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営業パイプライン管理におけるKPI設定とは?海外調査に見る参考値や運用のポイントを解説

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目次

営業パイプライン管理を成功させるためには、目標達成までのプロセスや状況を把握できるKPI(Key Performance Indicators)の設定が不可欠です。しかし、パイプライン管理そのものの目的や意義を理解しきれておらず、KPIの設定方法に悩むBtoB組織や担当者も多いかもしれません。本記事では、営業パイプライン管理におけるKPI設定の基本と注意点、そして運用を成功させるポイントを解説します。

パイプラインとは  

パイプライン管理とは、文字どおり、リード獲得から成約に至るまでの営業活動を一本のパイプに見立てて可視化し、分析や改善を行うためのマネジメント手法です。パイプラインの長さやフェーズは、企業のビジネスモデルにより異なります。各フェーズで管理を適切に行うことで、営業チームは効率的なリードの生成、成約率の向上、売上増加などの目標を達成することができます。

パイプライン管理の基本はこちらの記事をご覧ください。

パイプライン管理の導入ステップ

KPI設定の前に、そもそもパイプライン管理の目的を理解する必要があります。パイプライン管理は、自社の営業活動を可視化することで課題を特定・解決し、営業生産性を上げるためにあります。従来の営業スタイルは、受注までのアクションが営業担当に大きく委ねられており、組織や個人が抱えている課題を把握しづらい構造でした。適切なパイプライン管理ができれば、営業マネージャーが課題の改善に通じる適切な指示出しやサポートに集中できます。また、マーケティングやインサイドセールスとの連携を強化することにもつながります。一方、パイプライン管理の導入には、まず部門間での調整が必要であると認識することが大切です。数日間や数週間で、効率的な管理が実現できるわけではありません。調整が難しく漏れが生じる可能性やリードの数が減少するリスク、または営業案件の滞りが生じることもあります。営業マネージャーだけではなく、各ポジションや業務担当と目線を合わせることが大切です。これらをふまえ、パイプライン管理に必要なステップを確認しましょう。

パイプラインフェーズの定義

はじめに、自社の営業プロセスを、パイプラインとして適切なフェーズに分解する必要があります。ただし、細分化しすぎると入力・計測・分析の手間が増えるため、ボトルネックの特定と売上予測の目的に合わせて、最低限のフェーズに分けることが重要です。次のフェーズを一例として見てみましょう。

1. リード獲得(Lead Generation)
ターゲット市場や顧客ニーズに基づいて見込み客を発見し、興味を持たせる活動を実施します。たとえば、ウェブサイトへのアクセス、広告への反応、イベント参加など。

2. ヒアリング(Lead Qualification)
興味を示した見込み客の資格を審査し、営業チームに対象となる優良なリードを選別する。リードのニーズや予算、購買意欲などを評価する。

3. 初回商談(Opportunity)
ニーズ分析と提案  選別されたリードとのコミュニケーションを深め、具体的なニーズを理解し、カスタマイズされた提案を行う。顧客の要望に応えるためのソリューションを提示する。

4. 提案(Quote & Negotiation)
 提案に基づいて見積もりを提示し、価格や契約条件の交渉を行う。顧客の要求に適切な形で対応し、契約に近づける。

5. クロージング(Contract Signing)
最終的な合意に達し、契約書を締結する。取引が成立した際に、営業成績として正式にカウントされる段階。

6. 受注(After-sales Support)
顧客の満足度を高め、リピートやアップセルの機会を探るためにも、受注とともにサポートや顧客対応を行う。これらのフェーズに分解することで、営業パイプラインの進捗状況を把握しやすくなり、ボトルネックの特定がしやすくなります。同時に、売上予測に必要な情報を得られるために、営業プロセスを最適なレベルで把握し、効果的に管理することが可能です。

各フェーズのゴール設定

各フェーズでは明確なゴールを設定することが重要です。チーム間でゴールの認識が異なると、コミュニケーションで行き違いが発生し、パイプラインがうまく機能しません。たとえば、見込み顧客に関する事前情報のヒアリングが足りていないと、営業担当は顧客のニーズに合わせた提案がしにくい場合があります。パイプラインにマーケティングやインサイドセールスなど複数の部門が関わる場合は、部門間での受け渡し基準に、SLA(Service Level Agreement)を用いることをおすすめします。SLAとは、サービス水準合意と呼ばれ、企業が顧客に提供することを約束するサービスレベルの概要を規定した文書です。顧客に対して提示される文書ですが、社内でも、売上をあげるためのアプローチが異なる部署間でSLAを設定することで、担当者間の認識のバラつきを防ぎ、共通のゴールに向けた連携を強化することができます。たとえば、ヒアリング段階で、ゴールを単に「商談アポイント獲得」とだけ定めるのでは不十分です。「初回商談の担当者名と日時をSFAに入力完了する」というような、完了したことを明確に計測できるアクションをゴールに設定することで、進捗をより具体的に把握できます。さらにゴールを明確にするために、BANT条件(予算、権限、必要性、タイムフレーム)も設定するとよいでしょう。明確なゴール設定により、チーム全体が一貫した目標に向かって努力し、混乱を避けることができます。

