- 組織やチーム、個人の売上目標を達成する上で、日々の営業活動を視える化することは欠かせません。単に売上目標を設定するだけでは、組織が目標を達成することは難しく、特に経験不足の若手なら尚更です。
- そこで、「KPI管理」を導入することで、営業活動が視える化され、営業組織の改善活動を行いやすい基盤を整えることができます。
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- 具体的には、営業活動における「リスト作成・新規架電・商談実施・受注獲得」といった各プロセスを数値化することで、どのプロセスに課題が存在するのかが可視化され、課題解決に向けて的確なアクションを実施することができます。
KPIとは?
- KPIとは「Key Performance Indicators」の略語で、日本語では「重要業績評価指標」と訳します。目的を達成するためのプロセスを評価する中間指標であり、KPIを定点観測することで営業組織のパフォーマンスや目標達成状況を把握することが容易になります。
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KPIとKGIの違い
- KPIと混同されて使われやすいのが、KGIです。KGIは「Key Goal Indicator」の略語で、日本語では「重要目標達成指標」と訳します。例えばある事業の売上目標が年間10億円で、単価100万円の商品を1,000件受注する指標を置いたとしましょう。KGIは年間売上10億円、KPIは受注1,000件となります。
- KPIは目標を達成するための中間指標ですが、KGIよりも重要度が高く、事業を推進する中で適宜見直し、修正をしていく必要があります。追加で例を挙げると、受注数1000件達成が難しい場合は、商品単価を1000万円にしてKPIである受注目標を100件にするなど、戦略変更に合わせてKPI変更を行うこともあります。
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- 営業KPIをさらに細かくした例に挙げると以下のような計算式で因数分解し、各指標を定量的に測定することで、チームメンバー全員が進捗を確認することができます。
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- 売上=受注数×顧客単価
- =受注数(=商談数×受注率)×顧客単価
- =商談数(=アプローチ数×商談化率)×受注率(=受注数÷商談数)×顧客単価
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なぜ営業においてKPI管理が重要なのか
- 営業予算を達成する秘訣は、営業マネージャーが部下の営業進捗や予算実績管理を可能な限り正確に把握することにあります。しかし、漠然と予実管理をするのではなく、営業プロセスを細かく分解し、各プロセスで課題となっている箇所の状況を定量的に知ることが大切です。そのためには、各営業プロセスで実施している業務内容を体系立てて理解する必要があります。
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- その状況を明確化するためにKPIを数値化、定点観測を実施し、計画通りの実績が出ない場合は、改善施策を打っていく必要があります。
KPI管理に成功した場合の効果
- KPI管理に成功した場合、以下のような効果が期待されます。
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- 1)経営レベルでの意思決定精度が上がる
- 2)少ないリソースで大きな成果を上げられる
- 3)営業の標準化を果たせる
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- 数値で営業状況を可視化することで、感覚的な意思決定に依存した事業経営から脱却し、意思決定精度を高めることができます。
- 例えば、売上目標が未達だった場合、どの指標(KPI)が目標に達していなかったのかを確認することができます。KPI管理手法を導入することで、目標に達していない指標が顧客数か、受注単価なのかが特定しやすくなります。さらに顧客数が足りなかった場合、商談数、受注率、架電数のいずれかが達成していなかったというように、因数分解することで、重視すべき指標(KPI)が明確になりやすいです。
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- 重視する指標を明確にすることで、営業リソースを増やすべきか、既存メンバーを教育すべきかといった経営判断を下しやすくなります。前述のように、目標達成に向けて各プロセスを「量×質」に分解することで、量だけに頼らず質の観点からも改善活動を実施することができます。
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KPI管理を阻害する要因
- 営業KPI管理を阻害する要因としては、以下のような点が挙げられます。
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- ● ミドルマネジメントがKPI運用の目的を把握していない
- ● 営業メンバーがSFA(営業支援システム)に活動情報を入力してくれない
- ● 社内合意形成が十分取れておらず中途半端な運用を行なってしまっている
