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インサイト営業とは?注目される背景や自社に取り入れるための3つのアプローチを解説

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目次

インサイト営業とは、顧客の潜在的なニーズや課題を発見し、その課題を顧客に認識してもらったうえで製品やサービスの提案へとつなげる営業手法です。インターネットの発展により情報収集が容易になった昨今。顕在化された課題に向けた提案だけでは営業の成果が得られにくくなっています。そのため、顧客が認識していない「潜在的な悩み」の解決に向けたインサイト営業に注目が集まっています。しかし、インサイト営業を行っていくうえで、具体的な営業活動の進め方や、営業体制をどのようにすべきかイメージがわかない方も多いでしょう。

そこで本記事では、インサイト営業に取り組むメリットや営業活動のステップ、そしてインサイト営業を自社に取り入れるためのアプローチまで解説します。インサイト営業の導入を検討されている方は、ぜひ参考にしてください。

インサイト営業とは

インサイト営業とは インサイト営業

インサイト営業とは、顧客が自ら気付いていない潜在的なニーズや課題を発見し、それを顧客自身に認識してもらったうえで、解決策となる製品やサービスを提案する営業手法のことです。そもそもインサイト(Insight)とは、日本語で「洞察」「見識」という意味を持ちます。つまりインサイト営業は、顧客のビジネスや業界に関する知識や洞察力を活かして、顧客がまだ自覚していない問題や成長の機会を徐々に明らかにし、本質的な課題解決を目指します。
しかし、インサイト営業は従来の営業手法とは何が違うのかイメージを掴めない方も多いでしょう。ここではインサイト営業とプロダクト営業やソリューション営業との違いについて解説します。

プロダクト営業との違い

プロダクト営業とは、自社が提供する製品やサービスの機能や特徴をもとに、顧客に売り込む営業手法です。競合他社よりも自社商品が魅力であることをアピールして、顧客に選んでもらう状態を目指します。営業活動の中心は、製品やサービスの情報提供やプレゼンテーション、価格交渉などであり、短期的な成果や売上を追求することが一般的です。プロダクト営業では、顧客に売り込む商品・サービスがあらかじめ決まっている場合が多いため、営業担当者には商品に対する深い知識やスキル、顧客ニーズを汲み取った提案力が求められます。インサイト営業は顧客の「潜在的な課題」を対象とする一方、プロダクト営業はあくまでも「商品・サービスありき」で提案するといった違いがあります。

ソリューション営業との違い

ソリューション営業とは、顧客の抱えている課題や問題に対して、その解決に最適なサービスや製品を提案する営業手法のことです。単に商品やサービスを積極的に売り込むのではなく、「それを使うことでどのような課題解決につながるか?」を含めて提案します。
特にソリューション営業では、すでに顧客が課題を認識している「顕在的な課題」に対して行なわれます。例えば、課題が明確であっても解決が難しい場合(例えば人材採用など)はソリューション営業が適しているとされています。しかし、ソリューション営業では顧客自身がどこに課題や問題があるか気付いているため、顧客自身で解決策を見つけられる可能性もあります。また、競合他社から多くのアプローチを受けているため、顧客との関係を保ち続けることも容易ではありません。一方インサイト営業では、顧客が気付いていない課題を見つけることから入り込むため、長期的な信頼関係を築きやすいといった特徴があります。

インサイト営業が注目される背景

今まで、企業の営業活動はプロダクト営業やソリューション営業が中心でした。しかし、近年では顧客との深い関係構築に重きを置いた「インサイト営業」が注目されています。なぜインサイト営業が注目されているのか、その背景とされる理由を3つ解説します。

情報の氾濫

これまでの営業活動では「情報の質」が重視されていました。なぜなら、企業は自社の課題を認識していても、その解決策がわからなかったため、営業担当者が知っている情報そのものに価値を感じていたからです。しかしインターネットやSNSが普及したことで、今や情報は誰でも手軽に得られるようになりました。企業は課題に対する解決策を簡単に調べられるため、営業担当者が持つ情報の価値が相対的に落ちてしまったのです。従来型の営業手法が通用しなくなったことで、顧客が自ら課題を発見・認識する前の段階から関係構築を図り、顧客が気付いていない潜在的な課題を支援するインサイト営業が注目されはじめました。

インサイト営業 情報収集 変化

複雑化するビジネス環境

オンラインサービスの普及により顧客ニーズが多様化したことで、企業は顧客ごとに異なる課題や要望への対応が求められるようになりました。例えば、新しい製品やサービスが次々と登場したことで、企業にとって選択肢が増えています。さらに、グローバル化が進む中、企業は国内外との競合との競争しながら、ビジネスの成長や維持に向けた取り組みが必要です。このように複雑化するビジネス環境の中で、顧客は何が課題なのか、何から着手すべきなのか迷うケースが増えています。そうした背景から、企業の独自の課題やニーズに対応するインサイト営業が注目されることになりました。

