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ABMを活用すべき企業とは?メリットや成功の秘訣を解説

マーケティング

目次

近年のBtoBマーケティング手法はテクノロジーの発展により、ターゲットに合わせたアプローチを行えるようになってきています。特にマーケティングオートメーションやCRMの進化は凄まじく、データを駆使した個別の顧客体験を作り出すことが可能になりつつあります。また、ターゲットへのアプローチ手法もウェビナー、SNS、外部紹介会社、タクシー広告など選択肢が多種多様となり、今までリーチすることが難しかった意思決定者やキーパーソンとコンタクトできるようになりました。このように顧客体験のパーソナライズ化が進む中、今求められているのは「正しいターゲットの選定と理解」そして「工夫されたターゲットとのタッチポイントの創出」です。

今回の記事では、広範囲なマーケティング活動だと実現できない、特定企業へのマーケティング・営業のアプローチ戦略である「ABM(アカウントベースドマーケティング)」をご紹介します。

ABMとは?

ABMとは、Account Based Marketingの略語で市場内のターゲット企業(アカウント)にリソースを集中させるマーケティング戦略です。一般的なマーケティング戦略は特定セグメントへのアプローチですが、ABMはセグメントよりも具体的な企業を選定し、その企業に対してマーケティング戦略の立案、施策の実施を行っていきます。ターゲット企業を特定することによって、マーケティングと営業の協力体制を強固にし、パーソナライズ化された顧客体験を創ることができます。その結果、事業運営の効率が良くなり特定の市場を素早く占有できるため、近年注目されている考え方です。

出典:BIZHINT

ABMはSFA(Sales Force Automation)やCRM(Customer Relationship Management)などの営業管理ツールと親和性が高く、営業管理ツールが導入されていることを前提に戦略立案や施策の実施を考えます。

SFAの概要・導入についてはこちらの記事で紹介しているので、ぜひご参考ください。

ABMのメリット

ABMのメリットについては、大きく2つあります。
・ リソースの効率化
・ 個社ごとへの最適化・パーソナライズ化(=顧客体験の向上)
ひとつずつ詳細を説明します。

リソースの効率化

広範囲へのマーケティングは、ターゲットでない企業にもアプローチをします。そのため、どうしてもマーケティングと営業活動にとって非効率な予算消化や行動が発生してしまいます。また、マーケティングと営業の連携も難しいです。マーケティングチームにとって受注しやすいと思う企業であっても、商談すると受注には程遠い企業だったという経験はよく起こることだと思います。

ABMは企業をターゲットに設定するため、マーケティングと営業の間での認識齟齬を減らすことができます。結果的に事業運営のリソースを効率化でき、利益の向上に繋がります。

個社ごとへの最適化・パーソナライズ化(=顧客体験の向上)

近年において顧客体験(Customer Experience)が非常に重要視されており、特に顧客の課題や状況に沿ったアプローチ・提案ができるかは事業を成長させるうえで大きなカギとなっています。広範囲へのマーケティングではパーソナライズ化された体験を生み出すには限界があり、企業からの情報を顧客がスルーしてしまうリスクを負っています。

ABMはターゲット企業を特定するため、個社ごとへのパーソナライズ化が可能となります。個社ごとへのパーソナライズ化が顧客エンゲージメントとロイヤリティを向上させ、顧客単価を上昇させます。結果的に事業を成長させるきっかけを生み出します。

ABMを活用すべき企業とは

ABMは全ての企業にとって効果的というわけではありません。ターゲット企業を選定するということは、アプローチ対象の企業を減らすことにも繋がります。では、ABMを活用すべき企業の特徴は何でしょうか?下記の3つのいずれかに当てはまる企業がABMを活用すると良いと考えます。
・ 高単価・高利益の商材を扱っている
・ エンタープライズ企業への販売を行っている
・ アップセリング・クロスセリングの見込みがある