ミドルマネジメントがKPIの運用目的を把握できていない場合、データ収集の目的が不明瞭となり、収集したデータをKPI管理や目標達成に向けて有効に活用することができません。また既存営業プロセスから大きく変更が発生するため、KPI管理の環境が整っていても営業メンバーが入力を怠ってしまったり、正しいデータが入力されなかったりすることもあります。結果としてKPI管理の導入ができたとしてもKPI管理を作ることが目的となってしまい、活用ができない状態となります。
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KPI管理を成功させるポイント
KPI管理を成功させるポイントは次の4点です。
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- 1)全社でKPI運用目的を設定
- 2)トップダウンで運用徹底を指示・継続マネジメント
- 3)ツールを活用して効率的な活動入力を習慣化
- 4)振り返る時期・頻度を設定し、KPI管理表で定点的に振り返る体制を構築
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1)全社でKPI運用目的を設定
- KGIを達成するために必要な指標を絞り込み、KPIに設定します。例えば「前四半期(3ヶ月)の新規売上目標3億円を達成できなかった」という状況を解決するアプローチを考えてみます。KPIを設定するためには、目標と実績の差分を把握することから始めましょう。KGIの売り上げを「売上=受注数(商談実施数×受注率)×平均受注単価」と因数分解し、各指標に対して目標と実績の差分を可視化します。
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- 上記の表を見ると、「商談実施数」と「受注率」が目標に達していないため、KPIにはこの2つの指標を設定します。翌四半期の目標は、「商談実施数と前四半期対比で200件増やす」と「受注率を5ポイント改善する」になります。
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2)トップダウンで運用徹底を指示・継続マネジメント
- KPI管理を阻害する要因でも触れましたが、ミドルマネジメントがKPI管理の目的を把握していない、営業メンバーがSFAに活動情報を入力してくれないなどの問題がよく起こります。
- そのため、細かい数字の可視化や定点観測などの運用管理はミドルマネジメントに任せるとしても、営業部門の責任者となる営業部長・管掌役員は、KPI報告をミドルマネジメントから受けた際に、KPIの算出・取得方法を定期的にヒアリングしながら、目的に沿ったKPI管理が組織に浸透しているかどうかを確認すると良いでしょう。
3)ツールを活用して正確で効率的な活動入力を習慣化
- 営業メンバーが売上獲得に動きながら全て手作業で活動情報を入力することは手間になり、何より正確性も欠きます。例えばコール数などはIP電話ツールとKPI管理ツールを活用して自動で取得できるような環境を作るなど、活動内容の入力を自動化していきましょう。
4)振り返る時期・頻度を設定し、KPI管理表で定点的に振り返る体制を構築
- KPI管理表で振り返った結果をもとに、営業戦略に反映させる必要があります。
- 例えば、ミドルマネジメントから報告を受けた営業部長(営業責任者)は、現状のKPI進捗を経営会議で報告、課題解決に向けて「受注率向上に向けた特定業界へのリソース集中するべき」や「業界経験のある営業メンバーの増員が急務である」など、具体的な意見を報告し、意思決定を仰ぎましょう。
- 運用開始後1ヵ月は運用に乗るよう週単位で正しく記録が残されているかも含めて振り返りを実施しましょう。また全社的に進めづらい場合、特定の部署や一部のチームからスモールでテストを始め、成果が出始めたら全社的にに展開していくなどのアプローチも有効です。
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適切な営業KPIの設定方法
- 適切な営業KPIを設定するためには、
- ● 目標となるKGIを設定する
- ● 営業プロセスを分解する
- 順番で進めていきましょう。
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最終目標となるKGIを設定する
- 前述したようにKPIはあくまで中間指標のため、最終目標ではありません。KPIを設定する目的を明確にし、KGIを設定しましょう。
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営業プロセスを分解する
- KGIを達成するための営業プロセスを分解することで、中間指標となるKPIを考えやすくなります。例えば「売上金額」をKGIとおいた場合、「売上金額 = 商談数(=新規見込み顧客数×商談獲得率)×受注率×受注単価」のように分解され、営業のKPIとしては、「量」×「質」の観点から以下のような項目を設定するケースが一般的です。
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- (量):(質)
- ・新規見込み顧客数:新規見込み顧客数のターゲット企業比率
- ・アプローチ数(架電・メール):商談獲得率
- ・商談獲得数:受注率
- ・受注数:受注単価
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KPI設定のポイント
- 設定するKPIは担当業務と連動させ、第一に関与できる指標を設定することがポイントです。
