営業の方であれば、「成約率」という言葉はよく聞くのではないでしょうか?同じ売上を上げるにしても、成約率が高くなれば以下のような不利を覆すことも可能です。
・ 案件数が少ない
・ 営業リソースが少ない
・ 営業活動に割ける時間が少ない
このような課題をお持ちの方には、今回の記事はぜひ読んでいただきたい内容です。では、どのようにしたら成約率を今よりも高くすることができるのでしょうか?そもそも成約率の正しい求め方とは?本記事では、成約率の意味や計算方法はもちろん、成約率を分析することのメリットや成約率を向上させるためのポイントについて詳しく解説していきます。
成約率とは?
成約率(Closing rate)とは、商談に至った案件数のうち受注(成約)にまで到達した案件数の割合を示す指標です。「受注率」という用語が用いられることもありますが、どちらも同じ意味で使用されます。
(出典:1up)
マーケティング・営業のプロセス全体で考えた場合、最初に設定したターゲットリードのうち全てが順当に受注に至るとは限りません。実際には、上図のようにマーケティング〜営業の活動を経て、漏斗のようにリード数は減っていきます。全体のリード数のうち、成約の確度が高いとして商談へと昇格されたリードを「SQL(Sales Qualified Lead)」といいます。一般的に成約率は、SQLの中から営業活動を通して実際に成約に至ったリードの割合を指すため、営業活動の成否を測るための指標として用いられます。
とはいえ、インターネットが発展した近年ではBtoBビジネスにおいてもオンラインでのマーケティング活動の幅が広がってきているため、取り扱う製品や業態によってはマーケティング部門でも成約率を注意深く追う必要性が増してきていると言えるでしょう。
成約率の求め方
成約率は、次の計算式で求められます。
たとえば、
SQL 200件のうち15件が成約まで至ったのであれば、15÷200×100で成約率は7.5%
受注件数が10件、ロストした商談が40件であれば、10÷(10+40)×100で成約率は20%
となります。
成約率の平均・目安
ここまで聞いて、「じゃあ大体何%くらいの成約率があればいいの?」「うちの組織の成約率は低すぎるの?」といった疑問を持たれた方もいらっしゃるのではないでしょうか?結論からいうと、成約率の算出には企業の業種や取り扱う製品、業態、市場の規模や市場内での立ち位置などさまざまな外的要因が絡んでくるため、一概にこれくらいの成約率があれば良いといった基準や目安はありません。
しかし、自社の現段階での成約率を測定しておくことでマーケティングや営業組織のパフォーマンスの「今の立ち位置」を知る目安となります。さらに一度目安を設定しそこからデータを蓄積していくことで、長期的に組織のパフォーマンスを分析するためのベンチマークとすることも可能となります。また成約率は、どこまでのリードを商談(SQL)とするか、といったマーケティング〜営業間の取り決めなどの内的要因によっても変化します。一度設定した目安に対して部門間の取り決めを見直し、マーケティング・営業のプロセス全体で効率的に受注件数を高めていくという観点でも、双方の部署が成約率を注意深く追うことは大切になってきます。
成約率を測定する効果
では、成約率を測定することにはどのようなメリットがあるのでしょうか?ここでは、成約率の測定で企業が期待できる効果について3つほど紹介します。
ニーズの高い顧客を見極められる
(出典:Search Engine Journal)
成約率を追うことのメリットのひとつ目は、よりニーズの高い顧客を見極められる、という点です。前述のとおり、アプローチをかけるべき顧客層へターゲットを絞ることはマーケティング〜営業のプロセス全体における一番最初のステップです。マーケティング・営業活動を通して結果的にどれほどの成約率が出ているのかを分析することは、最初のターゲットの選定の成否を判断する指標としても非常に効果的です。成約に至った顧客はどのような層(セグメント)なのか、より成約率が高くなる顧客セグメントはどれかなどを分析することで、ターゲットとなる顧客の解像度を高め、さらにニーズの高い顧客セグメントへのターゲット修正から成約率向上へつなぐ好循環を生むことが期待できます。
課題のあるプロセスを見つけられる
成約率の分析は、現状の活動プロセスにおける課題点を見つけるのにも役に立ちます。たとえば、リードの獲得から受注までの一連のプロセスを以下のようなパイプラインで管理していると、成約率の分析を効率的に営業活動の課題改善につなげられます。
このような営業プロセスの管理を成約率の分析と並行して行うことで、たとえば組織的にヒアリングのステップ改善に取り組んだ際に成約率がどう変化したか、反対に成約率を下げている要因となっているプロセスはどこかなど、プロセスごとの成否の評価を根拠づけて行うことが可能となります。成約率向上を妨げるボトルネックとなっているプロセスはどこか、改善に向け効果が高い課題から優先的にアクションを取るためにも、このようなパイプラインの管理と成約率の分析からは高い効果が期待できます。
パイプライン管理に関しては当ブログのこちらの記事でも紹介しています。ぜひあわせてご一読ください。
