カスタマージャーニーマップを作成し顧客体験を設計する際、顧客との接点である「タッチポイント」の改善は欠かせません。そこで、今回の記事では、カスタマージャーニーマップにおける「タッチポイント」の重要性と、その効果的な改善方法をステップ別に解説します。タッチポイントとは何か、BtoBならではの特徴、そして改善のための具体的なステップや評価手法など、実践的な知識を網羅的にお伝えします。
カスタマージャーニーマップのタッチポイントとは
カスタマージャーニーマップとは、その名の通り顧客の体験を旅に例えて表現したものです。顧客があるサービスや商品を知り、購入・利用する過程で、Webサイトや店舗、営業担当者などさまざまな形で提供企業との接点を経ることになります。その一連の体験を顧客の視点で把握するために一枚の図にまとめたものが「カスタマージャーニーマップ」です。
カスタマージャーニーマップについては、こちらの記事で説明しています。
カスタマージャーニーマップのタッチポイントとは、ジャーニーマップ内で、顧客が自社のブランドと触れ合う各接点を指します。具体的にはWEBサイトやSNS、プロダクト、営業担当など、オフライン・オンラインに関わらず、顧客と自社の接点全てがタッチポイントと言えます。
チャネルとの違い
タッチポイントと混同されやすい言葉として「チャネル」があります。タッチポイントは個々の顧客接点そのものを指すのに対し、チャネルは広告媒体やSNS、WEBサイトなど、顧客との接点を持つための手段を指します。例えば、SNSというチャネルを用いて自社サービスの導入事例を投稿し、導入検討中の顧客とのタッチポイントを作るといったように、コンテンツと顧客のタッチポイントを作るための手段がチャネルといえるでしょう。
出典:5A Loyalty Suite社
BtoBのタッチポイントの特徴
BtoBでは、リードタイムがBtoCよりも長い商材が多く、購入までのタッチポイントが多くなるのが特徴です。BtoCでは、商材単価が低いものであれば、1度のTVCMやインターネット広告から認知・購入まで進めることができますが、BtoBでは、意思決定に関わる人数が複数人であること、そして商材単価が高いことから、1度の顧客接点で購入まで進めることは困難です。そのため、カスタマージャーニーマップで認知・検討・購入・利用などのフェーズを分けてタッチポイントを設計し、最終的にはストーリーとしてつなぐことをしなければ、売上や営業効率が向上していきません。近年では、購買担当者がミレニアル世代(1981年〜1990年代半ば生まれ)へ変わってきていることから、オフラインでのセミナーや商談だけでなく、オンラインでのタッチポイントを作り、両方のアプローチから購入までつなげていくことも重要となっています。
タッチポイント改善のステップ
完全に新らたに創造された市場でない限り、顧客は既に多くのブランドとのタッチポイントを持っているはずです。それらをどのように整理し、自社とのタッチポイントを設計、改善していくべきでしょうか。ここからは、複雑なBtoBのタッチポイントを網羅的に整理、改善するためのステップを解説します。
タッチポイントの洗い出し
最初にタッチポイントの洗い出しを行います。カスタマージャーニーマップ上の各フェーズで考えられるタッチポイントを、自社・他社、オフライン・オンラインに関わらず全て洗い出しましょう。このステップでは、フェーズごとにタッチポイントを綺麗に整理するのではなく、フェーズに囚われず、考えられるタッチポイントを全て出すことが重要です。この段階でタッチポイントの整理を行うと、アイディアを出すことに躊躇してしまい、抜け漏れ等が発生します。カスタマージャーニーマップ内のフェーズは、あくまでアイディアを引き出すための観点として活用し、アイディアを多く出すことに焦点を当てましょう。もしアイディア出しに困った場合は、競合他社の施策を調査したり、日頃から顧客と多く接している営業担当者などへヒアリングすることも有効でしょう。
タッチポイントの分類
タッチポイントを洗い出した後は、タッチポイントの分類を行います。タッチポイントの分類は、「カスタマージャーニーマップのフェーズ」「チャネル」「社内担当(マーケティング or 営業)」などの観点が挙げられます。分類を行っている段階でも新しいタッチポイントのアイディアが湧いてくる場合があるので、随時足していきましょう。
出典:SiteEngine社