- 例えば、受注に繋がりやすい案件が少ないという問題を抱えていた場合、営業のKPIを「新規見込み顧客数」と設定します。ただ新規の見込み顧客獲得は、営業ではなくマーケティングチームが主に担当しています。そのような中で営業KPIを「新規見込み顧客数」に設定したとしても、主担当ではなく直接業務に関与することが難しいため、成果のための業務、又は計測のための業務のマネジメントや要因分析もできず、KPI管理の効果が限定的になってします。この場合、営業チームが設定すべきKPIはマーケティングチームが獲得した新規見込み顧客から案件に繋げることができる「商談獲得数」が好ましいと言えます。
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KPI設定は定量化し、計測できる指標に
- KPIを設定しても、定量化され、計測ができる指標でなければ機能しません。例えば、「受注見込み度合いA以上の顧客リストを10件つくる」という目標を設定した場合、「見込み度合いA以上」の基準が重要になります。営業担当個人の感覚で判断をすると、基準が不明瞭で評価がブレやすくなります。この場合、「顧客単価が高い傾向にある売上1,000億円以上の企業」+「受注率の高い製造業」などのように定量化しやすい基準を設定しましょう。
KPI管理におけるツール活用メリット
- KPI管理を成功させるポイントでも触れましたが、KPIデータの精度を高め、市場変化の早い現代の環境に対応していくためには、テクノロジーを活用したKPI管理体制を構築しましょう。
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経営層がタイムリーに事業活動状況を把握できる
- 経営層が営業活動の状況を知りたくなった場合に営業責任者に都度確認をしていると意思決定が遅くなってしまいます。知りたいときにいつでも確認するために、営業活動の状況をリアルタイムに反映したダッシュボードを作ることで意思決定スピードを早めることができます。
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データ入力を強制・自動化することができ、データ精度が上がる
- 経営陣や営業責任者が適切な意思決定をするためには、正しいデータを取得する必要があります。しかしながら営業メンバーは顧客対応やクロージングを行う必要があるため、短期成果にならない活動を強いられるとどうしても後回しにしたり、入力が雑になったりしてしまいます。そこで営業活動を行う際、特定の情報を入れないと次の作業を行えないよう制限を設けたり、入力自体を自動化したり、自由記述ではなく選択式にすることで、データ入力の負荷を減らし、精度を上げることができるようになります。
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顧客情報の有用性が上がる
- 代表的なKPI管理ツールとして、エクセル、Salesforce、HubSpotをご紹介します。いずれも顧客情報や営業進捗を管理するCRMの機能を持っています。
- CRMとは『Customer Relationship Management』の略で、日本語では『顧客関係管理』と呼ばれています。顧客満足度を向上させることを目的に、顧客と企業・組織との関係構築を向上させる経営アプローチ手法です。KPIを管理する際、顧客情報も合わせて管理することでKPI管理の効率が上がり、顧客情報の有用性を高めることができます。具体的には、KPI管理ツールで営業活動から得られた数値とCRM活動で管理する顧客の売上規模や業界・業種、エリアといった顧客情報を掛け合わせて活用することで、どの顧客セグメントに営業リソースを振り分けるかといった意思決定をすることもできるようになります。
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KPI管理ツール選定のポイント
- KPI管理ツールの活用メリットをご紹介しましたが、具体的にツール選定を進める上でのポイントをご紹介していきます。前提としてツールを導入・運用するという手段が目的とならないようにしましょう。導入しただけで成果を出すことはできません。目的に沿ったKPIを運用するにあたり、想定される課題が解決できる最適なツールを選定しましょう。以下のような課題が存在します。比較表を作って検討を進めましょう。
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- ● ビジネス課題が明確にできていない
- ● 営業担当が活動データを入力してくれない
- ● 営業活動上の改善点が見出だせていない
- 代表的なKPI管理ツールを紹介します。
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①「HubSpot」
- HubSpotは企業のマーケティング、営業、カスタマーサービスの業務を支援することを目的にアメリカのHubSpot社が開発したクラウド型のソフトウェアサービスです。世界120カ国以上、15万社以上の企業で利用されています。従来のプッシュ型のビジネス手法とは正反対の、「インバウンドマーケティング」を介しています。インバウンドマーケティングとは、顧客にとって価値の高い情報(コンテンツ)を顧客ごとにカスタマイズして送付することで、体験価値を高め、顧客を惹きつける手法です。例えば、DX推進に課題を抱える事業責任者が、ちょうどDX推進に関するメールを受け取り、メールの内容が自身が抱える課題を解決する非常にためになる内容だったとします。その場合、事業責任者は「送付主(送信元の企業)なら自身が抱える課題を解決してくれるかもしれない」といったポジティブな態度変容に繋がる可能性が高くなります。。HubSpotには様々なサービス内容が用途ごとにパッケージ化されて提供されており、マーケティング施策の内容やフェーズ、規模に応じてカスタマイズすることができます。低コストでツールを使い始め、必要に応じて徐々に拡充していくこともできます。サービスの設計思想が「インバウンド」にあるため、インバウンドマーケティングを強化したい企業にとっては相性が良いでしょう。サービスの特徴としては以下が挙げられます。