AI技術の進展

AI技術の進展により、大量のデータを効率的に分析することが可能になりました。これにより、顧客のニーズや市場動向を正確に把握し、顧客がまだ自覚していない潜在的なニーズや課題を見つける能力が向上します。例えば、SFA(営業支援ツール)やCRM(顧客関係管理ツール)とAI技術を組み合わせることで、リードスコアリングや顧客の購買傾向をより正確に把握できるようになります。その結果、営業担当者は闇雲なアプローチ(数重視のテレアポや訪問など)を行なわずとも、適切なタイミングでアプローチし、より深い関係構築やインサイトの提供を実現可能にします。

SFAについてはこちらの記事で紹介しているので、ぜひご参考ください。

インサイト営業のメリット

企業の課題が複雑化する中で、従来型のプロダクト営業やソリューション営業では顧客から選ばれにくくなっています。そこで注目が集まるインサイト営業ですが、具体的にどういったメリットがあるのでしょうか。ここではインサイト営業のメリットを3つ解説します。

顧客との関係強化

インサイト営業では、顧客のビジネスや業界に関する深い知識と洞察力を持ち、顧客が自覚していない潜在的な悩みや課題を発見し、解決策の提案へとつなげます。これにより、顧客に対して付加価値を提供できるため、顧客との信頼関係が強化されます。つまり、顧客が置かれている状況や抱える問題を真剣に理解し、最適な解決策を提供することによって顧客満足度が向上するため、長期的なパートナーシップを築けるようになります。

リピート購入率の向上

インサイト営業によって顧客との関係が強化されることで、顧客は営業担当者に信頼を寄せ、スイッチングコストが下がるため、継続的な取引へとつながります。営業担当者は顧客のニーズや課題に対して適切なソリューションを提案し続けることで、リピート購入率が向上し、企業の収益性やLTV(顧客生涯価値)も高まります。

新市場の開拓

インサイト営業に取り組むことで、顧客がまだ自覚していない潜在的なニーズやビジネスチャンスを発見できます。顧客の事業成長につながるような今までにない新しいアイデアや、それに対応する製品やサービスを提供することで、顧客の事業拡大や新しい市場への参入をサポートします。顧客のビジネスが成長したり、競争力向上に貢献したりすることで、結果的に自社の製品やサービスの市場拡大にもつながります。

インサイト営業のステップ

ここまででインサイト営業の重要性を理解したものの、どのような流れで顧客に提案を進めていけばよいか、具体的なイメージが湧かない方も多いでしょう。そこで実際にインサイト営業を行う流れを4つのステップに分けて解説します。

インサイト営業 ステップ

Step1. 情報収集

インサイト営業の第一歩は、顧客企業や業界に関する情報収集です。顧客のビジネスモデル、業界動向、競合状況、市場ニーズなどを調査し、深く理解することが重要です。これらの情報は、WebサイトやSNSなどのインターネットリサーチを通じて収集できます。
また、顧客との面談などの直接コミュニケーションを通じて、顧客が抱える課題やニーズを把握することも大切です。顧客との関係性を築くことで、より深い情報を得られるようになるでしょう。
他にも、必要に応じて社内情報を共有してもらうことや、顧客のエンドユーザーの声を集めることも有効ですし、異業界の動きや最新テクノロジートレンドへの知識もインサイトを発掘する上で役立ちます。

つまり、「顧客よりも顧客のことを理解する」という姿勢で、あらゆる情報収集に努めることが大切です。こうした情報が十分にあることが、適切なインサイトを提供する土台になるでしょう。

Step2. インサイトの提示

Step1で得られた情報をもとに、顧客の潜在的な課題や市場ニーズを洞察し、インサイトとして提示します。インサイトとは、あくまでも顧客がすでに認識しているものではなく、顧客の成長機会や競争力向上につながる具体的なアイデアや独自の視点を提供する必要があります。そのため、インサイトを提示する際には、独自のデータや先進的な事例を用いて説得力を持たせることが重要です。具体的には、以下のような方法があります。

プレゼンテーション

顧客とのミーティングや商談の際に、PowerPointや資料を用いてインサイトを提示します。データや事例を用いて、顧客が抱える課題や潜在的なニーズを明確にし、それに対する解決策やアイデアを提案することが重要です。

インフォグラフィック

視覚的に分かりやすいインフォグラフィックを作成し、顧客にインサイトを提示します。データや統計情報をグラフやチャートで表現することで、顧客が抱える課題や市場動向の理解が得られやすくなります。

オンラインセミナー(ウェビナー)

ウェビナーやオンラインセミナーを通じて、顧客や業界関係者に対してインサイトを発信することも有効です。専門家や業界リーダーを招いて意見交換を行うことで、顧客に新たな視点やアイデアを提供できます。

ケーススタディ

同業他社の成功事例や、先進的な取り組み事例をケーススタディとしてまとめ、その解説とあわせて顧客に提供します。実際の事例を用いることで、提案内容の効果予測や実現可能性を具体的に示すことができます。

Step3. 当事者意識の醸成

インサイトを提示した後は、顧客がそのインサイトに対して当事者意識を持つように働きかけます。顧客にインサイトの重要性や緊急性を理解してもらい、自社の課題や成長機会と捉えることが重要です。しかし、重要性を理解してもらうだけでは、当事者意識の醸成には不十分です。仮にその課題を放置した場合や、今着手した場合のストーリーを「顧客を主語」にして展開し、顧客自身が最優先課題として認識してもらう必要があります。

