売上を伸ばすために、優秀な営業担当者を獲得したいと考える企業が多いのではないでしょうか。しかし、日本は生産年齢人口の減少という社会問題を抱えており、優秀な人材を獲得することは、これまで以上に困難を極めると考えられています。
こうした問題に対して、個人の能力に依存するのではなく、組織として売上をあげる仕組みづくりに取り組む企業が増えています。また、日本企業が世界の競合他社に勝利し、シェアを拡大して成長するためには、そこに並ぶ効率性を手に入れることが必須であると言えます。営業効率化を成功させるためには、何に取り組めば良いのでしょうか?このページでは、成功を阻む要因と解決方法について解説していきます。
日本における営業効率に関する実態
2019年にHubSpot Japan株式会社が行った「日本の営業に関する意識・実態調査」によると、「日本の営業担当者は働く時間の25.5%をムダである」と回答しました。ムダを感じる業務は「社内会議」や「社内報告業務」など、社内でのやり取りに関することでした。業務のムダを少しでも減らし、営業効率が改善されれば、売上を増加させることができるはずです。
(出典:HubSpot Japan株式会社)
営業効率に関するグローバル比較
営業効率について、世界と比較してみましょう。OECDが調査し、公益財団法人日本生産性本部が公表している「労働生産性の国際比較 2020」によると、日本の時間当たり労働生産性は、主要先進7カ国でみると最下位でした。 また、営業生産性を測る際に使われる指標で、「営業ROI」という指標があります。営業コストに対して、どれだけの粗利を得ることができたかで、「粗利÷営業コスト」の数式で表されます。マッキンゼーが公表している「日本の営業生産性はなぜ低いのか」というレポートでは、この「営業ROI」において、日本企業はグローバル企業と比較し、あらゆる分野で低い数値を出していることが明らかとなっております。多くの日本企業が営業効率に課題を抱えており、改善の必要があるといえるでしょう。
営業効率性の低下を招く根本課題
日本の労働生産性は世界と比較すると低いことは明らかとなっており、営業効率化も同様に低い。営業を効率化させるために、様々な施策に取り組む企業も増えていますが、うまく行かずに中途半端に終わってしまうことも多くなっています。
営業効率が低い要因はどこにあるのでしょうか?営業効率化を阻む要因はどこにあるのでしょうか?
- ここでは、多くの企業が抱える課題を4つご紹介いたします。
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課題①:コンセプトやターゲット顧客が不明瞭
従来はプロダクトに付加価値を付けることで売上を拡大できましたが、現在の市場においては競合が多数おり、プロダクトの性能を上げたりコストを下げたりすることだけでは差別化が難しくなっています。競合他社との差別化は、顧客に対する「自社の価値」を提供することで生まれます。あるプロダクトを売るとき、「プロダクトの性能」ではなく、「プロダクトを通じた価値提供や課題解決」が差別化につながるのです。
新たな価値提供を目指すためには、目指すべき営業像を具現化し、誰に、どんな価値を提供するのか、コンセプトやターゲット顧客を再定義する必要があります。顧客見直しの足かせとなるのが「お客様第一主義」です。日本企業は「お客様」を大切にする傾向が強く、たとえ自社に不利益があっても、顧客との取引を中止する決定を下すことが難しいのです。グローバル企業も「顧客第一主義」を掲げる企業が多いですが、自社に利益をもたらし、社員の成長を促す企業を「お客様」とみなし、手厚く対応をします。その顧客は本当に「お客様」なのか改めて見直し、場合によっては既存顧客との関係が縮小するリスクを背負ってでも、新規の成長領域に営業リソースを向けるような「決断」が必要です。
課題②:営業プロセスが明確になっていない
- 営業プロセスが明確になっていないと、営業効率性は大きく低下します。
