめます。自社商材のノウハウは商材を営業担当者から顧客へ説明する時に役に立ちます。特に「市場として求められている価値」「顧客から求められている価値」「競合が強い領域」「自社が強い領域」を把握しておくことで、セールストークの幅が広がります。いきなり商材を説明するのではなく視座の高いところからセールストークを行ってほしい場合は、自社商材の情報をノウハウとしてまとめることをお勧めします。
競争戦略の情報例
・ PEST分析
・ STP分析
・ 3C分析
・ SWOT分析
・ 4P分析
自社商材の情報例
・ 商材の概要・サービス内容
・ 商材の特徴
・ 商材の料金体系
・ よくある質問
・ 活用事例
競争戦略の各情報については、こちらの記事でまとめておりますのでご参考ください。
顧客情報の分解
顧客のことを理解できる情報をノウハウとしてまとめます。主に商材に対するターゲットやペルソナ、カスタマージャーニー等が挙げられます。商談時の顧客の発言背景や商談の各フェーズごとで顧客が考えていることが異なる点などをより理解しやすくなり、顧客への共感や顧客目線に立った営業ができるようになっていきます。営業担当者が顧客への理解や共感が足りていない場合は、顧客情報をノウハウとしてまとめることをお勧めします。
顧客の情報例
・ ターゲットの属性(業界・従業員数・売上規模など)
・ ペルソナ
・ カスタマージャーニー
・ 既存顧客の成功事例
・ 見込み顧客の購買事例
ペルソナやカスタマージャーニーについては、こちらの記事でまとめておりますのでご参考ください。
営業活動情報の分解
営業活動におけるコツをノウハウとしてまとめます。主に営業プロセスやフェーズなどのマネジメント視点と、アポの取り方や商談の進め方等の担当者視点などが挙げられます。営業業務における基本的な内容や自社の基準値・方針などが理解しやすくなり、営業活動への認識がそろいやすいです。チーム内の基準値をそろえたい・営業業務のレベルを底上げしたい場合は、営業活動の情報をノウハウとしてまとめることをお勧めします。
営業活動の情報例
・ 営業プロセスの全体像
・ 営業フェーズの各定義と達成基準
・ 営業リストの作り方
・ アポの取り方
・ ヒアリング時の質問リスト
・ ヒアリング内容の情報整理方法
・ 提案書の作成方法
・ 提案内容の伝え方
・ 稟議の通し方
・ クロージングの仕方
営業活動の管理方法については、こちらの記事でまとめておりますのでご参考ください。
営業ノウハウを蓄積・浸透させるための第一歩とは?
営業ノウハウを蓄積・浸透させるのに、いきなり情報を集めようとすると現場の担当者やハイパフォーマーの協力が得られず、結果として情報が点在しており整理するのに時間がかかってしまい、結局まとめられず終わってしまうケースは多いです。そのため、「効率化を促進させるデジタル化」と「現場の協力・行動変容」が大きな鍵となります。
キーワードはデジタル化と現場の協力・行動変容
前述でも説明した通り、営業活動の情報を蓄積するのにエクセル管理では膨大な負荷がかかってしまいます。目標達成に忙しい営業担当者に対して、さらに膨大な負荷をかけることは非協力的な体制を作っているようなものです。そのため、デジタル化で効率的にできる箇所はデジタルに置き換え、組織に負担がかからないような体制を作っていく必要があります。ただ、現場の協力は必要になります。そのため、現場の協力を促すためにも営業組織のあり方から見直していかなければいけません。今や属人的な営業スキルは組織にとってリスクであり、これからチーム営業への方向転換が求められています。マネジメント側だけがチーム営業の意識を持っていても、現場の浸透までには至りません。そのため、デジタル化していくと同時に営業組織全体の意識をチーム営業に変え行動を変容させるプロセスを踏むことが重要となります。
現場の協力・行動変容には、知識・スキル・マインドセットの醸成が必要
チーム営業への意識に変えてもらうためには、単なるメッセージングや組織体制の変更だけでは不十分です。現場の担当者もついていけるように、知識・スキル・マインドセットを醸成させていくことが必要です。チーム営業の知識、またチーム営業のために必要なデジタルスキル、データ分析スキル、そしてチームへの貢献を大切にするマインドセットなどを新たに身につけなければいけません。特にデジタル教育は重要です。アビームコンサルティング社による「日本企業のDX取り組み実態調査」によると、DX推進に成功したグループと成功に至っていないグループの達成度において一番大きいギャップがあった項目は、「全社員へのデジタル教育」でした。
出典:アビームコンサルティング社「日本企業のDX取り組み実態調査」
つまり、デジタル教育やチーム営業へのスキル・マインドセットの醸成を現場任せにしておくと、一向にチーム営業への転換はできません。DXにかかる費用と、現場とマネジメント間の関係性悪化によるストレスが積もっていくだけです。会社として育成体制を作りフォローアップしていくことで組織の一体感は生まれます。チーム営業を推進させるためにも育成体制の整備は大切ですので、DXと合わせて一緒に考えていきましょう。
現場のスキル・マインドセットのレベルに合わせたトレーニングを提供する
DXと言えど、個社ごとで抱える課題は異なります。本記事内でも説明した通り、プロダクトライフサイクルステージ毎で営業に求められるスキル・マインドセットは違いますし現場のデジタルへの知識や抵抗感は異なります。またトップダウン的に進めた方が効果的なのか、それともボトムアップ的に進めた方が効果的なのかは組織文化によっても異なります。そのため、DXに関するパッケージのトレーニングではなく、個社別にカスタマイズされたトレーニングの方がスピード感を高くDXを推進できます。
おわりに
営業ノウハウを蓄積・浸透させるには、まず「効率化を促進させるデジタル化」と「現場の協力・行動変容」が重要となります。特に現場の協力と行動変容は難易度が高く、推進できる人材は未だ少ないです。ただ外部人材の活用と社内のスキル・マインドセット醸成によって、社員の視野を広げることができれば、組織が一体となって前に進んでいきます。今後において営業ノウハウの有無によって企業の存続が変わるため、このDXの流れに沿って体制を整え営業ノウハウを組織に落とし込んでいきましょう。
ゼンフォースでは個社の課題を整理し、課題に沿ったトレーニングを提供しています。個社の課題に合わせて、外資系やスタートアップ等の経営者やプロフェッショナル営業人材を講師としてお招きし、内部だけの情報では得られない知識・スキルを学び、社員の視座を広げていきます。結果として、DXに応じた社員の行動変容を実現させ、営業組織として競合他社にはない強みを磨かれています。