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- ● 無料のCRM機能を中核にマーケティング、セールス、カスタマーサービスが充実している
- ● 直感的に使用できるサービス設計で、ヘルプページやサポートも充実している
- ● 無料から始めることができ、ニーズに合わせてプランを選択することができる
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②「Salesforce」
- SalesforceはアメリカのSalesforce社が提供するクラウド型ソフトウェアで、世界トップシェアを誇るCRM/SFAサービスです。MA(Marketing Automation:マーケティングオートメーション)・SFA (Sales Force Automation:セールス・フォース・オートメーション)・CRMをひとつのプラットフォームで完結することができます。自社内の各部署に点在する情報を一元管理し、可視化することができるのが特徴です。
- 同社の事業は営業支援ツール(SFA)の提供からスタートしており、カスタマーサクセスを重視し、クライアントと顧客の関係構築におけるサポートがサービスの設計思想にあります。営業活動において、顧客との関係を構築することに課題を抱える企業にとって相性が良いでしょう。
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- ● アプリケーションやアプリケーションを開発するためのサービスが充実している
- ● 独自アプリケーションの開発ができるため自社課題を解決することができる
- ● 各部署に点在する顧客情報を一元的管理し、営業活動の最適化や業務効率化を図ることができる
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③「エクセル」
- Excel(エクセル)は、アメリカのMicrosoft社が提供している表計算ソフトウェアです。カスタマイズ性が高く、初級者から上級者まで幅広いユーザーを対象としており、使い勝手が良いのが特徴です。KPI管理はもちろん、人事評価や要件定義、マニュアル管理など、幅広い用途として活用することができます。
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KPI管理に向けた体制整備の重要性
- 経営メンバーや事業責任者がKPI管理に向けた体制整備を進める上では、ボトムアップではなくトップダウンで進めていくことが重要です。KPI管理を継続するためにも事業責任者が事業目的・KPI項目を設定し、ツールを活用した振り返りシートやレポート作成を営業企画担当と一緒にルール化しながら進めていきます。例えば、以下のようなルールの整備が必要です。
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- ● 5Wを明確にする(なぜ、いつ、誰が、何を、どこに、どのように記録するのか)
- ● 関係部署が複数の場合、役割や責任を明確にする
- ● 可視化されたKPIを用いて定期的に振り返りの場を設ける
- ● KPI、KPI可視化のための記録ルールを定期的に見直す
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KPI運用の教育
- 経営者がKPI管理の運用を始める際は、マネージャー、メンバー全員を集めてキックオフMTGを実施し、一定期間経過後に取得できたデータを元に振り返りを行う場を設けましょう。例えば以下のようなアジェンダを設定し、振り返りを実施することで、関係者間で共通の認識を持つことができます。
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事業面
- ● 目標数値と実績数値の差分を確認
- ● 上記の差分解消のための課題と具体的な解決策を見出す
- ● 課題を解決するために追加で必要な指標を確認
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運用面
- ● データ入力は問題なく出来ているか
- ● データ入力は継続できそうか、時間はどのくらい掛かったか
関係部署への説明・社内の意識統一を行う
- 以下質問も受けながら合意したうえで進めていきましょう。
- ● KPI管理の目的
- ● 現状の想定課題
- ● KPI管理を導入するに至った経緯
● KPI管理における業務内容と業務スケジュール
- ● ミドルマネジメントにとっての運用メリット
- ● 営業メンバーの運用メリット
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おわりに
KPI管理を徹底することで営業数値が視える化され、課題特定のスピードが早くなります。関係者間の共有認識を作りやすくなるため、経営・事業目標を達成する上で欠かせないでしょう。またKPI管理を成功させるためには、明確な目的を設定し、長期で取り組む必要があります。成果を出す期間を経営層、ミドルマネジメント、営業メンバーと合意形成をしながらトップダウンで進めていきましょう。