パフォーマンスの高い営業メンバーを見つけられる
組織全体の成約率の分析も重要ですが、営業メンバーひとりひとりの成約率の測定にも大きなメリットがあります。
(出典:The Books Group)
各メンバーの成約率を分析することで、高いパフォーマンスを発揮しているメンバーはだれかを見つけることができますし、さらにはそのメンバーの活動内容の分析から、なぜ高いパフォーマンスを発揮できているのか、どのような活動が好成績に結びついているのかなどを知ることができます。これにより成約率向上につながる活動内容をモデルケースとして、ノウハウの共有、さらには営業スキルの平準化や底上げに向けた組織的なアクションを取ることができます。
営業による成約率が上がらない要因
ここまで成約率の分析によるメリットについて紹介してきましたが、すでに自社で成約率の分析を行なっておりさまざまな営業施策を打っているが、なかなか現状の成約率から目にみえる向上が見られない、という方もいるかもしれません。ここでは成約率が上がらない要因のうち、営業によるものを紹介します。
成約に至るまでのプロセスが明確でない
いくら成約率の測定や分析ができていても、営業活動から顧客が自社製品の購入に至るまでのプロセスが明確でないと、なぜある商談は成約となり、別の商談はロストとなったのか、がわかりません。
そうなると成約率を営業プロセスごとに紐づけて分析することができず、結果的にどのプロセスを改善すれば成約率が上がるかの因果関係も見えてこないでしょう。
パイプラインを設定する
成約率の上下を営業活動の成否に紐づけて分析し、結果的にさらなる成約率の向上につなげるためには、営業活動の一連のプロセスをステージ別で分類し、その各ステージについて個別に成否を可視化できるようにしておく必要があります。
前項で触れたパイプライン管理は、営業組織におけるリードの獲得から成約に至るまでの一連のプロセスを一本のパイプに見立て、分析や改善を行うマネジメント手法です。このパイプライン管理を成約率の分析と並行して行うことで、各プロセスごとに特化した改善の打ち手を取れるだけでなく、それらの改善策の成否を成約率との因果関係から判断できるため、より効率的な改善のアクションが取れるようになります。
営業活動をパイプラインで管理する際には、成約率○○%向上など定めたKGIに対して、各プロセスでどの程度の達成水準とするのか事前にKPIの設定することが重要となるでしょう。
営業活動が不足している
営業活動のプロセスは組織的に管理できているが成約率が上がらないという場合は、単にメンバーの営業活動が不足していることが原因かもしれません。
活動状況を把握する
「パレートの法則(80:20の法則)」や「働きアリの法則(2:6:2の法則)」などで述べられていますが、あらゆる集団における個人ひとりひとりの生産性や活動量には大きな差が生まれがちです。営業における活動の個人差を極力減らすには、各営業メンバーの活動状況をしっかりと把握し、可視化できる状態にすることが重要です。
(出典:Gong)
また営業プラットフォーム企業Gongの調査によると、平均的な営業担当者は、四半期の最終月に、その前の2か月よりはるかに多くのセールスコールをかけていることがわかっています。しかし同時に、このような「駆け込み」のセールスコールの成功率は、他の月に比べて圧倒的に低迷していることが多いこともわかっています。
営業支援ツール(SFA)などのレポート機能を活用し、活動量だけでなく、活動のタイミングなども可視化できるとなお良いでしょう。
営業生産性を向上させる
HubSpot Japanによる日本の営業組織の意識・実態調査では、日本企業の法人営業担当者500名以上に対して「働く時間のうちムダだと感じる時間の割合」を質問したところ、平均して「働く時間のうち25.5%」を「ムダな時間」と感じていたとの驚きの結果が発表されています。この「ムダな時間」を金額換算すると、日本は年間でおよそ8,300億円もの経済損失を抱えている計算になります。
(出典:PR Times)
営業組織の生産性を向上させる方法は、企業の製品・業態や市場での立ち位置などによりさまざまな手法が考えられます。
当ブログでは、営業効率化をテーマにこちらの記事にて考え方やさまざまなアプローチについて紹介しておりますので、ぜひご一読ください。
商談スキルが不足している
営業のプロセスの管理はバッチリ、営業メンバーの活動量も申し分ない、なのに成約率が上がらないという場合は、営業メンバーの商談スキルが不足していることが原因かもしれません。商談スキルに対する評価は多くの場合、主観の評価と客観の評価に大きな開きがあることが少なくなく、なかなか個人では改善が難しいこともあります。たとえばHubSpotによる調査では、自分の営業スタイルは強引ではないと考えている営業担当者は全体のわずか17%程度なのに対し、担当営業が強引だと考えている顧客は50%にのぼるという結果が出ています。
(出典:HubSpot)
メンバーひとりひとりの活動記録を可視化し、成約率と紐づけた正確なパフォーマンス指標をもとに改善をはかることが重要です。
営業フレームワークの活用
