「レべニューオペレーション(RevOps)」という言葉をご存知でしょうか?ここ数年で注目され始めた概念ですが、言葉を聞いたことはあるものの内容はよくわからないという方も多くいらっしゃると思います。
レベニューは英語で「収益」という意味で、レベニューオペレーションは「収益を最大化するために各部門が連携するプロセス」を指します。現在のビジネスでは、1回の購入だけでなく、リピート購入やサブスクリプション契約による継続的な購入を目標とすることが多くなっています。お客様に高品質な顧客体験を届ける必要があり、そのためにレベニューオペレーションが求められているのです。今回は話題のレべニューオペレーションについて、成功事例を交えながら解説します。
レベニューオペレーションとは?
レベニューオペレーション(RevOps)は、マーケティング、セールス、カスタマー・サクセスなどの収益向上に影響を与える部門が連携し、シームレスで一貫性のある高品質な顧客体験を提供することで、ビジネスの収益を最大化するプロセスのことです。その過程では、実際に各部門が連携して動けるよう、バックアップするレベニューオペレーションのチームを作ります。チームの責任者であるCRO(最高レベニュー責任者)を筆頭に、組織を横断した連携を取り、収益の最大化を目指します。
出典:Coefficient
レベニューオペレーションの仕組みを構築すると、収益の目標設定を統一することが可能です。多くの企業は部門ごとに目標数字を設定していますが、部署間で整合性のない目標を掲げていると、収益には結びつきません。
例えば、マーケティングが「見込み客数」のみを目標にする場合、目先の目標を達成するために見込み度が高くないリードをセールスに渡すと、受注数が伸び悩んでしまいます。あるいは、セールスが「受注数」のみを目標にする場合、大きな値引きなどで強引に獲得した顧客は、カスタマーサクセスがアップセルやクロスセルを行うことが難しくなってしまいます。レベニューオペレーションによって、各部署やチームの垣根を超えてデータや情報を共有し、収益という一つの目標に向かって取り組むことで、より効果的な戦略を立てることができます。売上データの分析、マーケティング戦略の改善、顧客体験の最適化などを行い、収益性の向上を実現します。
構成する3つのオペレーション
レベニューオペレーションは、顧客対応を担っているセールス、マーケティング、カスタマーサクセスの3部門が密接に関わっています。これらの3部門が連携し、シームレスで一貫性のある高品質な顧客体験を提供することが重要です。
セールスオペレーション
セールスオペレーションは、営業組織内の活動プロセスに焦点を当て、最前線の営業チームの成果を最大化できるよう、サポートし促進します。SFAやCRMツールの主管部署であることが多く、営業データ分析やパイプライン管理、契約書作成などあらゆるサポート業務を担います。営業活動のデータを駆使し、あらゆる技術を活用しながら、システムや仕組みを構築します。
マーケティングオペレーション
マーケティングオペレーションは、マーケティング業務が円滑に実行されるようサポートする部隊です。MAツールの主管部署であることが多く、マーケティング活動のデータやテクノロジーを活用して、業務の効率化や成果の最大化を図ります。
カスタマーサクセスオペレーション
サービス導入後のサポートや問い合わせ対応などを推進しているチームです。CRMに蓄積された顧客データをもとに、より良い顧客体験を届けられるようサポートします。
取り組む企業が増加している背景
従来、企業はセールスやマーケティング、カスタマーサクセスなどの業務を、それぞれ別々に行っていました。各部門が別々に仕事を行うことは当たり前のように思えますが、組織が大きくなると部門間での壁が出来上がり、高品質な顧客体験を提供することが難しくなってしまいます。結果として、解約などの収益減少につながりかねません。各部門が協力して一つの目的に向かうためには、「協力しよう」と話すだけでは難しいでしょう。仕組みから変えるために、レベニューオペレーションが求められているのです。レベニューオペレーションは、米国を中心に新しい職種として認識されています。LeanDataの調査によると、2018〜2019年の1年間でレベニューオペレーション部門をもつ企業の割合が35%から58%に増加しました。また、現在は採用していない企業においても、57%が将来的に導入する予定がある、と回答しました。
出典:LeanData
また、2018年のForresterの調査では、「レベニューオペレーション担当ディレクター」という職種が増えています。「チーフセールスオフィサー」「VPセールスオフィサー」「ディレクターセールスオペレーションズ」などの営業系の肩書よりも多い結果となりました。上記のようにレベニューオペレーションが進行している背景として、顧客の考え方がファネル型からフライホイール型にシフトしていることが挙げられます。
・ファネル型 広く集客をかけ、ふるいにかけた見込み客が結果として顧客になるという考え