KPI設定

先ほどのSLAの考え方は、KPI(Key Performance Indicator)の設定に役立ちます。各フェーズごとに明確な指標を定め、進捗を定量的に評価することで、パイプラインの管理をより効果的に行えるでしょう。次の図は各フェーズにおけるKPIの指標例です。フェーズ別 KPI 指標例

KPIの指標例
・リード総数
・コンバージョン率
・案件数/案件化率
・案件の取引規模
・MQL数/MQL率
・SQL数/SQL率
・商談数/商談化率/平均商談期間
・成約数/成約率/平均取引金額

パイプラインの取引状況は常に変化します。例にあげた指標をチェックすることで、受注までの目標に対する進捗状況を把握できます。各KPIの指標は、年間の売上目標、過去の案件などの成約率・商談化率・案件化率データから算出することで精度を高めることができます。

KPI目標の算出方法については、こちらの記事を参考にしてみてください。

計測・レポーティング運用の構築

設定したパイプライン上のKPIは、正しい集計やレポーティングによって適切に数値管理することが大切です。レポート作成は、Excelの無料テンプレートもありますが、効率的に実施するにはSFA(営業支援システム)の導入が有用です。タイムリーなボトルネックの把握や売上予測をするためにも、週に1度の頻度で計測と振り返りを行うことが望ましいでしょう。近年ではRevOps(レベニューオペレーション)のプロセスを取り入れるBtoB組織も増えています。

RevOpsに関しては、こちらの記事を参考にしてみてください。

パイプラインの分析事例

パイプライン管理の目的は、ボトルネックを把握し、迅速に改善し、将来の売上を精緻に予測することです。この章では、パイプラインのデータを分析し、改善につなげるための事例を紹介します。

営業プロセスのボトルネック特定

パイプラインに設定したKPIを基準として、各フェーズごとにアクションが止まっているリードや商談がないかを可視化します。
KPI 可視化 課題
たとえば組織Aでは、「リード獲得」から「ヒアリング」に課題があると想定されます。獲得したリードに対して、事前に興味づけができるコンテンツを配信できているか、ヒアリング項目に担当者のばらつきがないかなど、振り返りが必要です。また組織Bでは、初回商談から提案までに課題があると考えられます。初回商談から、顧客のニーズに合わせたプランを提案できているか、見積を提示する相手に決裁権や推進力があるかを見極められているかなどを見直すことが大切です。各フェーズでの目標設定は、ビジネスモデルや商品・サービスによって目指すべき基準が異なるため過去の実績を基準とすることが一般には多いでしょう。初めてパイプライン管理に取り組む場合の参考値として、米国のLeandataによる調査レポートを紹介します。
パイプライン管理 参考 

出典:2022-Inbound-Outbound-Sales-Pipeline-Performance-Benchmarking-Report

それぞれの数値は、リードのフェーズが移行する中央値を示したものです。リードがMQL化される中央値は33%、MQLからSQL化は20%、MQLから受注化は8%という指標が出ています。自社のパイプラインに当てはめてみてください。

リード獲得経路の評価

見込み顧客がどの媒体から自社に問い合わせをしているかによって、商談化率や成約率に差が現れることがあります。リード獲得経路ごとに商談数、成約数、受注金額といったKPIを比較することで、どの経路に対する金額や人的リソースの投資をすべきか明らかにすることができます。

成約率 KPI

出典:2022-Inbound-Outbound-Sales-Pipeline-Performance-Benchmarking-Report-eBook.pdf

先ほどのLeandataによるレポートでは、インバウンドリードの成約率は25%と示され、アウトバウンドリードよりも5%高い数値が出ています。企業側から広告やDMを通じて顧客にアプローチするアウトバウンドリードよりも、顧客が必要とする情報やコンテンツを揃えて、自発的な購買行動を促すインバウンドリードのほうが、より確度の高い顧客である傾向が掴めます。成約率に加え、1リードあたりの獲得コスト、平均取引金額、平均商談期間なども可視化することで、マーケティング部門におけるチャネル戦略への参考値として、パイプラインの各フェーズに安定的にリードを供給できるように予算やリソースを配分する際の指針となるでしょう。