- 受注までにどんなステップがあるか、プロセスが整理されていないまま、やみくもに営業活動をおこなっている企業が多数存在しています。プロセスが明確になっていないために、各担当が非効率な業務を行ってしまうのです。日本の営業組織は、各個人で利益を上げるよりも、チーム全体で動くスタイルが一般的です。企業の利益を上げたり、緊急時に柔軟な対応ができたりするなど、様々なメリットがありますが、各自の役割が不明瞭である場合、デメリットが大きくなってしまいます。チーム内での引き継ぎや、部署間を横断した調整に時間がかかるなど、結果的に一人あたりの営業効率性が低くなることがほとんどです。
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例えば最前線の営業は、顧客との対面時間を優先的に確保すべきですが、社内調整など間接的な業務が半分位以上の割合を占めることがあります。受注後の対応まで行うこともあり、売上に貢献するための業務が最適化されていないのです。多くの企業で、誰がどんな業務を担当するのか、どんなステップを経て受注に至るのか、明文化されずに、営業プロセスがブラックボックス化していることがあります。実際の業務量が見えず、改善の機会を失っているのです。
課題③:営業組織体制が最適化されていない
営業効率に課題を抱える企業は、営業組織体制が売上を上げるために最適化されていないことがほとんどです。最前線の営業が社内業務に追われていたり、受注後の対応を強いられたりしていては、売上を増加させることはできません。営業資源には限りがあり、どこにリソースを注ぐかは、経営陣の判断に委ねられます。営業効率を最適化するための改革は、営業組織を超えて全社的な取り組みになることが多いです。こうした取り組みは、大胆であるがゆえに形骸化を招いてしまうことがあります。経営陣だけが意思をもって取り組むのではなく、対話を通じた現場への落とし込みが重要です。
課題④:デジタル化の遅れ
日本における営業組織のデジタル化の実態
HubSpot社が2022年に行った「HubSpot年次調査:日本の営業に関する意識・実態調査2022」によると、「CRM(顧客管理ツール)を導入している企業は34.8%。米国では従業員10名以上の米国企業の91%がCRMを導入しているという調査もあり、海外と比べて差が開いている」ことがわかりました。日本では、営業組織のデジタル化が遅れているといえるでしょう。営業を効率化させるためには、デジタル化は必須です。必ずしも最新のものである必要はありませんが、自社にあったツールを選択し、活用することが求められます。
(出典:HubSpot Japan株式会社)
過剰なカスタマイズによる非効率性
- 既にITシステムを導入している企業であっても、非効率性が生じる意外な落とし穴があります。システムに業務フローを合わせるのではなく、既存の業務フローをシステム上でそのまま運用できるように様々なカスタマイズを加えている場合は、むしろ非効率な業務が増えていることがあるのです。
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- 当然カスタマイズをすればするほど、その維持費は大きくなってしまいます。
- また、業務の見直しもされないままITツールを活用することで非効率的な業務を行い続けることになり、結果として全体の営業効率性の低下に繋がります。既存の業務フローを見直さずに営業効率化のITツールを使用すると、ITツールと従来の業務システムの二重作業が行われることがあります。例えばCRMではデータを抽出して資料として会議で使えるような設計になっていますが、既存業務フローに合わせるためにデータをエクセルに吐き出して、それをもとに報告資料を作成するような本末転倒なケースもあるのです。
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営業効率性を最大化するアプローチ方法
- 営業効率に課題を抱えている企業は、どのように改善に取り組めばいいのでしょうか。
- ここでは4つのアプローチ方法を解説します。
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1.ファクトに基づいた顧客の再定義
誰に、どんな価値を提供するのか、コンセプトとターゲット顧客を再定義する際は、経営陣が意思決定に必要なファクトを得る必要があります。例えば大口の既存顧客の利益率が悪いと判明した場合、利益率の良い顧客へアプローチする判断を下すことが可能になります。
