BtoB企業の営業活動における最大のミッションは、見込み客を顧客化することです。しかし、その過程で、ビジネス機会が失われてしまうケースも少なくありません。こうした失注を防ぎ、成約率を高めるためには、失注の原因を深く分析し、具体的な対策を講じることが重要です。
そこで本記事では、失注分析の重要性と効果的な手法を詳しく解説します。なぜ失注してしまうか原因を根本から理解し、具体的な改善策を講じることで成約率を高めることが可能です。最後までご覧いただくことで、本日からの営業プロセスの改善に役立ちますので、ぜひご覧ください。
失注分析とは
失注分析とは、営業活動で生じた失注、つまり取引の機会を逃した状況を深く理解し、将来の営業戦略を改善するための重要なプロセスです。そもそも失注は、顧客が競合他社の製品やサービスを選んだ場合や、何らかの理由で契約に至らなかったさまざまなケースを含みます。これらの状況を分析することで、失注の具体的な理由を明らかにし、それを根本から理解できます。例えば、顧客が自社と比較検討した結果、競合製品を選んだ場合、価格・機能・サービス品質など、どのような要因によるものかを分析します。その結果、契約に至らなかった原因は営業担当者の顧客ニーズの理解不足や、コミュニケーションの問題などと導き出すことが可能です。これらの分析を通じて、企業は具体的な改善策を検討できます。したがって、失注分析は単なる失敗の検証ではなく、未来の商談の成功に向けた営業基盤を構築するために欠かせないプロセスといえるでしょう。
失注分析を行う目的
企業が失注分析を行う目的は大きく3つあります。
失注の理由を明確に把握すること:失注が発生した際、なぜ顧客が他社の選択をしたのかを詳細に理解することが重要です。これにより、失注の根本的な要因を特定できます。
背後にある原因を深堀りすること:失注理由だけでなく、その背後にある根本的な原因を探求することが必要です。顧客のニーズや期待に合致しなかったのか、コミュニケーションの不足があったのか、競合他社との比較で何が不足していたのかなど、深い分析が求められます。
同じミスを繰り返さないための対策を講じること:失注分析の最終目的は、将来の商談で同じ失敗を繰り返さないための対策を策定することです。失注から学んだ教訓を活かし、自社の製品やサービス、営業戦略の改善に取り組み、競争力を向上させます。
このように失注分析は、単なる一時的な解決策ではなく、継続的な成長と改善を促進するための重要な手段です。したがって失注の理由を深く理解することで、自社のビジネス全体における弱点を特定し、改善の機会の発見につながります。
失注分析の効果的な進め方
効果的に失注分析を進めるためには、闇雲に行ってしまうのは非効率です。まずは、これまでの失注理由を分類し、それらを詳細に分析することが重要です。ここでは、失注分析の効果的な進め方をステップごとに解説しますので、参考にしてください。このプロセスを通じて、より企業は実用的な洞察が得られ、改善策の立案に役立ちます。
1.失注理由を大分類する
失注理由は、大きく外的要因と内的要因に分けられます。どちらの要素が大きく影響しているのかを把握することが失注分析の出発点です。この時、失注がいつ発生したかも考慮しましょう。なぜなら、失注したタイミングによって理由が異なる可能性があるためです。続いては、外的要因と内的要因について詳しく見ていきましょう。
外的要因
外的要因は、主に自社外の出来事に起因する要素です。例えば、顧客企業を取り巻く環境の変化や優先度の変化、検討企業が属している業界全体の動向、さらには競合他社の介入などが含まれます。これらは企業の直接的なコントロール外にある要素であり、市場や業界のトレンドを把握することで失注理由の理解を深めることが可能です。
内的要因
内的要因は、主に自社内に起因する要素です。例えば、営業パーソンのアプローチ方法に問題があるケースや提案内容の質、営業プロセス上の課題といった個人的な要因のほか、提供するサービスや製品自体の問題があるといったケースが含まれます。これらの問題は自社の内部分析とアクションの見直しによって、改善を図ることが可能です。
2.外的要因における詳細な項目を把握する
主な失注要因を特定したら、その中でもどの課題のウエイトが重いのか、どの項目が主な失注理由となっているかを深く掘り下げていきます。このフェーズでは、具体的な失注理由や状況に焦点を当て、どの外的要因が最も影響を与えているかを明確にします。続いて主な失注理由を見ていきましょう。
企業を取り巻く環境に理由がある
顧客企業の内部環境の変化は、しばしば失注の原因となります。例えば売上や業績の変化、解決したい課題の優先度の変化、担当者の異動や退職などが含まれます。例えば、財務上の制約により、顧客が計画を保留にするケースや、担当者の変更により事前の合意が覆される場合があります。これらの環境変化をタイムリーに察知し迅速に対応することは、失注を防ぐために重要です。
業界特有の課題・特徴に理由がある
