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【BtoB事例付き】クロスセル戦略とは?実践ステップと成功のポイントを解説

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目次

BtoBビジネスを展開するにあたり、利益の向上施策として有効なのが「クロスセル」です。Hubspotによる500人以上の営業専門職を対象とした調査では、クロスセルを行う営業担当者の74%が「営業収益の最大30%貢献している」と回答しており、クロスセルが売り上げアップ施策の一環として取り入れられていることがわかります。自社内でもクロスセルを施策として積極的に取り入れたいと考える企業も多い中、「顧客に押し売りと取られる不安があり、クロスセルを導入できない」「クロスセルの有効な施策が分からない」と悩みを抱えるマーケティング部長も多いかもしれません。

本記事では、BtoBビジネスを想定したクロスセルの戦略や成功のポイントを解説します。クロスセルの概要だけでなく、BtoB企業の成功事例も紹介していますので、自社でのクロスセル導入にぜひ役立ててください。

クロスセルとは

クロスセルとは、顧客が購入を検討している商品の他に別の商品を提案し、両方の購入を促すことです。たとえば、セキュリティソフトの購入を検討している顧客に対してクリーンアップソフトを同時にすすめる、業務用機械の入れ替えを検討している顧客に対してメンテナンス用の洗浄剤を同時にすすめる、といった提案を行うことがクロスセルに当たります。クロスセルで提案する商品は、顧客が購入を検討している商品と並行して利用するものなど、関連商品が対象となることが多いです。新規顧客数を獲得する労力をかけることなく総購入額を上げられる手法のため、効率的に売り上げを上げられます。

アップセルとの違い

クロスセルと並んでよく用いられる言葉にアップセルがあります。アップセルとは、顧客が購入を検討している商品よりも上位の商品を提案し、購入を促すことです。先程の例でいえば、キュリティソフトの購入を検討している顧客に、より機能の充実した上位プランを提案するのがアップセルに当たります。クロスセルとアップセルの違いは、顧客への提案内容です。クロスセルでの提案内容は、顧客が購入を検討している商品に追加して、関連する別の商品を提案するのに対し、アップセルは、顧客が購入を検討している商品のアップグレードまたは上位モデルを提案します。

アップセル クロスセル 違い

出典:Hubspot「Cross-Selling and Upselling: The Ultimate Guide」

クロスセルを導入するメリットと注意点

クロスセルは短期的な売上向上に加えて、以下のようなメリットがあります。

・LTVの向上
・営業効率の向上
・顧客との関係強化

一方で、行き過ぎたクロスセルによる販売機会の損失や顧客対応への負担増などのリスクもあります。ここでは、クロスセル導入前に知っておきたいメリットと注意点を解説します。

LTVの向上

BtoB向けサービスや商材は、長期的に利用されることを前提としているため、クロスセルを推進することでLTVの最大化につながるメリットも考えられます。株式会社オプロが運用するサブスクビジネス研究所の「BtoBサブスクビジネス実態調査2022」では、サービスの利用期間についての質問に対して「5年以上」と答えた企業がもっとも多い結果となりました。

サブスクリプション サブスク 利用期間

出典:サブスクビジネス研究所「BtoBサブスクビジネス実態調査2022 - 利用者アンケートから見る法人向けサブスクサービスの価値」

仮に、5年以上継続して利用するような顧客に対しクロスセルを行い、顧客ひとりあたりの単価が向上すれば、売上の最大化にも繋がります。クロスセルを行わない場合よりも売上総額が上がり、新規顧客を獲得するよりも低コストで利益を得られ、LTVの最大化につながるでしょう。ただし、クロスセルを行う商材の利益率が低い場合、より利益率の高い商材でアップセルを目指した方がLTV向上に有効なケースもあります。商材の利益率を考慮し、LTV向上に効果的な手法を選ぶことが重要です。

営業効率の向上

クロスセルを導入することで、営業効率の向上と販促コストの削減にもつながります。株式会社オンリーストーリーが全国20歳~59歳のBtoBの訪問営業を行う会社員・会社役員400名を対象に行った「営業に関する調査」によると、BtoBの営業活動を行う際の課題は「新規開拓力」という回答が全体の55.5%ともっとも多く、それだけ新規開拓は難易度の高い営業活動といえます。

営業 課題 営業活動での課題

出典:PRTIME「全国の20歳~59歳の営業マンに調査を実施。ビジネスパーソンが向き合うBtoB営業に関する課題とは?」

クロスセルにより新規顧客開拓を行うことなく売上を向上させることができれば、営業活動の効率化の面でも大きなメリットが得られます。一方で、クロスセルでの販促を行う際、商材や自社への顧客満足度が低いと「押し売り」と捉えられてしまうリスクがあります。こうした印象を一度持たれると、既存の契約の期間短縮や破棄にもつながりかねないため、提案の仕方やタイミングには細心の注意が必要です。