またタッチポイントの分類時に、明確にカテゴリーを分けることが難しい場合は、アイディアの具体化を考えてみましょう。例えば、WEBサイトと言っても、オウンドメディアとサービス紹介ページでは購買検討フェーズが異なります。またセミナーにおいても、オフラインとオンライン、認知するためのセミナーと商談へつなげるためのセミナーでは、顧客へ訴求すべきポイントは異なります。なるべくすぐに施策へつなげられるよう、具体的なイメージが湧くアイディアの粒度でタッチポイントを分類すると良いでしょう。
タッチポイントの評価
タッチポイントの分類を終えた後は、各タッチポイントの効果を知るためにKPIの設定と現状数値の確認を行います。タッチポイントごとに様々なKPIが設定可能ですが、ここでは各タッチポイントを横断的に比較できるよう、売上につながりやすいKPIに絞って設定、評価すると良いでしょう。例えば、ナーチャリングを目的とした見込み顧客向けのメルマガであれば、月次のホットリード創出数にKPIを設定し、SNSやインサイドセールスなど他のナーチャリングを目的としたタッチポイントと比較することで、改善余地が大きいタッチポイントを特定しやすくなるでしょう。
KPI設定は、こちらの記事で詳しく説明しています。
改善の実施
課題となっているタッチポイントを明確にした後に、コンテンツやチャネル、運用体制、予算配分などを改善していきます。改善を考える際は、カスタマージャーニー上の顧客の行動やパーセプションと現状の施策を比較しながら、検討しましょう。また一度改善して終わりではなく、KPIを計測しながら、カスタマージャーニー内に記載していることの精緻さを確認しつつ、改善を繰り返すことをお勧めします。
タッチポイントを洗い出す際のポイント
タッチポイントを洗い出す際により具体的なポイントを解説していきます。すでに「分類せずにとりあえずタッチポイントを洗い出す」「過去の顧客行動(情報収集、検討時の行動)を営業担当にヒアリングする」といったポイントを紹介しましたが、その他に以下について説明します。
1.ペルソナの視点に立つ
2.自社以外との接点も含める
3.できる限り具体化する
1.ペルソナの視点に立つ
まず大前提として、タッチポイントを洗い出す際はペルソナの視点に立つことが重要です。ペルソナが抱える課題や購買行動、インサイト等を把握していなければ、優れたタッチポイント改善のアイディアは生まれてきません。ペルソナの視点をより深く理解する手法の一つとして、「共感マップ」を紹介します。共感マップとはユーザーや顧客の考え行動、そして痛みや欲求を深く理解するためのツールです。デザイン思考やユーザーエクスペリエンスの分野で使用されることが多く、特にユーザー中心のアプローチを採る際に役立つツールとして知られています。
出典:NIJIBOX BLOG
共感マップを用いる際の注意点としては、顧客内の複数担当者をペルソナに設定するのではなく、サービス導入を推進するキーマンをペルソナとして設定することです。キーマンへの優れたタッチポイントが整備されれば、売上への影響度合いが大きく、リードタイムも短くなり営業効率化も見込めるためです。
2.自社以外との接点も含める
タッチポイントを考える際によくある失敗として、自社とのタッチポイントだけを考えてしまうケースがあります。顧客側の立場になった場合、自社以外のサービスも比較検討していることは自然ですので、競合他社とのタッチポイントも把握しておくべきです。他社のWebサイトや広告などをチェックし、自社とは違うチャネルやアプローチを採用している場合は、ポジショニングに即して対策を検討するとよいでしょう。また、競合以外にも自社サービスの検討に影響を与える他のプレーヤーとの接点があります。例えば、自社がベンチャー企業向けのSaaSを提供している場合、ターゲットペルソナであるベンチャー経営者の導入意思決定に影響を与える接点として、ベンチャーキャピタルや経営層のコミュニティーなどがあるでしょう。こうした外部のプレーヤーとコラボレーションしてタッチポイントを作ることもできます。自社と顧客との間だけでタッチポイントを作ろうとせずに、自社以外の競合他社や、コミュニティー、団体などとの接点も活用することで、タッチポイントの効果を最大化できるでしょう。
3.できる限り具体化する
前述でも説明した通り、できるだけタッチポイントの内容を具体化することが重要です。特に購買検討フェーズが複数になっている場合、KPI等も複雑になってしまうため、改善施策を考えづらい状態になってしまいます。そのため、改善施策の精度を高めるためにも、可能な限りタッチポイントの内容を具体化しておくことが重要です。
タッチポイント評価の手法
改善施策を考えるにあたって、各タッチポイントの適切なKPIを計測できることは非常に重要です。本章ではタッチポイントを評価するための代表的な手法を解説します。