業界全体が何らかの問題に直面している場合も失注の原因になり得ます。実際に法律や規制の変更、市場全体の動向などが、商談に直接影響を与えることも少なくありません。例えば、新しい規制により特定のサービスが必要なくなる場合や、業界全体の需要減少によりプロジェクトが中止されるケースがあります。したがって、これらの業界特有の動向を理解し、適応する戦略を立てることが重要です。
競合サービスに理由がある
自社に比べて競合他社のサービスが優れていることも失注の一因となることがあります。具体的には、機能面や費用面のほか、営業スタッフの人柄や提案力など、多角的な要因が考えられます。例えば、競合の方がコストパフォーマンスが高い、あるいは機能面での差別化が図られているケースが挙げられます。したがって、常に競合他社の存在を念頭に置き、競合に比べたときの自社の弱点を把握し改善することが重要です。
3.内的要因における詳細な項目を把握する
内的要因の分析では、失注の主要な原因が自社内にあるかどうかを明らかにします。具体的には、提供するサービスの質、営業パーソンのアプローチの仕方、営業プロセス全体の課題などが挙げられます。ここでは、それぞれの内的要因について詳しく見ていきましょう。
自社サービスに理由がある
BtoB企業、特にSaaS企業では、サービス自体が失注の理由となるケースが少なくありません。具体的には、以下の理由が考えられます。
・市場に受け入れられていない
・企業が必要とする機能要件が不足している
・費用対効果が低い
・競合に比べて利用料金が高い
・セキュリティ要件の不足
例えば、法に関するサービスを扱っているにもかかわらず、法的要件を満たせていないサービスは、顧客が求める要件を満たせず失注の大きな原因となるでしょう。したがって自社サービスの改善は、顧客満足度を高めるほか、そもそも失注を減らすために重要です。
営業パーソン個人に理由がある
営業パーソン個人のアプローチや手法に問題がある場合も、失注の理由となり得ます。具体的には、以下の理由が考えられます。
・提案がニーズにマッチしていない
・ヒアリング不足により提案の質が低い
・説明力不足によりメリットが伝わっていない
・顧客の懸念点に対する不安解消ができていない
・企業の購買時期ではないタイミングでの提案
・予算感の合わない企業へアプローチしている
・決裁者など、キーパーソンへのアプローチ不足
各営業パーソンの営業活動をモニタリングし、どのステージでの失注が多いか分析することで、営業組織が抱える課題の把握が可能です。これにより、問題が個人にあるのか、それとも営業プロセス全体にあるのかを判断できます。
営業プロセスに理由がある
営業プロセスに問題があることも、失注につながる大きな要因の一つです。具体的には、以下の理由が挙げられます。
・ターゲットとしている業界・業態が誤っている
・営業活動の工数が掛かりすぎて、適切なタイミングでアプローチできていない
・営業プロセスが個々の営業パーソンに委ねられ属人化している
・営業人員不足により、アプローチ数が足りていない
営業目標を達成するためには、現在のリソースで営業プロセスの効率化を図ることが大切です。例えば、CRMツールなどを導入し営業プロセスのスコアリングと改善を図ることで、失注を減らし、効率的にターゲット企業へアプローチできます。したがって、営業活動の効率化や目標達成のためには、正確なターゲット設定、適切なツールの使用、そして統一された営業プロセスの確立が必要です。さらに、営業人員の適切な配置や教育も、効果的な営業プロセスを実現する上で重要な要素となります。
4.失注理由が4つの不に該当していたか把握する
「4つの不」とは、Salesforceが提唱する営業の心得のことで、顧客の「不信」「不要」「不適」「不急」を指します。いわば顧客が抱く「心の壁」であり、営業の場面で顧客が商品やサービスを購入しない理由のことです。
不信:不信は、顧客が営業に不信感を抱くと商品やサービスを購入しない状況を指します。例えば、営業電話を受けた企業が不信感を抱く場合などです。こうした場面では、自社の特徴や信頼性を明確に伝える必要があります。
不要:不要は、顧客が提供される商品やサービスを必要と感じない場合です。顧客が問題を認識していない、または解決できないと思い込んでいることもあります。この場合は、自社の商品やサービスがどのように問題を解決するかを伝えることが重要です。
不適:不適は、顧客が「自分には使いこなせない」「合っていない」と感じている場合です。例えば、ITツール操作に自信がなく、高機能なサービスを使いこなせないと感じる場合などがこれに当てはまります。
不急:不急は、お客様がその商品やサービスを今すぐには必要としていない状態を指します。例えば、顧客が現在の状況に満足している場合や、今後の予算計画に入っていない場合などがこれに当たります。不急の状態を克服するためには、顧客の長期的なニーズや将来の計画を理解し、適切なタイミングで提案を行うことが重要です。
「外的要因」の対策方法
外的要因は、企業が直接的にコントロールすることが難しい要素ではありますが、その中でも対策は存在します。重要なのは、外的要因が発生する可能性を減らすことです。ここでは、外的要因の対策方法を2つ紹介します。
1.リードタイムが短くなるようなアプローチを心がける
