マーケティングチャネルの複雑化や情報が溢れる近年において、新規顧客の獲得難易度は高くなっています。その中で、既存顧客との関係性を強め、LTVを高めていくことを重視するBtoB企業が増えてきています。LTVを高めるためには、クロスセルとアップセルの両方を磨いていくことが重要であり、特にクロスセルで顧客との関わり方の幅を広げることで、LTVを大幅に向上させることが可能です。
本記事では、クロスセルを具体的にイメージできるよう、概要を説明したのちに6社の事例をご紹介します。これからクロスセル施策を考えていく方、すでに施策を始めているがうまく顧客へ提供できていない方にとってお役に立てる記事となっています。
クロスセルとは
クロスセルとは、顧客が購入を検討している商品の他に別の商品を提案し、両方の購入を促すことです。例えば、セキュリティソフトの購入を検討している顧客に対してクリーンアップソフトを同時にすすめる、業務用機械の入れ替えを検討している顧客に対してメンテナンス用の洗浄剤を同時にすすめる、といった提案を行うことがクロスセルに当たります。顧客が購入を検討している商品よりも上位の商品を提案し、購入を促す「アップセル」との違いは、顧客への提案内容ですクロスセルでは顧客が購入を検討している商品に追加して関連する別の商品を提案するのに対し、アップセルは顧客が購入を検討している商品のアップグレードまたは上位モデルを提案します。
出典:Hubspot
クロスセルを活用することで、LTVの向上、また新規顧客獲得コストの削減による営業効率化、顧客との長期的な関係の構築ができるため、あらゆる企業で力を入れて取り組んでいる施策になります。
クロスセルのメリットや実践ステップは、こちらの記事で説明しています。
クロスセルのパターン
クロスセルを成功させるポイントは、いかに顧客がメリットを感じられる提案ができるかにあります。顧客のメリットを高めるためによく用いられる提案手法として、関連商品の「ついで買い・まとめ買い」で購買にかかる手間を減らす提案と、補完商品の「オプション追加」で元商品の効果をより高める提案があります。
関連商品のクロスセル
関連商品のクロスセルでは、顧客が購入しようとしている商品やサービスに直接関連するものの「ついで買い・まとめ買い」を提案します。例えば、顧客がカメラを購入しようとしている場合に、レンズ、三脚、カメラバッグなどをセット価格で販売するのがこれにあたります。BtoBビジネスにおいても、例えばレンタルオフィスと業務用PCやオフィス用品のリースをセットで提供するといったような提案が多く取り入れられています。
補完商品のクロスセル
補完商品のクロスセルでは、顧客が主に購入する予定の製品やサービスの効果をより高めるものをオプションとして提案します。例えば、エアコンを購入する顧客に対して、定期クリーニングサービスのオプションを提案することが挙げられます。BtoBで多く見られる例を挙げると、SaaSなどのソフトウェアとその導入支援やメンテナンス、コンサルティングをセットで提供するタイプの提案などがあります。
【BtoB版】クロスセルの成功事例6選
こちらでは様々な業界におけるクロスセルの成功事例を紹介します。
製造業界の事例:ヤマハ発動機
オートバイ、船外機、産業用エンジン、電動アシスト自転車、ロボットなど多岐にわたる製品群を持つヤマハ発動機社は、2021年より「Yamaha One-Stop Smart Solution」をコンセプトに、SMT(実装関連機器)、FA(産業用ロボット)、SEMI(半導体製造装置)、各商材の豊富なラインナップで生産現場の自動化・自律化を支援しています。同社の製品プラットフォームは、各種産業機械や小型移動体、エネルギー関連製品など、ヤマハ発動機の幅広い製品ラインナップと連携して、統合的なデータ管理や遠隔操作などを可能にするため、物流、建設、農業などのさまざまな産業分野での製品運用をサポートし、業界全体のDX(デジタルトランスフォーメーション)を加速させています。
出典:ヤマハ発動機社
製品単体だけの価値を提供するのではなく、クロスセルとして各製品の価値を補完し合うプラットフォームを提供することで、さらなる顧客価値向上を実現させています。
HR業界の事例:リンクアンドモチベーション
組織内のコミュニケーションや働き方の改善をサポートするためのクラウド型のソリューション「モチベーションクラウド」を提供するリンクアンドモチベーション社は、クラウド型のソリューションだけでなく採用支援や人事コンサルティング、研修などと組み合わせるクロスセルを行なっています。「モチベーションクラウド」は、組織内のコミュニケーションや社員の働き方、パフォーマンスなどをデジタルで可視化し、分析する機能を提供します。これにより、組織の問題点を具体的に把握し、改善策を立案・実行することが可能になるため、実行にあたってのコンサルティングや研修が関連サービスとして相性が良く、顧客への価値向上につながっています。