営業担当の現状把握

各フェーズでの課題や状況を営業担当者ごとにKPIをもとに可視化することで、案件の割り振り状況や、各担当の営業課題を明らかにすることができます。たとえば、リードのチャネルや顧客ニーズの条件が同じにもかかわらず、営業間で受注率に差が生じている場合、営業担当者の提案内容にばらつきがある可能性があります。営業マネージャーがこうしたKPIを常に把握しておくことで、各担当への案件の割り振りの見直しや、1on1でのフィードバックなどを通じてタイムリーに改善することができます。なお、パイプラインが滞る要因は一概に営業担当のスキルの差だけではないため、マネージャーは組織としての顧客へのアプローチも併せて見直すとよいでしょう。

組織として属人化を避け営業効率を高める方法はこちらをご覧ください。

パイプライン管理のポイント

リード獲得から受注までは複雑なプロセスが存在します。最終的な目標である自社の利益創出のためにも、効果的なパイプライン管理を行うためのポイントを把握しておきましょう。

入力データの標準化

パイプライン管理を成功させるためには、正確なデータ入力が欠かせません。会社名や企業規模、業界、役職、職位などの属性情報や、獲得経路をはじめとした行動情報は、MA(マーケティングオートメーション)を活用して、極力標準化した形で管理します。各フェーズに進む際には、商談履歴や成約の見込み金額、確度などの情報も、営業担当者の主観に左右されず一貫性を持つように標準化します。偏りなくデータ取得ができるためにも、入力マニュアルを作成することが有効でしょう。時間がかかる部分といえますが、これにより、情報の正確性や比較可能性を高め、的確な分析や評価ができるようになります。

集計・分析の自動化

近年では、データ入力を支援するツールも多数提供されています。手動での入力ミスや漏れを減らするためにも、データの集計や分析の自動化ツールの導入を検討しても良いでしょう。SFA(Sales Force Automation)を活用すれば、定期的にパイプラインデータを確認するためのダッシュボードの作成が可能です。集計や分析の自動化で、マーケティングやインサイドセールスからの施策やアプローチから離脱してしまったり、営業フェーズで停滞してしまう原因を素早く察知することができます。市場の動向や営業活動における取引状況は、リアルタイムに変化するため、リードの動向に対して、速やかに対策を打ち出すことが大切です。

案件レビューの実施 

定期的な案件レビューは、特に営業マネージャーにとって重要であり優先度を高めるべき業務です。まずは、各営業担当者の案件に関するデータを確認し、現在のパイプラインにある商談から、最終的な売上見込みを推定します。売上見込みの計算には、次のようなデータに着目します。

・パイプラインの受注フェーズに近い商談の件数
・提案した平均金額
・各商談のステージ
・次のステージに移行する商談件数の割合

パイプラインの最終フェーズに近い案件に注力することで、営業担当も、迫りつつある商談を重点的に追跡することができ、マネージャー側も成約に導くための対策やサポートを行うことができます。
また、直近で商談化した案件を中心にレビューを行うことも、営業担当者の育成と将来の売上最大化のために有効です。営業担当者のアプローチやスキル、クロージングの手法を評価し、改善点や成長のためのプランを明確にしていくことに役立てることができます。

さらに、案件レビューは、コミュニケーションを深める機会でもあります。営業担当同士が、進捗状況や課題、成功体験を共有することで、情報の共有やベストプラクティスの交換を促進します。普段顧客に向いている時間が多い担当者とも、マネージャーは対話を通じて、営業担当者のモチベーション向上やスキルアップにつなげることができるでしょう。マネージャーと担当者が協力し、各案件の状況を精緻化し、具体的なアクションを共有することで、組織全体の業績向上に寄与することができます。

おわりに

営業パイプラインにKPIを適切に設定することで、売上予測の精度向上やボトルネックの可視化はもちろん、リード獲得戦略の見直しや営業担当者の状況把握などにも役立ちます。本記事で紹介したポイントをぜひ効果的なパイプライン管理に役立ててみてください。

著者情報
原 千裕(はら ちひろ)
Chihiro Hara
成蹊大学文学部英米文学科卒。新卒でホテル事業のフロントCS業務を経て2018年にオーストラリア・メルボルンに留学。帰国後、カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社でBook&Cafeをコンセプトとした店舗の運営マネージャーを経験。現在はSaaS型POSシステムの開発・提供を行う企業でインサイドセールス職に従事している。