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【BtoB向け】営業活動を加速するセールスシナリオとは?言葉の意味、作り方についてわかりやすく解説!

セールス

目次

顧客から本音の課題を引き出し、営業活動を加速し、さらには営業の成功率を上げる効果があるセールスシナリオですが、セールスシナリオの定義は曖昧であり、自社に最適なセールスシナリオの作り方がわからない方も多いのではないでしょうか。

本記事ではセールスシナリオの定義を明確化し、作成するうえで必要となる顧客理解と自社理解の深め方、さらにはシナリオ例についても紹介します。

セールスシナリオとは

セールスシナリオは多くの場合、営業用のトークスクリプトとみなされていることが考えられます。しかしながらトークスクリプトのように、想定される会話全てを表記することが主目的ではなく、顧客のあらゆる反応に応えられるように、営業活動で顧客との想定される会話の進め方や、ひいては会話の内容が可視化できる、コミュニケーションの設計図こそがセールスシナリオなのです。ドアノックから受注まで、顧客との会話を長く続けられるトピックや、顧客から課題を引き出すトピック、顧客を効果的に誘導する質問と回答予想、さらには顧客を動かすトピックなどがセールスシナリオのコンテンツとなります。

なぜセールスシナリオが重要なのか

セールスシナリオ通りに顧客との会話が進捗すれば受注の確度が上がり、さらには受注までのリードタイムが短縮できるはず。一方セールスシナリオなしで顧客と対応するのは、完全武装の相手と素手で戦うようなものです。顧客のキーパーソンに到達するためには、顧客の受付担当者や関連部署の担当者など、様々な方々とのコミュニケーションも必要となりますが、相手の職務により関心レベルはまちまち。それぞれの職務の方が興味を持ちそうなトピックを想定し、セールスシナリオで記述しておけば、意図した方向に会話が進み、必要な情報が効率的に収集できるので、キーパーソンとの面談も早急に設定できることになります。セールスシナリオ通りに会話が進捗せず、結果がなかなか出ない時もありますが、セールスシナリオで会話の流れを確認することで、問題点が見つかりやすく、営業プロセスの改善が迅速に行えるというものです。セールスシナリオの内容を日々更新するうちに、顧客以上に顧客を知ることができるので、顧客のニーズを先回りした提案が可能になることも、セールスシナリオ作成のアドバンテージといえます。

セールスシナリオ作成に必要な顧客理解と自社理解

セールスシナリオを作成する前提条件となるのが、顧客および自社を十分に理解することです。顧客の不安材料を払拭させ、自社商材を発注してもらうにはどう動くべきかということは、顧客をよく理解していないことには決められません。また自社商材を導入することで、顧客には明るい未来が待っているといったクロージングができなければ、顧客満足は得られないのです。自社と自社商材の知識が乏しければ、自社のこともわからないような相手を信用して良いのかと、顧客が不安を与えてしまうことも。自社のことを知り、競合と比較した場合の自社商材の差別ポイントが語れるようになれば、自信をもって自社商材を提案できるのです。顧客理解と自社理解の深め方について、くわしく解説します。

顧客理解の深め方

今やどんな業界であれ企業間競争が激しさを増し、秒刻みで優劣が入れ替わる状況です。どこが勝ち組になるか、先のことはわかりませんので、顧客の近い将来を予測できるよう、営業活動において、顧客を十分に理解することが重要です。基本情報が理解できていなければ、どんなに素晴らしい提案を持っていっても、門前払いになる危険性があることを肝に銘じてください。より多くの情報を、従来よりスピード感持って収集できるかどうかが、顧客理解のカギとなります。情報収集の方法にはネットサーフィン、各メディア、専門誌、業界コンソーシアム、金融情報、そして同業や社内、個人的な知り合いなど様々な情報元が考えられますが、ただ漠然とキーワード検索するのではなくて、顧客の課題とニーズを推測したうえで進めましょう。

1. 顧客が属する業界への理解を深める

まずは顧客が属する業界の規模感、業界全体の業績はよいのか悪いのか、DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進しているかどうかなどを確認します。

出典:ITR 

業界の現状分析には、政治 (Politics)、経済(Economic) 、社会(Society)、技術(Technology)の4つの切り口で分析する、PEST分析手法を活用するのも良い方法です。PEST分析で業界に影響を与えている現在の環境変化や、今後起こり得る変化の分析を行い、この先どんなビジネスチャンスがあるかを予測できます。

出典:マーケティングドリブン

そして最も重要なことは業界全体の課題を知ること。その解決策も自分なりに考えておくのも、セールスシナリオのコンテンツを充実させるためによい方法です。

2.顧客の会社への理解を深める

顧客の会社への理解には、顧客の会社の社史を知ることから始めます。顧客の会社ウェブサイトに掲載された会社概要を注意して読み、顧客が上場企業であれば、IR情報にも目を通して売上高や利益率などを確認し、自社商材が購買可能かどうかも推測します。次に業界における顧客の立ち位置の確認、競合との比較を行い、顧客の強み弱み、今後向かう方向、業績向上のための施策なども、セールスシナリオ作成のために調査しましょう。