出典:PR Times
「問題を把握したい」という一般的な企業課題と、個社ごとに解決方法が異なる個社課題の解決の両方を解決する、クロスセルとしての好事例と言えるでしょう。
印刷業界の事例:ラクスル
ラクスル社は、多種多様な印刷物をWEBを通して提供するとともに、デザインやマーケティングの支援も行っています。例えば顧客がビジネスカードを作成・注文した場合、ビジネスカードの印刷だけでなく、そのデザイン作成も一緒に提供しています。また、同社はチラシやパンフレットの印刷サービスと併せて、配布やポスティングサービスも提供しています。これにより、印刷物の制作から配布までを一括して手がけることが可能となり、顧客の手間を省くとともに、さらなる売上向上を図っています。
出典:PR Times
さらに、ラクスル社はクロスメディアの観点からもクロスセルを行っています。例えば、デジタルマーケティング支援やウェブサイト制作といったサービスを提供することで、顧客のマーケティング活動を多角的に支援し、顧客のビジネス成長に寄与しています。
セキュリティ業界の事例:ブロードバンドセキュリティ
ブロードバンドセキュリティ社は、日本を中心にセキュリティサービスを提供する企業で、その中でもネットワークセキュリティや情報セキュリティの領域で高い専門性を持っています。同社の主要サービスには、ネットワークセキュリティ対策やサイバーセキュリティ対策、セキュリティ運用支援などがあります。特定のサービスを利用する顧客に対し、他の補完的なサービスを提案することでクロスセルを行います。例えば、ある顧客がネットワークセキュリティの監視・運用支援サービスを契約した場合、そのセキュリティレベルをさらに向上させるために、定期的なセキュリティ診断サービスや社員教育・研修サービスを提案しています。また、同社が提供するセキュリティソリューションは、複数の商品・サービスを組み合わせて提供されることが多く、これもクロスセルの一形態と言えます。例えば、同社のネットワークセキュリティ対策は、ファイアウォールやIPS/IDSといったネットワーク機器の導入だけでなく、それらの設定や運用を支援するサービスと組み合わせて提供されます。こうしたクロスセルの活用により、同社の脆弱性診断サービスは2023年第一四半期に過去最高益を達成しています。
出典:ブロードバンドセキュリティ社
SaaS業界の事例:LayerX
LayerX社は、「すべての経済活動を、デジタル化する。」のミッションの実現に向け複数の事業を運営しており、その中でも請求書処理、経費精算、稟議申請、法人カードなどの支出管理をなめらかに一本化する「バクラク」シリーズが同社を代表するサービスです。
出典:note
バクラクは「請求書処理」「申請」「経費清算」の3つの独立したSaaSから構成されており、それぞれのサービスを掛け合わせるクロスセルを行なっています。3つのサービスを導入することで、バックオフィスの様々な処理・申請・清算を共通のインターフェースで行うことが可能になり、また各サービスのデータ連携も自動化されているため、強い補完性を持つクロスセル事例といえるでしょう。
IT業界の事例:ChatWork
ビジネスチャットツールを提供しているChatWork社では、そのユーザー基盤を活用したクロスセルを行っています。ChatWorkの基本的なサービスは、業務でのコミュニケーションを円滑に進めるためのビジネスチャットツールですが、その他にも「助成金診断」や「勤怠管理」「人事評価」「電話代行」など、営業や総務、人事、組織開発に関連したサービスを提供しています。同社ではビジネスチャット導入企業向けの「DX相談窓口」を設置し、DXや業務プロセスの改善について顧客が気軽に相談できるようにすることで、関連サービスのクロスセルへつなげています。メインのビジネスチャットツールからのみの収益体制ではなく、ビジネスチャットツールを入口としたクロスセルで売上を拡大する好事例です。
なお、ゼンフォースがChatWork社へのセールスマネージャー育成研修をご支援した事例はこちらからご覧いただけます。
おわりに
本記事では、クロスセルの代表的なパターンと、製造業界、HR業界、印刷業界、セキュリティ業界、SaaS業界、IT業界の6つのBtoB企業の成功事例を紹介しました。いずれの事例も、顧客の課題を正確に捉えることで、クロスセルを通じた顧客価値と売上の最大化に成功しています。これらの事例をクロスセルを活用した事業拡大にぜひ役立ててください。