営業メンバーの商談スキルを強化し組織的に底上げする手法のひとつとして、BANTやFABE分析などの営業フレームワークの活用は効果的です。
(出典:HubSpot)
たとえば、BANTは元々米IBM社で考案された営業ヒアリングのフレームワークで、
・ Budget(予算):製品を購入できる予算があるか
・ Authority(決済権):製品を購入するための決定権・決済権は誰にあるか
・ Needs(需要):リードのニーズは何か 提供する製品と合致するか
・ Timeframe(導入時期):導入時期が決まっているか どれくらいかかるか
ヒアリングで得た情報をこれら4つの要素に分類・スコアリングし、商談の有望度合いや進捗を評価するために使用されます。営業組織全体の商談スキルを平均的に底上げするには、このような定型のフレームワークを活用しつつ社内でノウハウを伝達し、スキルの底上げを図る取り組みが効果的です。
知識・ノウハウの集約と共通化
また、上記のような知識・ノウハウを営業メンバーが垣根なくアクセスできるポイントに集約・共通化することも重要です。せっかく有用な知識やノウハウも限られたメンバーしかアクセスができなければ、営業組織全体のスキルアップは望めないでしょう。誰もがアクセスできる社内ネットワークや、SharePointなどの情報共有ツールを上手く活用し、属人的ネットワークに依拠しない効率的なノウハウ共有の仕組みを導入することで、組織全体としての効率・効果を上げることが可能となるでしょう。
マーケティングによる成約率が上がらない要因
「成約率とは?」の項で前述しましたが、成約率は営業部門のみが注視すべき指標ではありません。リードの獲得から受注までの一連のプロセス全体を考えるうえで、マーケティング部門も注意深く成約率について分析することが重要です。ここでは成約率が上がらない理由について、マーケティング活動における要因と改善策について紹介します。
リードが不足している
成約率が伸びないことの理由として、そもそものリードが不足しているということが考えられます。
顧客接点(タッチポイント)の洗い出し
リードが上手く獲得できていない場合、マーケティングアプローチにおける顧客接点(タッチポイント)にズレが生じている可能性があります。タッチポイントとは、顧客が企業と接することである製品やサービスに対しての考え方に変化や影響を受けるポイントのことを指します。近年、顧客の購買行動はオンライン化が著しく、情報取得のために訪れるチャネルの幅は年々と複雑化・多様化が進んでいます。
(出典:EVERRISE)
企業のマーケターとては、ターゲット層である顧客の訪れるチャネルに効率的にタッチポイントを設置することが重要となりますが、多様化する購買行動を全て完全に把握することは難しいです。設置場所の継続的な改善はもちろん、先入観にとらわれないフラットな目線で調査を行うことがタッチポイントの効率的な設置には大切です。
ペルソナ・カスタマージャーニーマップを作成する
顧客の購買行動を予測し、効率的なタッチポイントを設置するためには、ペルソナおよびカスタマージャーニーマップの作成が必要不可欠です。ペルソナ(Persona)とは、企業が製品やサービスのターゲットとする顧客の代表的な特徴を想定した架空の人物像のことです。
(出典:HubSpot)
ペルソナの人格を細かく設定することで、この特定の人物が自社製品をどのような経緯で認識・検討し最終的に購入に至るのかの行動パターンである「カスタマージャーニー(Customer journey)」を予測することができます。
(出典:HubSpot Japan)
カスタマージャーニーマップで、顧客がどのような経緯でどこのチャネルに情報を取得しに訪れるのかが可視化できれば、効率的なタッチポイントの設置にもつなげられます。リード獲得に苦戦しているのであれば、まずペルソナとカスタマージャーニーの設定を見直してみるといいかもしれません。
顧客理解の不足によるリードの質の低下
リードは大量に獲得できているのに成約率が向上しないという場合は、リードの質、ひいては顧客理解の不足が原因かもしれません。
SFA・CRMの活用
マーケティングオートメーションツール(MA)/顧客管理ツール(CRM)/営業支援ツール(SFA)などの導入により、顧客情報を一元管理することで、マーケティングや営業など各部門での連携が取れるようになり、顧客理解を深め、顧客体験の向上を図ることができます。またそれらを活用し、マーケティング・営業の両部門間において、ぺルソナの再確認や、顧客の購買プロセスを見える化するためのカスタマージャーニーの見直しを共同で行うことも重要となります。
おわりに
いかがでしたでしょうか?成約率は営業、それも個人としての評価指数というイメージが強いですが、リードの獲得から受注までのプロセス全体を通して見ていくと、営業組織全体としてはもちろん、マーケティング部門としても決して軽視できるものではありません。マーケティング・営業で共通のKGIとして成約率を設定していくためには両部門間の密な情報共有やルールの設定が必要となりますが、それを可能とするツールも近年では増えてきています。本記事が参考となり、成約率向上の施策検討に役立てていただければ幸いです。