3.顧客の役職・立場への理解を深める

顧客の会社組織や、各部署の役割を知ることも、セールスシナリオ作成に必要です。ウェブサイトで組織図が公開されているなら、まずそちらを確認しましょう。面談した方々の所属部署や役職、そして会話の中からキーパーソンの組織と、組織を構成するメンバーの上下関係やそれぞれの責務などを推測します。顧客がより理解できるはずです。

自社理解の深め方

顧客の課題解決には、自社商材の導入以外の他はない、という強い信念を持って提案し続けて、顧客を自社商材のファンにしてしまう人が、花形営業担当といえます。顧客を理解し、自社と自社商材を熟知し、顧客に提供できる価値(バリュープロポジション)は何かがわかる人が作成したセールスシナリオは、営業のベストツールになります。

出典:metrix

売れる営業担当をめざし、自社理解を深める方法について確認しましょう。

1.自社を客観的に理解する

自社の理解を深めるには、まず最初に業界全体の状況や、業界で自社は大手なのか、そうでないのかといった立ち位置の確認を客観的な視点で行います。そして自社の分析をしましょう。会社概要や社史を今一度読んでみると、会社のモットーなどを知れば、未知のことに遭遇するかも。社内の組織図から各部署の職務も確認すれば、他部署の理解が深まります。

2.自社商材への理解を深める

自社商材の有益性を十分に語れない人に、セールスシナリオの作成は困難です。新入社員になった気持ちで今一度自社商材の詳細を学び、そのコンセプト、強み弱み、価格、競合製品との差別ポイントなど、正しく説明できるようにしましょう。同僚や上司、別部署にもヒアリングを行い、他の人が自社商材をプロモートする方法なども参考にすると、自社商材について、より多くのことが短期間に身につくのでおすすめです。

3.自社の競合となる存在の理解を深める

時には競合他社の存在が無視できない場合もあります。セールスシナリオ作成には、競合他社や競合商材を知ることも大切です。自社および競合商材の比較表を作成すると頭に入りやすいでしょう。競合分析をすることで、自社の立ち位置や自社商材の特徴が明確になり、強み、弱みを正しく明示できるようになれば、自社のバリュープロポジションが十分に理解できたといえます。自社商材への愛着がさらに増し、自分にしかできないオンリーワンのセールスシナリオが作成できるようになるはずです。

出典:bixed

セールスシナリオの作り方3ステップ

自社理解と顧客理解を十分に深めたら、いよいよセールスシナリオの作成です。今回は3ステップでのセールスシナリオに必要なコンテンツを説明します。

1.ゴールを設定する

顧客の意向のまま提案し続けていても、相手を動かすことは極めて困難です。先回りした提案を用意し、競合との差別化を狙う必要があります。顧客の反応を想定したうえで、ゴールから逆算してセールスシナリオを設計することが、先回りには不可欠なのです。営業活動のゴールは案件を受注すること。受注すべきターゲットを定めたら、自社商材の強みを活かした戦略を立て、顧客のドアノックから、キーパーソンに到達するために必要な関係者との会話の流れを予想し、さらにはキーパーソンとの会話、そして受注までのプロセスを記述しましょう。

2.顧客との会話のトピックを抜き出す

初対面の相手であっても、緊張感なく顧客との会話がはずむようなら、顧客の本音を聞き出せる可能性は大です。特に挨拶の次に何を話すかは重要なので、会話が途切れないためのトピックをセールスシナリオに記載するのは良い方法といえます。商談相手の職務や場面に応じて、臨機応変にトピックを取捨選択することをお忘れなきように。次にトピック例をあげてみましょう。

・どんな相手でも会話がはずむもの
会話が続かないピンチを、確実に切り抜けられるのがこのトピックです。ビジネスパーソンは誰でも、朝一番に新聞やウェブで世界情勢を確認しているもの。そこで面談当日の朝刊やウェブニュースを確認して、目についたトピックを最初の会話で使うのです。会話の口火を切るのが目的ですので、業務に無関係の話でも構いませんが、会社か商談の相手に、関わりがありそうな話題を選びましょう。たとえば顧客がペットビジネスに関わっていたり、商談相手がペットを飼っている人なら、ペットビジネスが好調という話題を選べば話が盛り上がり、話の中から顧客のビジネス方針や本音が見えてくるかも。他には天候や季節のトピックもよいですし、相手が初対面でなければ、家族の話や休暇の話など、もっとプライベートの話題もよいでしょう。