顧客との関係強化

顧客と十分な関係を築けている場合、クロスセルによってさらに顧客との関係を深めることができるのもメリットです。クロスセル商品によって解決できる顧客課題の幅が広がり、結果的に自社への信頼強化につながるケースもあるでしょう。一方で、顧客が求めることに全て応じてしまう「なんでも屋」にならないよう注意が必要です。クロスセルを追い求めるあまり、過度な値引きや行き過ぎたアフターサービスを約束してしまうことは、自社の利益を圧迫し、将来の顧客とのトラブルの種となることも少なくありません。営業担当の独断的な値引きを制限する、SLA(サービスレベルアグリーメント)を設けるといった対策を行うべきでしょう。

クロスセル戦略の4ステップ

クロスセルを行い、確実な成果に繋げるためには、顧客の課題やニーズ、インサイトをふまえた戦略設計が重要です。

クロスセル戦略を構築するステップは、大きく分けて以下の4つです。

1.ターゲットセグメントの決定
2.  顧客課題の特定
3.  カスタマージャーニーへのマッピング
4.  提案シナリオの作成

それぞれのステップごとに解説します。

1.ターゲットセグメントの決定

既存顧客のうち、優先的にクロスセルを提案する顧客を選別するためには、まずターゲット別でセグメントを分ける必要があります。ターゲットのセグメントの方法に役立つフレームワークが「LWP分析」です。LWP分析では、「List(顧客リスト)」「What(行動内容)」「Pace(受注頻度)」の3つの項目別で既存顧客にフラグ付けを行います。

出典:Ferret「ECのクロスセル率が1.9倍に!データを味方につけたKPI改善方法とは?」

フラグ付けを行う場合は、以下の順で顧客をLWPに当てはめてみましょう。

・クロスセルの対象とする顧客をリストアップする
・過去の顧客の行動から、クロスセルが有効となる可能性の高い顧客をフラグ付けする
・顧客の接触回数と受注回数でフラグ付けをする

LWPでのフラグ付けと顧客の選別を行った後は、「縦軸=過去の実績の高低」「横軸=拡大余地(ポテンシャル)の高低」とした以下のマトリックス上に、A・B・C・Dそれぞれの位置に顧客を当てはめていきます。

LWP

出典:Ferret「ECのクロスセル率が1.9倍に!データを味方につけたKPI改善方法とは?」

過去の取引実績も今後の拡大余地も多い右上のAグループから優先的にアプローチを行い、次にB、C、Dへと対象を広げていく、といったようにクロスセルの対象セグメントの優先順位付けをすることで、クロスセルの成功確率を高めるとともに、やみくもなアプローチに伴う解約などのリスクを最小化することができます。

2. 顧客課題の特定

クロスセルで成果を得るためには、顧客の持つ課題と課題解決に直結する商材をマッチングさせることが重要です。しかし、クロスセル商材が増えるほど課題とのマッチングのパターンは指数関数的に増加するため、全ての顧客に対し課題をヒアリングし、オーダーメイドの提案を行うのは容易ではありません。こうした場合は、各セグメントのターゲット顧客に共通する課題を特定するのが良いでしょう。下図の例のように「既存商材を顧客が購入した理由」を担当営業へヒアリングするといった方法が有効です。

ユーザーニーズ クロスセル

出典:FORCAS「-ABM実践- ABMを活⽤した「クロスセル戦略」の考え⽅」

各セグメントの共通課題に対応するクロスセル商材の組み合わせを一旦仮でもよいので決めておくことで、以降の提案シナリオ作りがスムーズになります。

3.カスタマージャーニーへのマッピング

顧客の持つ課題を特定した後は、クロスセル商品を提案すべきタイミングを決めます。顧客が課題を感じ始めた時がクロスセルを提案すべきタイミングとなりますが、その特定には「カスタマージャーニーマップ」の作成が有効です。カスタマージャーニーマップとは、顧客が商材を購入するまでに行う一連の体験を顧客の視点から把握するための手法です。一般的にクロスセルを行いやすいといわれるタイミングには、初回購入の直後(ついで買い)や、契約更新時期(次のステップの提示)などがあります。既存商材の販売時から契約更新時までの一連のカスタマージャーニーのなかで、顧客が課題を意識しやすいタイミングを特定し、クロスセルを提案するベストなタイミングを見つけましょう。