Step4. ソリューションの提案

顧客がインサイトに対して当事者意識を持った段階で、その課題解決に適したソリューションを提案し、クロージングへと進めます。ここでいう「ソリューション」とは、顧客のニーズや課題に応じてカスタマイズされた製品やサービスを提供することであり、顧客のビジネス成長や競争力向上に寄与するものでなければいけません。
提案時には、ソリューションの効果やROI(投資対効果)を明確に伝え、顧客が納得できる形で提案することが求められます。とりわけインサイトが顧客にとって斬新であればあるほど、社内での説得コストが高くなるため、営業担当者の強力なサポートが求められます。

インサイト営業を取り入れるための3つのアプローチ

企業がインサイト営業を取り入れることは容易ではありません。特に今まで、プロダクト営業やソリューション営業に重きを置いてきた営業組織に対し、いきなりインサイト営業に切り替えるとなれば、現場に混乱を招く恐れがあります。さらに、営業戦略の大幅な見直しによって、短期的な売上・利益の損失も免れないでしょう。そうしたリスクを極力抑えながら、インサイト営業を取り入れるためには、具体的にどのように進めればよいのでしょうか。ここではインサイト営業導入に向けた具体的なアプローチを3つご紹介します。

インサイト営業 導入 アプローチ

営業担当のマインドセット変革

インサイト営業を実現する上で重要なことは、営業担当者のマインドセットです。営業担当者には、顧客のビジネスを理解し付加価値を提供するといった、コンサルタントのような役割が強く求められます。自社が売りたい製品やサービスの提案や、目先の売上達成にフォーカスしている営業組織の場合は、営業担当者のマインドセットの変革が必要です。
例えば、株式会社セールスフォース・ドットコムではISU(Insight Sales University)という企業内大学制度を設置し、育成プログラムを通じて営業担当者としてあるべき姿のビジョン策定を含めたトレーニングを行っています。こうした徹底した研修や指導を通じて、営業担当者のマインドセットの変革を促し、インサイト営業に適した態度やスキルを身につけてもらうことが重要です。

課題発見力の強化

インサイト営業では、顧客が自覚していない潜在的なニーズや課題を発見する力が求められます。営業担当者に対する研修やワークショップを実施し、業界知識や市場動向の理解を深めるとともに、課題発見力を強化させることが重要です。ここでいう課題発見力とは、「現状を把握・分析し、問題を見つけていく力」のことです。
課題発見力を高めるには、今までの常識を疑う「ゼロベース思考」、将来のあるべき姿から逆算して現状を捉える「バックキャスト思考」、事象の相互関係から全体像を捉える「システム思考」といった思考様式を身につけることが必要です。また、営業担当者同士で情報共有や意見交換を行い、お互いの知見や視点を広げることも効果的です。

顧客データの活用

インサイト営業では、顧客データの活用が重要です。顧客データを分析し、顧客のニーズや購買傾向、市場動向などを把握することで、より適切なインサイトやソリューションを提案することができます。具体的には、顧客の購買履歴やWebサイト内での行動履歴のほか、顧客との商談履歴などが挙げられます。顧客データを効率的に収集するためには、顧客データの収集や分析に適したツールやシステムを導入し、営業担当者が容易に情報にアクセスできる環境を整えることが求められます。

データ活用についてはこちらの記事で紹介しているので、ぜひご参考ください。

おわりに

今回は、近年注目を集めるインサイト営業について解説しました。インサイト営業を取り入れることで、顧客が気付いていない潜在的な悩みを把握し、より深い信頼関係を築きながら長期的な取引へとつなげることが可能です。とりわけデジタル活用やグローバル化が進み、顧客の課題が複雑化・高度化する現代においては、より付加価値の高い営業活動が求められます。

一方、従来のソリューション営業やプロダクト営業を否定するものではなく、それぞれの営業活動の目的を理解したうえで、顧客の状況に応じて使い分けることが大切です。例えば、業界・業種、事業内容、顧客の状況に応じて、営業活動を行う上でどこに比重を置くか適切に判断することをおすすめします。
いずれの場合にせよ、営業活動を行う上で重要なことは、自社目線で売上・利益を追い求めるのではなく、あくまでも「顧客が何に困っているか」に焦点を当てて、一社一社に寄り添うことです。その上で、自社が最も顧客に貢献できる方法を模索し続ける姿勢が一層求められるようになるでしょう。

著者情報
高橋 洋介(たかはし ようすけ)
Yosuke Takahashi
2010年リクルート入社。アルバイト・中途採用領域の求人広告営業に従事し。在職中にMVP5度受賞などの実績を上げ、業界・業種・企業規模問わず多くのクライアントからの信頼を獲得。その後人材系広告代理店を経て、2020年よりフリーランスとして活動を開始。現在では法人向けに採用支援、営業支援、SaaS導入支援など幅広く対応。