・フライホイール型 顧客を惹きつけ、信頼関係を築き、満足してもらい、さらに顧客を惹きつけるという流れで顧客を中心に循環していく考え
出典:HubSpot
レベニューオペレーションによるメリット
レベニューオペレーションを導入するメリットは、「収益の予測」と「収益拡大」の2つが考えられます。
収益の予測
レベニューオペレーションを行うことで、収益を適切に予測できます。各部門からデータを集め、顧客の行動パターンを分析し、収益の動向を予測することが可能です。これにより、企業は需要に合わせて生産量を調整したり、在庫のコントロールを行ったりして、収益を最大化することができます。
収益拡大
SiriusDecisionsが2019年に実施した調査では、収益拡大のための連携体制が構築されている企業では、成長スピードが19%速く、収益性が15%高くなることがわかりました。また、リードの発生率が10%向上、社内の顧客満足度が15%〜20%向上し、GTM費用の30%が削減されるなど、様々な効果をあげています。レベニューオペレーションを導入することで、顧客の購買パターンを把握し、その情報を基にクロスセルやアップセルの戦略を立てることができます。また、顧客に対してパーソナライズされたマーケティングを行うことで、収益を拡大することができます。レベニューオペレーションは、企業にとって収益を最大化するために必要な情報を各部門に提供するため、競争力を高めることができるのです。
レベニューオペレーションの取り組み事例
ここでは、レベニューオペレーションによって成功した事例を3つ紹介いたします。
HubSpot
HubSpotは2006年に創業した、アメリカのSaaS企業です。現在では世界中で数百万の企業がHubSpotのソフトウェアを利用しており、世界的にも有名な企業です。このHubSpotでは、会社が急速に大きくなる過程で部門観の軋轢が生まれていき、顧客体験を低下させていることがわかりました。会社の目標はどんどん大きくなり、各メンバーは自分の組織の目標を考え、顧客中心の考えが出来なくなっていました。組織の壁を取り払うためにHubSpotが活用しているのが、「フライホイール」です。前途の通り顧客を中心とする循環型のビジネスモデルで、顧客を満足させるほど、さらに多くの新たな顧客を惹きつけられる考え方です。
顧客満足度を高めるためには、部門間の摩擦が少なくなければなりません。各部門の連携体制を確立するため、レベニューオペレーションチームを新たに発足させました。レベニューオペレーションチームが常に前面に立ち、各部門を横断して連携を取ることで、一貫性のある顧客体験を提供することに成功しています。
Okta
クラウドセキュリティ企業のOktaは、レベニューオペレーションをいち早く導入したことで、2009年の創業から11年で売上高5億ドル以上の上場企業へと変化を遂げ、現在も前年比50%以上の収益成長を実現しています。Oktaは、マーケティング、セールス、カスタマーサポートの各部署のオペレーションチームを一人のリーダーの下に集中させました。リーダーが収益を上げるために必要なビジネスのさまざまな部分について全体的に考え、運営面でも戦略面でもサイロをなくし、ファネルと顧客ライフサイクル全体を一貫した形で前進させることができるようになりました。その結果、Oktaは顧客のニーズに合わせた戦略的なマーケティング活動を展開し、売上の増加につながりました。また、顧客サポート部門も改善され、顧客満足度の向上にも貢献しました。
ItsMyCargo
Its My Cargoというデンマークに本社を持つ物流会社は、マーケティング、セールス、カスタマーサポートの各部門に分かれた業務を、レヴェニューオペレーションの考え方に基づいて統合し、顧客に対する総合的なサポートを提供することに注力しました。
レベニューオペレーションチームは、カスタマーショップのアナリティクスを使って、自社ショップサイト上のユーザー行動を追跡しました。このサイトには当初予約機能が設けられていましたが、大半のお客さまが「予約」ではなく「価格提示」を目的に来店していることがわかりました。そこで、このショップを見積もり専用にすることで、より少ないステップで予約できるようにし、ユーザー数をリニューアル前から72.73%増加させました。この顧客の行動をマーケティング活動にも展開し、セールスがより効率的に活動できるようになりました。また、カスタマーサポート部門も改善され、顧客満足度の向上に貢献しました。結果として、ショップの利用率を113%増加させ、収益を拡大することに成功しました。
レベニューオペレーションに取り組むタイミング
非常に高い成果を出すことのできるレベニューオペレーションですが、すべての企業が今すぐ取り組むべき、というわけではありません。取り組むタイミングが存在します。レベニューオペレーションは、ある一定程度事業が拡大し、従業員数が増え部門が確立したタイミングで取り組み始めるべきだと考えられています。レベニューオペレーションの実施にはコスト(人・金・時間)がかかるため、リソースに余力がないと難しいためです。LeanDataの調査によると「500社以上の顧客」「140人以上の従業員」「創業6. 5年以上」の3つの要件を満たす企業が、レベニューオペレーションを推進すべき企業だと定義しています。創業間もない企業や、従業員数が少数で営業部門とマーケ部門が分かれていない企業などは、レベニューオペレーションを採用するべきではないと言えるでしょう。