KPIデータの可視化
こうした意思決定のためのデータを得るためには、データを収集し、可視化する必要があります。顧客ごとに売上や費用の実績を紐づけし、利益率を割り出すことで、どの顧客にアプローチすべきかが明確になります。 顧客ごとに利益率を出すためには、CRMなどITツールを活用して自動的にデータを取得できるようにすることが理想的です。現場の手を止めて資料作成をしていては、かえって非効率的になってしまうケースもあります。
2.営業プロセスの実態把握と改革
営業効率を改善するためには、業務を細かく分析し、具体的にどんな非効率性が生じているか、見直しを図る必要があります。
営業メンバーの営業活動状況の可視化
ブラックボックス化された属人的な営業体制から脱却するためには、営業の活動状況を把握しなければなりません。営業活動状況を可視化をすれば、営業員による時間の使い方や、やるべき業務に時間を使えているかのチェックができます。どのような非効率的な業務があるか洗い出し、優先順位をつけて取り組みましょう。
営業プロセス・スキルの定義と役割分担の明確化
活動状況が可視化されれば、理想的な組織やトップ営業担当者の活動モデルを明文化し、「あるべきプロセス」として定義することができます。新しい働き方が定義できれば、それを軸に各部門・個人に求めるスキルや役割を明確にするこができます。自社の営業プロセスが明確になれば、顧客からの要求に対しても、自社でおこなう業務がどこまでか理解して、効率よく対処することが可能になります。
3.知識・ノウハウの集約と共通化
効率よく営業活動を行うためには、営業担当者の持つ知識を集約し、最大限活かすことが重要です。日本の企業では、担当者が顧客の対応を最初から最後までこなすことが多く、担当者だけが業務を把握し、そのプロセスがブラックボックス化しています。そこで得られる知識や経験も、担当者で完結していることが多いのです。営業効率を最大化するためには、営業担当者の活動状況を可視化し、活動にあわせて専門部隊を構築することが重要です。
4.営業プロセス再定義による専門部隊の構築
- 営業プロセスを見直すと、前線の営業担当者が社内手続きや、顧客に提示する資料の作成に時間がかかっていると判明するケースがあるかと思います。日本の企業においては、営業が幅広い業務を行うことが一般的ですが、この幅広い業務が、非効率性を生み出す要因にもなっています。
- 営業効率を上げるためには、最前線の営業が顧客との対面時間を十分に確保できるよう、社内調整や資料作成の専門部隊を作ることが重要です。ここで言う専門部隊は、一般的な「営業サポート」とは異なります。受注後の処理やシステムの入力代行等の事務作業を行う「営業サポート」を配置している企業は多く存在しています。派遣にその業務を依頼している企業もあるでしょう。
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- 最前線の営業をサポートする専門部隊は、事務作業ではなく、専門的な技能を持ち、その業務を専任する部隊のことです。例えば、提案書の作成においては、前線の営業だからこそ知っている顧客の情報をもとに、その営業が資料作成をするのが一般的でしょう。しかし、顧客の業界について深い知識を持ち、技術的なことも理解した上で、優れた資料作成スキルをもつスタッフが専任して作るほうが、より短時間で高品質な提案書の作成が可能になります。ほかにも、デモ作成、業界・顧客調査、社内手続きといったコア業務は、それを専任するプロ集団を組織すると、最前線の営業が売るために使える時間が増え、営業効率が上がります。
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5.営業組織のデジタル化
営業業務の効率化と営業強化のためには、ITツールの導入は必要不可欠です。
- デジタル化によって業務改善を行うことをDX(デジタルトランスフォーメーション)といいます。
ITツールの導入でムダな業務が減り、営業メンバーの動きを最適化を可能にします。また、営業メンバーの動きや顧客の情報をシステムに入力することで、業務の可視化やデータの収集を容易にすることができます。
営業活動業務を効率化するITツールの例
では具体的にどのようなツールを導入すればいいのでしょうか?