高単価・高利益の商材を扱っている

ABMは高単価・高利益の商材を販売する企業に効果的です。セグメントではなく企業へのアプローチ方法を考えるので、選定する企業数はどうしても少なくなってしまいます。そのため高単価・高利益の商材でなければ、1企業あたりの売上が少なくなってしまい利益を出すことが難しくなります。少ない企業数でも高い顧客単価の商材を受注できる企業へアプローチできれば、ABMの効果は発揮するので有効的な戦略となります。

エンタープライズ企業への販売を行っている

エンタープライズ企業への販売は、購入までの関係者が多いためリード獲得や商談設定、稟議の通し方など販売プロセスが複雑になりやすいです。その結果、個別対応を求められることが多く、企業ごとに合わせた戦術を描く必要があります。ただ受注までに労力がかかる分、高単価の商材を受注できる可能性があります。またエンタープライズ企業は日本国内だと数%の企業しかないため、広範囲なマーケティングアプローチは効率的でありません。そのため、ABMを活用し特定企業へのアプローチから受注・アップセリング・クロスセリングを狙うことで、顧客単価が向上し事業成長を促進させます。

アップセリング・クロスセリングの見込みがある

ABMの効果をより発揮させるためにはアップセリングとクロスセリングへ繋げるサービス設計・ストーリー作りが重要です。すでに既存顧客へのアップセリングとクロスセリングが実現できている場合は、ABMを活用すると企業の将来への貯金が生まれやすくなります。ただ逆に1つの商材を取り扱っている企業にとってABMの活用は難しいです。ABMを採用してしまうとターゲット企業数が限られてしまうので、「顧客単価が高い」もしくは「徐々に顧客単価が向上する」商材の方が効果的です。

ABMを戦略的に採用する際の事例

ABMは事業戦略上、どのような影響をもたらすのでしょうか?ABMを戦略的に採用する際の事例をご紹介します。ABMを採用する際の目的例として、下記の2つがあげられます。
・ ターゲットセグメントをスピード感高く占有する
・ エンタープライズ市場へ拡大する

前章の「ABMを活用すべき企業とは」と本章の目的例を掛け合わせて、ABMを取り入れるべきかを考えてみてください。

ターゲットセグメントをスピード感高く占有する(競合からの参入障壁を高くする)

販売戦略上で競合と差別化するためにABMを採用する企業があります。これは未開拓市場への進出もしくは商品の切り替え時に、ターゲットセグメントを競合他社よりも早く占有するために、セグメント内でも有力な企業の受注を獲得するやり方です。受注したあとは事例企業としてマーケティング活動へ活用、もしくは受注企業のネットワークを活用した販路拡大を狙います。

エンタープライズ市場へ拡大する

前述した通りABMはエンタープライズ企業へのアプローチが得意な手法です。今まで中小企業中心に営業活動を行っていたが、これからエンタープライズ市場へ進出する企業はABMの採用を検討しましょう。エンタープライズ市場は個別のアプローチが必要であり、中小企業へのアプローチよりもマーケティングと営業が一体とならなければいけません。特に複数の関係者との関係性が重要であるため顧客体験の設計難易度が高まります。そのためエンタープライズ市場へ拡大していく際には、ターゲット企業へのアプローチを得意とするABMを検討し、ターゲット企業にとって素晴らしい顧客体験を設計することをおすすめします。

ABM vs デマンドジェネレーション

BtoBマーケティング領域ではデマンドジェネレーションという戦略もあります。デマンドジェネレーション(Demand Generation)とは、需要(Demand)を創出(Generation)するために、広告やコンテンツを使用してターゲットにアプローチし、リードを獲得することを目的とした活動を意味します。
リードジェネレーション リードナーチャリング ABM 営業強化