カスタマージャーニーの概要、メリット、作成方法、BtoBでの事例はこちらで解説しています。

4.提案シナリオの作成

提案タイミングが明確にできたら、具体的な提案シナリオを作成します。顧客からの信頼感を損なわずにクロスセルを提案するためには、「それぞれ購入するより手間・費用が少なくなる」「導入効果をより高めることができる」といった顧客にとってのメリットをあわせて提示することが重要です。
代表的な提案シナリオと、セキュリティソフトウェアのクロスセルを想定したシナリオの具体例を下表にまとめました。

クロスセル シナリオ 例
こうした提案シナリオが完成したら、営業担当にレクチャーを行い、実際の提案を開始します。

クロスセル成功のポイント

ここでは、クロスセルの成功確率を高めるために重要なポイントを解説します。

顧客インサイトの理解

クロスセルは基本的に顧客ロイヤリティの高い一部の顧客に対する施策です。そうした顧客とは営業担当を介した接点が多い分、潜在的な課題やニーズといった顧客インサイトを深堀りするチャンスは多くあるはずです。営業担当が「インサイト営業」を実践できるようトレーニングを行うことで、より深いインサイトを得られる確率が高まります。

インサイト営業についてはこちらの記事で解説していますので参考にしてください。

提案タイミングの精査

クロスセルは提案するタイミングが重要です。顧客ロイヤリティがまだ高まり切っていない段階での強引なクロスセル提案は押し売りととられるリスクがあるため、以下の例のように自然な形でクロスセルサービスを露出しておき、顧客の反応を都度見極めたうえで提案を行うのがよいでしょう。

・メイン商品の提案時にクロスセル商品を含めた松竹梅案を見せる
・メイン商品の契約更新時にクロスセル商品の紹介も行う
・カスタマーサクセスによる定期報告の中でクロスセルの紹介を行う

社内プロセスの一貫性

クロスセルを成功させるためには、クロスセル戦略をマーケティング部門・営業部門・カスタマーサクセス部門など、営業活動に関わる組織全体に共有し、一貫性を持った社内プロセスを構築することが重要です。戦略が組織全体で共有されていない場合、「クロスセル商品の売上が営業担当の評価に含まれないため、営業担当が積極的に提案しない」「成約後のカスタマーサクセスによるフォロー対象にクロスセル商品が含まれていない」といった問題につながりかねません。こうした問題を避けるために、クロスセルの戦略を立案する際にはあらかじめ関連部門と合意を取りながら進めることが重要です。

【BtoB版】クロスセルの成功事例

BtoBでのクロスセルを成功させるためには、他企業の取り組みや施策からヒントを得ることができます。BtoBビジネスにおけるクロスセルの成功事例を3つ解説します。

キーエンス

計測や光学関連機器メーカーである株式会社キーエンスは、地域と製品でカテゴリ分けし専任の営業が担当するデュアルテリトリー制度を採用しています。専任営業職が深く顧客課題を理解することで、プロダクトミックスによる関連商品のクロスセルに成功しています。

freee

スモールビジネス向けにクラウドサービスを提供する株式会社freeeでは、主力のクラウド会計に加え、労務管理サービス、バックオフィス支援サービスもリリースしました。同じコーポレート部門のターゲットへの会計ソフト、労務管理サービスのクロスセルによりARRを前年比4割以上伸ばしています。

Salesforce

SaaS企業であるセールスフォース・ジャパンは主力商品のCRMで顧客情報を一元管理し、社内の複数部門での活用を促しています。営業とマーケティング、カスタマーサービス間で断裂しやすい顧客情報をCRMによって一元化することで、SFA 、MA、BIなどの周辺サービスをワンストップで提供するためにクロスセルを行い、顧客のLTVを高めるのに成功しました。

おわりに

本記事ではクロスセルの概要やメリット、実践ステップ、成功させるポイント、企業の事例を解説しました。クロスセルはLTVの向上をはじめ顧客との関係構築、営業効率の向上などのメリットが得られる一方、提案する商材やタイミングを誤ると顧客との関係悪化や販売機会の損失のリスクがあります。クロスセルに取り組む際は、顧客との信頼関係を踏まえつつ顧客が受け入れやすい最適なタイミングで提案を行うようにしましょう。効果的なクロスセルの実行には、営業組織全体で戦略的に推進することが求められます。一貫性のある組織の構築や営業スキルアップなどの施策を取り入れつつ、クロスセルの成功につなげましょう。

著者情報
柳本 瑠衣 (やなぎもと るい)
Rui Yanagimoto
米国の州立大学卒業後、米国にて就労経験を経て帰国。国内のIT企業へ入社後、新規開拓営業と経営企画を経験。パーソルホールディングス株式会社(旧インテリジェンス)にてデジタルマーケティング領域を経験した後に、MAツール開発会社へ入社、インサイドセールス部門責任者として従事。2人目の出産を機に働き方を見直し2022年にフリーランスに転身。現在は営業DX領域のコンサルティングとマーケティング業務支援等を行う。