レベニューオペレーションを導入する際のポイント
レベニューオペレーションを導入するときに、押さえておきたいポイントを3つご紹介いたします。
業務分掌の確立
レベニューオペレーションはマーケティング、セールス、カスタマーサクセスなど部門をまたいで一貫した顧客体験を提供するため、各部門が行う役割を明確にしておくことが重要です。役割を決める際、デマンドウォーターフォールを参照すると良いでしょう。
デマンドウォーターフォールとは、BtoBビジネスにおけるリード獲得から成約までの構造を可視化したフレームワークです。ここでは、数あるウォーターフォールの中でも特に普及している「Rearchitected waterfall」を紹介します。
出典:LeadPlus
Rearchitected waterfallは、大きく4つのステージで構成されています。
1. Inquiry(お問い合わせ、最初の接点)
2. Marketing Qualification(マーケティング部門のリード選別)
3. Sales Qualification(営業部門のリード選別)
4. Close(クロージング)
詳細を見ると、1のInquiry(お問い合わせ)は以下の2つに分かれています。
・ インバウンド(広告やWebなどの反響/問い合わせ経由)
・ アウトバウンド(営業部門の新規開拓)
次に、2のMarketing Qualification(マーケティング部門のリード選別)は以下の4つに分かれています。
1. AQL (マーケティング部門が有望と考えるリード)
2. TAL (インサイドセールス部門も同様に有望と考えるリード)
3. TQL (営業に引き渡せる段階のリード)
4. TGL (インサイドセールスが獲得したアポイント)
3のSales Qualification(営業部門のリード選別)は以下の3つに分かれています。
・ Sales Accepted Lead(SAL)営業部門がマーケテイング部門から引き渡されたリード
・ Sales Generated Lead(SGL)営業が自ら作り出したリード
・ Sales Qualified Lead(SQL)上記2つの合計のリード
このように細分化されたプロセスを、どの部門が担うのか決めておくことで、部門間の業務区分が明確になり、シームレスな顧客体験を提供できるようになるでしょう。
KPIの設定
レベニューオペレーションの目的は収益を最大化することであり、共通の収益目標(KGI)に紐付いたKPIを設定することが重要です。KPIの項目は、リード数や商談数など売上に直結するものはもちろん、レベニューオペレーションの成果を測る項目も設定することが必要となります。ここでは、レベニューオペレーションに関わる指標を3つ紹介いたします。
LTV
LTV(Lifetime Value)とは、顧客が企業との取引を続ける期間における総収益を示す指標です。LTVを向上させるためには、顧客のニーズや要望に合ったサービスを提供して、継続的に利用してもらうほか、アップセルやクロスセルなどを通じた売上額の増加が必要となります。クロスセルは、既存の顧客に対して関連商品の提供をすることです。アップセルは、既存の顧客に対してより高価な商品の提供をすることです。
NPS
NPS(Net Promoter Score)とは、顧客が企業やブランドをどの程度推奨するかを示す指標であり、企業が顧客のロイヤルティを評価するために使用されます。NPSは、顧客が企業やブランドをどの程度愛用しているかを示し、口コミや紹介などにも影響を与えます。アンケートなどを通じて、定期的に集計を取りましょう。
解約率
商品の利用を停止した顧客の割合です。解約率が高い場合、顧客満足度が低く、シームレスな顧客体験を提供できていないと考えられます。
データの民主化
部門を跨いでオペレーションを進めるには、どの部門も同じデータを分析・活用できる状態にする必要があります。そのためには、様々なテクノロジーの活用が必要不可欠です。CRM、MA、SFAといった顧客データを管理するツールに加えて、それらを統合するレベニューオペレーションプラットフォームも世に出始めています。
おわりに
BtoBビジネス、特にサブスクリプション型のビジネスでは、何よりも一貫性のある良質な顧客体験の提供が大切です。レベニューオペレーションは、顧客を中心に据えてビジネスを進めていく手段です。オペレーションという言葉から内部に目線が行きがちですが、各部門のオペレーションの融合を進める必要があります。日本国内ではまだ事例が少ないものの、海外では効果が立証されており、レベニューオペレーションを行うためのシステムも登場してきています。事業規模が大きくなってきた企業様には、ぜひ取り組み始めていただければと思います。