・顧客に好印象を与えるもの
顧客の業界や顧客の最新情報に触れるのもよい方法です。「この営業担当は自社に興味をもってくれている」と好印象を与えることができ、相手から「ここだけの話」といった話題が飛び出すことも。相手が確実に動く業界ニュースの選定はウェブサイト検索で探し、顧客トピックに関しては、顧客のプレスリリースの確認で糸口をみつけましょう。

3.顧客に行う質問とその回答を予想する

「今のもので慣れている」や、「製品(サービス)の導入は予算的、マンパワー的にも現在余裕がない」などが、顧客から言われる断り文句の代表例です。自社商材を一通り説明して、さあ本題というところで、断り文句を顧客に言われてしまうと、その先に進めるのは困難になります。では断り文句を本題の前に聞くことができればどうでしょうか。あらかじめ顧客の懸案事項やニーズをいくつか予想しておき、先回りした質問ができれば、予定通り進める可能性が大きいです。たとえば「今のもので慣れている」と言われる前に、「現在どんな製品(サービス)を利用しているのか、導入して何年か、調子はどうか、困っていることはないか」など、質問を重ねていきます。「余裕がない」と言われる前には、「光熱費や人件費の高騰への対策はどうしているか、人材不足の対応はできているか」といった先回りした質問をするのはいかがでしょうか。聞き込んでいくうちに、「実は現在の製品(サービス)ではXXができないのが不満」「光熱費の高騰には困っている、人件費削減のため、作業の自動化をシステムで推進したい、人材不足で新しいことに手を出しにくい」といった顧客の本音を聞けるはず。そこまで引き出せたら、遠くに感じられたゴールが見えてくるというものです。「自社商材ならXXだけでなく、〇〇までできるので、作業効率が上がり人件費が下がる」「ランニングコストは現在使用中の製品(サービス)より下がる」という回答ができれば、もはや顧客は断り文句ではなく、真面目に話を聞きたいはず。

4.1〜3をまとめてシナリオを作成する

以上3つのステップを鑑みて、セールスシナリオを作成していきましょう。セールスシナリオは演劇の台本のように、発生する言葉を全て記載するのではないことは、すでに学習済みですね。どのような流れでゴールに到達するのか、商談フェーズで顧客との会話や、質問のやりとりで流れが悪いところはないか、顧客理解や自社理解を深めたことが反映できているか、反りはないかというところが、セールスシナリオを作成するうえでの確認ポイントといえます。

セールスシナリオの例

顧客との面談が何度になるかは未知数です。顧客の企業規模や外資系か国内企業かによっても異なりますし、顧客が既存なのか新規かでも違うでしょう。今回は新規顧客獲得と、既存顧客のアップセル獲得のための、初回商談のセールスシナリオ例を紹介します。

例1:新規顧客を獲得するセールスシナリオ

ゴール:新規顧客の獲得(商材:会計システム)
ターゲット:中堅企業、初回商談の相手は自社ウェブサイトから資料ダウンロードした経理部課長代理

前準備
・現在の会計システムは、顧客にとって不要な機能が多く、コスト高という課題があり、身の丈にあったシステムに置き換えたいというニーズが顧客にあることを予測
・商談相手の社内での立ち位置を予測
・会社概要資料、製品概要資料、競合との製品比較表、事例紹介資料を準備
・電話で日程調整し、確認メールを送る

商談の流れ
スタートは話がはずみそうなトピックから、相手が乗ってきたら頃合いを見て本題の製品紹介に移行
朝刊一面にあったトピック(当日決める)
業界アップデート(景気がよいというニュース)

顧客への質問(顧客の断り文句を聞く前にたずねる、先回りの質問)
現在利用中の製品を導入して何年か(想定していた製品であるかも確認する)
運用上で困っていることはあるか
業務の自動化は進んでいるのか

想定される相手の回答
現行製品はX年前に導入
機能が多すぎて使いこなせない
ランニングコストが高額
人力で行う処理がいまだにある

顧客の回答に対してのコメント
X年前に比べたら、会計システムは進化している
自社製品なら使いたい機能を選択できる(製品概要説明で詳しく話す)
自社製品は、多くの業務が自動処理できる
利用料金はリーズナブル(具体的な料金の質問が出たら、ユーザー数を聞いたうえで後日回答すると答える)

自社製品の詳細説明
会社概要資料で会社概要を説明(質問がない限りは簡単に)
製品概要を資料を使う(特に〇〇ページの強みはくわしく説明する)
競合と比較を問われたら、競合比較表を見せる
データ移行や運用が楽に運用できることを説明(顧客の不安材料を先回りして払拭)
事例の質問が出たら顧客と同じ業界の成功事例を紹介(顧客に明るい未来を感じさせる)