アンケート調査
顧客からの意見を直接聞くアンケート調査は、タッチポイントの質を評価する上で有効です。具体的な調査として、顧客満足度、NPS(Net Promoter Score)、CES(顧客努力指標)などが多く用いられます。こうした指標はサービスの利用体験の評価に用いられることが多いですが、セミナーやイベント、オウンドメディアなど、サービス以外のタッチポイントを評価する際にも利用できます。
NPS(Net Promoter Score):
この企業のサービスやプロダクトを「他の人にどれだけ勧めたいか」という推奨度をはかる指標
CES(顧客努力指標 / Customer Effort Score):
顧客があるサービスや製品に関する問い合わせや問題解決を行う際の「努力の度合い」をはかるための指標
属性情報・行動履歴データ
アンケート調査では顧客の主観的な評価を聞くアプローチですが、併せて顧客の属性情報や行動履歴のデータを分析することで、より詳細な評価が可能となります。属性情報には、所属企業の業界・売上規模・従業員数、個人の居住地、性別、年齢、関心などがあります。行動履歴データの例として、WEBサイトの訪問数や閲覧ページ数、滞在時間、メールの開封率、クリック数、商談回数などがあります。これらのデータとアンケート調査の結果をクロス分析することで、特定の属性を持つ顧客の満足度が極端二低いなど、タッチポイントの課題を明確にすることができます。
SNSなどでの口コミ
顧客と企業間での情報だけでなく、顧客の本音を知るためにSNSやサービス比較サイトなど、アプリのユーザーレビュー、検索履歴などの口コミを調査することもタッチポイントの改善を考えるにあたって有効です。よくある失敗例として、インサイドセールスからの営業電話やメールが多く、Google検索に「企業名 電話 しつこい」などのワードが上がってきてしまい信頼感を損なっているケースがあります。ただし、SNSや比較サイトなどでの口コミは信憑性が欠ける情報であることから、課題の仮説を立てる参考程度として活用するのがよいでしょう。
タッチポイント改善のポイント
本章ではタッチポイントの評価を元に改善を行う際のポイントを解説します。
改善するタッチポイントを絞る
タッチポイント全てを改善しようとすると、膨大なリソースと予算が必要となるため、売上や目標への影響度が高いタッチポイントのみに絞ることをおすすめします。絞り方としては、タッチポイントの評価時に著しく数値が悪いかつ、売上向上や目標達成につながりやすいものを選定し、優先順位をつけて絞っていきます。優先順位をつけて可視化する際は、目標から逆算したKPIツリーを作り、各施策の位置付けを確認することで、改善するタッチポイントの選定がしやすくなります。
コンテンツ・チャネルをパーソナライズ化する
マーケティングやセールス施策を改善する際は、ペルソナへの訴求の精緻さを意識することが重要です。ペルソナへの訴求を精緻にしていくためには、大衆向けのコンテンツ・チャネルから、ペルソナに沿ったパーソナライズ化したコンテンツ・チャネルを作成する必要があります。特に情報過多の現代においては、顧客が関心を持つ情報を顧客が好む方法で提供することが重要です。そのため、ペルソナに沿ってタッチポイントを具体化し、パーソナライズされた体験を作ることで、改善につながることが多くあります。
パーソナライズ化施策の考え方の参考として、購入意欲を持つ顧客(バイヤー)が購入の決定を行うプロセスを容易にするためのアプローチや手法「バイヤーイネーブルメント」については、こちらの記事で説明しています。
顧客からのフィードバックに応える
アンケート調査やお問い合わせからの顧客のフィードバックを素直に答え改善していくこともとても有効的な手段です。組織上の優先度はありますが、顧客の声を反映させていく姿勢が見えると、企業への信頼度を高めNPSの向上、そして売上の向上につながっていきます。そのため、大胆な施策での改善だけでなく、顧客の声に耳を傾けて、日ごろから改善していく文化を作っていくことも、タッチポイントを改善する上でとても重要です。
おわりに
タッチポイントは顧客が顧客が自社のサービスや施策と接触するポイントであり、ターゲットの状況を把握して、どのようにコンテンツを出すのかを指します。特にBtoBのタッチポイントは、BtoCよりも複雑であることから、より一層、新しいアイディアを出し整理、改善していくサイクルを回すことが重要となります。本記事内で解説しました各ポイントを元に、タッチポイントの改善を行ってみてはいかがでしょうか。