出典:BIZHINT

デマンドジェネレーションはリード(人)にフォーカスした施策であるため、広範囲へのマーケティング活動から需要を生み出します。リードの質も重要ではあるもののリード数を重要視しているアプローチ方法です。比べてABMはターゲット企業のコンタクト情報の獲得が重要なので、量ではなくコンタクト情報の質を求めるアプローチです。そのため、デマンドジェレーションとは異なるマーケティング・営業のアプローチが必要になります。

ABM 営業強化

ABMは顧客の購買タイミングに左右されず自ら商談機会を作り出していく

ABMは顧客の購買タイミングに合わせてマーケティングと営業を行うのではなく、自ら商談機会を作り関係性を構築していくことを求められます。

デマンドジェネレーションでは、個社ごとへのパーソナライズ化したアプローチは非効率であることから顧客が購買意思を持つまで待たなければいけません。一方ABMの場合、顧客の購買意思決定を待っていたら一向に売上が増えません。そのため顧客のタイミングではなく、自ら関係性を構築するための手段を実施し商談を作る必要があります。

ABMの一番難しいポイントが、この「購買タイミングに左右されず自ら商談機会を作り出していかなければいけないこと」です。そのためターゲット企業の選定は肝となります。ターゲット企業の選定時点である程度、顧客の購買意思を醸成できるアプローチを描ける企業を選定した方が現実的に成果を出しやすいです。ターゲット選定ではデモグラフィックな情報だけでなく会社状況や想定課題も含めて検討が必要です。

ABMは外部ネットワークの活用が不可欠

ターゲット企業のコンタクト情報の獲得や担当者との関係性作りは、外部ネットワークを活用する必要があります。そもそもエンタープライズ企業の担当者情報を獲得するだけでも難しいですが、意思決定者やキーパーソンのコンタクト情報の獲得はより困難を増します。そのため、意思決定者やキーパーソンと関係性がある外部人材やネットワークを活かしたアプローチが不可欠です。これは特定の企業を選定しているからこそのアプローチであり、広範囲への広告やコンテンツマーケティングのような考え方では生まれない施策です。

ABMとデマンドジェネレーションの両方を採用する

ここまでABMとデマンドジェネレーションの違いを説明しましたが、近年はABMとデマンドジェネレーションの両方を採用する企業が多いです。ABMは顧客の購買タイミングを考えることなく、いかに顧客との関係性を強められるかが重要なので、受注獲得難易度は高いです。またリードタイムや商談期間も長くなる傾向があるため、すぐに売上へ結びつきにくい施策でもあります。そのためデマンドジェレーションのリード(人)への広範囲なマーケティング活動から営業へ繋げていくアプローチも取り入れることで、事業が安定しやすくなります。

ABMとデマンドジェネレーションのどちらかを選定するのではなく、「両方のアプローチに対してどうリソース配分していくのか」という考え方を持つことで、マーケティングと営業活動の幅が広がります。

ABMを成功させるステップ

ここからはABMを導入する際のステップを説明します。
ABMの導入ステップは様々ですが、一般的には下記の流れで進めることが多いです。
1.既存顧客の分析
2.ターゲット企業の定義
3.社内外の企業データベースからターゲットの選定
4.KPIの設定
5.ターゲット企業へのマーケティングチャネルの発掘
6.施策の実施と効果検証

1.既存顧客の分析

まず既存顧客の分析から行います。既存顧客の中に理想のターゲット企業があればマーケティングと営業活動のデータやログをたどり、「理想のターゲットである理由」「課題意識醸成ポイント」「クロージングまでの流れ」「リードタイムと商談期間」などを分析します。特に、自社における強みポイントとアプローチ方法は既存顧客の分析から導き出せると良いです。

2.ターゲット企業の定義

既存顧客の分析からターゲット企業の業界、業種、規模、地理的位置、収益、成長率、市場シェア、課題やニーズ、購買プロセスなどを定義します。このターゲット企業の定義を海外ではIdeal Customer Profile(ICP)と表現します。