①リモート営業ツール
「HubSpot社年次調査:日本の営業に関する意識・実態調査2022」によると、買い手にとっての「好ましい営業スタイル」は「訪問・リモートどちらでもいい」が約38%、「非訪問型営業の方が好ましい」が約21%で、合計約60%となりました。「買い方」に対する柔軟性が高まっていることがわかります。リモート営業ツールを活用すれば、顧客への移動時間が減り、その時間を商談の準備等に使うことができます。時間を有効的に使うことができるため、業務効率はあがるでしょう。
②見積作成ツール
営業の効率化を図るためには、一人の前線営業マンが、多くの顧客と対面する時間をつくる必要があります。しかし、見積もりの作成や社内手続きに時間を取られてしまっているケースもあるのではないでしょうか。見積作成ツールを導入すれば、見積もりの作成時間が大幅に短縮されるほか、ツールによっては入力ミスの防止、見込み度(ステータス)管理なども可能です。業界や商材によっては、顧客が情報を入力するだけで、自動で見積が作成されるものもあります。見積作成ツールによって、営業員の負担を軽減できることが可能となるのです。
③SFA(営業支援ツール)、CRM(顧客管理ツール)
- SFAは「Sales Force Automation」の頭文字で、「営業力を自動化する」という意味です。営業プロセスを可視化して共有することができるため、営業効率化・最適化することが可能です。CRMは、「Customer Relationship Management」の頭文字で、「顧客との関係を管理する」という意味です。活動状況や顧客情報をチームで共有、管理することができます。
- この2つは機能面において共通点が多いですが、使用する目的によって、どちらを導入するか決めると良いでしょう。新規顧客獲得をメインに行う組織はSFA、既存顧客に対するクロスセル、アップセルをメインに行う組織はCRMがオススメです。
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営業組織のデジタル化を阻む課題と成功させるポイント
営業効率化を推進するためには、ITツールの導入は必須ですが、「日本におけるデジタル化の実態」でみられたように、日本のデジタル化は世界と比較して遅れを取っています。営業組織のデジタル化を阻む課題はどこにあるのでしょうか。
1.組織全体のリテラシー不足
- デジタル化の推進を行う上では、デジタル人材の育成と、組織全体のITリテラシーの向上が必要です。
- 多くの企業ではデジタル人材が不足しており、こうした営業効率化ツールを使いこなせていない事例が多く見受けられます。アビームコンサルティング社の調査によると、DXに成功している企業とそうでない企業を分ける要因のうち、最もギャップが大きい点は「全社員へのデジタル教育」であると明らかになっております。
(出典:アビームコンサルティング)
まずは社内でデジタル化を推進する人材の育成する体制をつくりましょう。すぐに成果はでるものではありませんが、長期的な視点をもって、少しずつ取り組む必要があります。
2.デジタル知見を有していない経営陣による意思決定
企業が抱える非効率性の高い業務に対し、どのツールを、いくらかけて導入するか、判断を下すのは経営陣です。よく理解しないまま、「なんとなく」導入を決めてしまう経営陣も存在しますが、それでは実際に使用する現場は困ってしまいます。まずは意思決定を行う経営陣から優先的にデジタルリテラシーの向上を図り、課題の認識と対する最適なITツールを選べるようにならなければなりません。リテラシーの向上を図る手段としては、すでに導入している企業の話を聞いたり、DX推進企業の事例セミナーに参加するなどの方法があります。
3.営業DX推進を行う体制が整っていない
営業効率化IITツールの導入・運用に関して、最初から全てを自社のリソースで賄うことは困難です。必要に応じて、DXのプロに支援を頼むことも検討してみてはいかがでしょうか。将来は自社で運営をしていくという前提のもと、社内リソースにスキルやノウハウを蓄積できるような組織体制を構築するために、一定期間コンサルティング会社の伴走支援を活用することは非常に有効的です。
おわりに
営業の効率化に取り組むことは、手間も費用もかかり、非常に大変なことです。しかし、限られたリソースの中で、現場に無理な負担をかけることなく売上を上げるためには、営業の効率化は必要不可欠であります。業務効率化のためにどんな方法をとるか、どんなITツールを導入するかは、千差万別です。自社にあった方法で実践してみましょう。