顧客の想定ネガティブコメント
検討したい

ネガティブコメントの対応
将来受注できる可能性はあるので、定期的な情報提供をしてもよいか確認
どこの商材と比較検討しているか聞く(ダメ元で)

顧客の想定ポジティブコメント
次回は関係者を集めるので、デモをしてほしい
利用料金の概算が知りたい

ポジティブコメントの対応
2回目商談日時打診
2回目商談の参加者確認
コストについては、次回提案することを言及->想定されるユーザー数の提示を顧客に依頼すること

2回目商談までのTodo
デモで特に確認したい内容を、顧客から情報を得る
キーパーソンの推測と、何が受注の決め手になるかを2回目商談までに予測
コスト資料準備
参加メンバーによっては、追加資料の準備
第2回商談用のセールスシナリオ作成

例2 既存顧客のクロスセルを受注するセールスシナリオ

ゴール:既存顧客のクロスセル(提案する商材:セキュリティシステム)
ターゲット:日本発のグローバル企業。初回面談の相手は経営企画室課長(既知の人物)

前準備
顧客の業績や商談相手の立ち位置など以前との差異があるか確認->ウェブサイトの記事からDXを推進する意向が強いことを確認。セキュリティシステムの新規導入を検討していることを以前の雑談から予測
自社業績のアップデート確認->今回は顧客の担当メンバー変更
製品概要資料、競合との機能比較、機能詳細、顧客と同業社の事例など用意。加えて自社でのDX推進状況資料も用意(顧客がDXを推進しているので)
電話で商談の日程調整を行い、確認メールを送る

商談の流れ
既存顧客なのでライトな話題から始める。タイミングをはかって本題の製品紹介に移行
休暇の予定を尋ねる(プライベートな話題から)
顧客のDXトピック

顧客への質問(課題を引き出すための先回り質問)        
セキュリティ管理はどう対応しているか、不安がないか(セキュリティシステムは未導入なことは確認済み)
セキュリティシステムで実現したいことは何か

想定される顧客の回答
セキュリティ確保に不安があり、情報収集を始めたが、海外製品が多いのでサポート体制がどうか悩ましい
自動化したいが、コストオーバーになりそう

顧客の回答へのコメント
自社製品なら、日英とも対応できるサポートメンバーを常時複数名配置で24時間365日体制でサポートができる(顧客にとって自社サポート体制は既知の話だが、競合他社の上をいくことを再度刷り込む)
自社製品はサブスクの中でもリーズナブル->導入前に顧客のニーズを十分にヒアリングするため、予算内で運用できる(顧客を安心させる)
自社製品の詳細説明
自社製品の詳細説明は、競合製品との比較に重点を置く(製品概要資料と比較表を使用)
顧客の競合の事例を示す

顧客の想定ネガティブポイント
検討したい

ネガティブコメントの対応
顧客は競合他製品も調査するので、時期をみて再度コンタクトする方向で

顧客の想定ポジティブコメント
早期導入したいので、関係者にも今日の話を聞かせたい
次の商談では費用感が知りたい

ポジティブコメントの対応
早急に次回商談を設定
次回商談の参加メンバーの確認
想定ユーザー数の提出を顧客に依頼すること(費用感資料作成のため

2回目商談までのTodo
費用感の資料と見積もりも準備(既存顧客なので、決まる時は早いはずなので見積もりも用意しておく)
次回商談のセールスシナリオ作成(キーパーソンの同席対応)

おわりに

飛び込み営業を数多くやれば、準備しなくても受注できる時代はとうに終わりました。1件づつセールスシナリオを作成して顧客開拓すると、一度に多くの提案ができませんが、確実に受注率を上げることができるのです。セールスシナリオは、トークスクリプトとは異なり、営業活動での自社と顧客との想定される会話の流れや、会話の内容を可視化するコミュニケーションの設計図であり、案件受注の確度を上げるための有効ツールであることをご理解いただけたことと思います。一旦作成したセールスシナリオは実際に運用し、顧客や関係者からフィードバックを受けながら、更新を繰り返せば、最強の形になること間違いありません。セールスシナリオで営業活動を加速しましょう。

著者情報
武藤 かおり(むとう かおり)
Kaori Mutoh
1993年に縁あってSAPジャパン株式会社に入社以来、勤め人を終えるまで一貫してIT業界にて勤務。主に外資系IT企業(主にソフトウェアベンダー)数社で日本法人立ち上げも含めた、マーケティングまたはアライアンスパートナープログラム(チャネルビジネス)部門の責任者を務める。ERP、BPM,、ECM、OSS分野でのビジネス経験あり。2018年よりフリーランスとして、ITおよびマーケティングサービス企業向けの営業およびマーケティング支援コンサルタント、ライター(IT&マーケティングトレンド専門)、マネジメントおよびジュニアマーケターの外部メンターとして活動中。