外的要因が発生する一因として、見込み客に長い検討期間を与えてしまっているケースがあります。すなわち、自社に決めきれない不安を残し続けていることが原因です。リードタイムが伸びることによって、さまざまな外的要因が入り込む余地を与えてしまえば、失注の可能性が高まります。したがって、リードタイムが短くなるようなアプローチを心がけることが大切です。具体的には、顧客が現在直面している問題を客観的かつロジカルに分析し、共通の課題を明確にすることが重要です。
<対策例>
洗い出した課題を自社サービスであればどのように解決できるかをできる限り詳細に伝える
課題が解決した後にどのような未来が待っているのかの予想図を織り交ぜた提案を行う
費用対効果を具体的な数値を交えて提示する
競合サービスと比較した自社サービスのメリットを業界ごとに最適な形で提示する
このように、見込み顧客の不安を払拭することでリードタイムの長期化を防ぎます。また、提案の際は自社サービスの利用によってもたらされる未来のビジョンを描き、顧客が抱える問題の解決後の状態を明示することも効果的です。結果として、顧客は自社のサービスを利用することで得られる価値を理解しやすくなり、迅速な意思決定が促されます。
2.競合分析を行い、負けない提案を作成する
競合に起因する失注を防ぐためには、自社と競合の強みと弱みを理解し、顧客ニーズに基づくバリュープロポジション(Value Proposition)を明確にすることが重要です。バリュープロポジションは、米国マッキンゼー・アンド・カンパニーのMichelle J. Lanning氏らが1988年にまとめた小論文「A business is a value delivery system」で提唱されました。この概念は、「企業が顧客に提供する価値」を示したものであり、すなわち、「顧客のニーズが高く、かつ競合他社が提供できない、自社独自の価値」を指します。自社のバリュープロボジションを理解し、提案に活かすことで、競合との差別化を図り、顧客にとって魅力的な選択肢となるような提案が可能です。一方、バリュープロボジションを明確化するには、競合の製品やサービスに対する詳細な分析が欠かせません。さらに、自社の提案がどのように競合と異なるか、またどのようなメリットを提供できるかを明確にすることが重要です。
「内的要因」の対策方法
内的要因による失注を防ぐためには、サービスの改善、営業プロセスの統一、そして営業パーソンの教育という3つ観点で対策を図る必要があります。これらの要素は相互に関連しており、統合的なアプローチが効果的です。ここでは、それぞれの内的要因の対策方法を解説しますので参考にしてください。
自社サービスを改善する
自社サービスに関連する失注理由には、機能要件の不足、法的要件の満たなさ、費用対効果の低さ、利用料の高さ、セキュリティ要件の不足などがあります。これらは主に「4つの不」における「不適」に該当します。サービスの改善は、単に開発チームに任せるのではなく、現場の声を開発チームに届け、顧客のニーズに即した製品開発を促すことが重要です。営業チームは、顧客からのフィードバックや失注の理由を収集し、それを開発チームに伝えることで、サービスの改善優先順位を明確にし、顧客満足度を高めることができます。
営業プロセスを統一する
営業プロセスを標準化し、各営業パーソン間でのパフォーマンスのバラつきを減らすことは、内的要因の対策において極めて重要です。具体的な対策としては、業界やターゲット顧客の再分析、適切な営業ツールの導入と活用、営業人員の適切な配置と教育が挙げられます。これらの取り組みは、「不急」「不要」といった要因への対処に役立ちます。特に、ターゲット業界・業態の見直しや適切なツールの利用は、営業効率の向上と顧客ニーズへの適切な対応を可能にします。
営業パーソンを教育する
営業パーソンの教育とスキルアップは、営業成績の向上に直結します。具体的には、顧客のニーズに合った提案の方法を学び、適切なタイミングでのアプローチを行うことが重要です。これには、顧客に対する事前のヒアリングを徹底する、提案内容を明確にし、顧客のメリットを強調する、適切なタイミングでのフォローアップを行うなどが挙げられます。これは特に「不信」「不要」という感情を克服するのに役立ちます。さらに、商談のスケジューリングやターゲット企業の選定に関する意識づけも重要です。間違ったタイミングやターゲット外の企業にアプローチすることは、効果的な営業活動を阻害します。営業パーソンが統一されたプロセスに沿って動き、個々のステップでの改善点を特定し、その改善を実施することで、全体としての営業効率と成功率が向上します。
おわりに
失注分析はBtoB企業にとって重要なプロセスであり、成功への道を開く鍵となります。失注の原因を特定し、その解消に努めることで、より効果的な提案や商談の構築が可能になります。失注分析を行い、何が原因かを特定した上で、4つの不の解消ができる提案・商談を組み立てましょう。失注分析後は、営業パーソンの教育、営業フローの構築、営業ツールの活用などの取り組みが必要です。もし、失注分析や要因への対策にお悩みの場合、ゼンフォースでは営業プロセス各領域での支援を行っていますので、ぜひお問い合わせください。