Ideal Customer Profile 

出典:The Smarketers

注意点はペルソナ(人)ではなく企業に焦点を当てることです。ABMはあくまで企業がターゲットなので、ペルソナと混同しないようにしましょう。

3.社内外の企業データベースからターゲットの選定

定義したターゲット企業を元に、社内外の企業データベースからターゲットを選定します。社内にある企業リストと合わせて社外のデータベースも活用することで、市場規模やKPIの設定がしやすくなります。ABMはターゲット企業が限定されるので、市場の全体感を把握することは重要です。そのため、社内だけでなく社外のデータベースも活用して市場全体から戦略を組み立てていきましょう。日本企業のデータベースだと、FORCASや帝国データバンクなどが有名です。特にFORCASはSalesforceとの連携が強く、営業活動にも活かしやすいツールです。

FORCAS

出典:FORCAS

4.KPIの設定

ターゲット企業の選定を終えたあとは、マーケティングと営業フェーズの定義・KPI設定を行います。マーケティングチームとしては企業情報や意思決定者のコンタクト情報獲得数、また提供コンテンツに対する顧客エンゲージメント率などを設定し、営業チームとしては売上、受注数、提案数、初回商談数などを設定します。ポイントは、マーケティングと営業の連携が断絶しないように設定することです。断絶を防ぐためにマーケティングと営業の両方でターゲットリストの受注占有率を共通KPIとして設定し、両チームともターゲット企業へのアプローチを意識させることが大切です。

営業におけるKPIの詳細については、こちらの記事でまとめておりますのでご参考ください。

5.ターゲット企業へのマーケティングチャネルの発掘

KPIを設定したあとは、ターゲット企業へのマーケティングチャネルを探します。マーケティングチャネルといっても広告やセミナーなどではなく、外部の紹介会社などを最初に開拓します。ABMは企業をターゲットにするので、特定の企業へ直接アプローチできるチャネルが必要になります。そのため、広告などの広範囲なマーケティングから始めてしまうと非効率的です。

例として、HR Japan Summitというイベントでは主催企業に企業リストを渡すことで、リストに近い企業の意思決定者やキーパーソンと個別商談を組むことができます。このように、個別商談を組むことができるイベントや紹介会社はABMの効果を発揮させるべく活用していきましょう。

HRJAPAN

出典:HR Japan Summit

6.施策の実施と効果検証

ABMの効果検証では、ターゲットアカウントに対して期間中に獲得したコンタクト数や初回商談数、提案数、受注数、売上が重要です。そのため、ターゲットアカウント外のリードは省いて数値管理する必要があります。もし細かく数値管理を行いたい場合は、意思決定者へのリーチ数やコンタクト情報の獲得数などを追うと「リードの質の管理」が可能なのでおすすめです。また期待していた数値に達していない場合は、ターゲット選定に問題があるかもしれません。ABMはデマンドジェレーションとは違い特定の企業を選定し顧客体験もパーソナライズ化していくため、ターゲットの選定に誤りがある場合、売上に大きく影響を及ぼします。そのため、ターゲットアカウントに問題がないかを常に意識しながら各KPIを確認することが大切です。

おわりに

ABMは高単価・高利益商材をエンタープライズ企業へ販売するのに、最適なアプローチを生み出します。今までのBtoBマーケティングの概念とは異なるアプローチではありますが、テクノロジーを活かすことで実現が可能です。ぜひDXの推進と合わせて、ターゲットの整理およびマーケティング活動の見直しを行ってみてはいかがでしょうか?

著者情報
米田 晃 (よねだ あきら)
Akira Yoneda
大学卒業後、BtoB事業支援のスタートアップに入社し、「BtoB マーケティングチームの立ち上げ」「BtoB企業向けのMA/CRM初期設定・運用代行サービスの構築/運用」を担当。現在は、シンガポールにて、組織・人事コンサルティングを行いつつ、シンガポール拠点・日本拠点・タイ拠点のマーケティング戦略・施策の責任者として、企業ブランドの促進から、リードライフサイクル全ての統括を行っている。