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PLG(Product-Led-Growth)とは?SLGとの違いや成功事例についてくわしく解説

マーケティング セールス

目次

世の中にはさまざまなサービスが存在し、その中にはSaaS(Software as a Service)というものもあります。SaaSは比較的新しい概念で、SaaSの営業に携わっている方々の中にはどのような営業戦略が最適なのかについて明確な答えを持っていない方もいるかもしれません。

今回は、SaaS業界の新たな戦略として注目されている「PLG(Product-Led Growth)」について紹介します。PLGとは、製品を中心に成長を促進する戦略です。このPLGについて耳にしたことがあっても、具体的な内容まで理解していない方も多いのではないでしょうか。本記事では、PLGが従来の営業スタイルであるSLG(Sells-Led Growth)と何が違うのか、またPLG戦略を取るべき判断ポイントや成功事例などまで解説いたします。

PLG(Product-Led-Growth)とは

PLG(Product-Led-Growth)とは、米ベンチャーキャピタルのOpenViewが提唱した戦略です。この戦略では、「プロダクトがプロダクトを売る」という状態を作る戦略であり、営業やマーケティングなどの活動をプロダクト内部で行います。PLGの定石はまずは無料でプロダクトを開放し、ユーザーに日々使用してもらうことです。その中で、価値を感じたユーザーが自発的に有料版にアップグレードしたくなるような設計を行い、事業の成長を促進します。のちに紹介するDocusignやSlackなど、PLG戦略を採用して成功した企業は多数存在します。これらの企業は、製品の魅力や利便性を活かし、ユーザーを引き付けることで成長を遂げました。

定義

PLGは「Product Led Growth」の略であり、日本語では「製品主導の成長」と訳されます。PLGは製品自体が主役となり、その魅力や価値によってユーザーを惹きつけることで事業の成長を目指します。営業やマーケティング活動がプロダクト内に組み込まれるため、価値を感じたユーザーは自発的に有料版へのアップグレードを行います。PLGを導入する大きなメリットは、人手を抑えながらプロダクトを成長させることができることです。近年はSaaSを提供する企業が増え、低単価で始められるツールも増えました。単価が低い場合、人員を割いて営業活動することが難しいこともあるでしょう。価格が低いSaaSは導入ハードルが低く、ユーザーが自ら学習して利用を開始できる特徴があります。この特徴を活かし、まずは無料でサービスを開放し、価値を感じたユーザーが有料版に移行するシステムを作ることで、人手をかけずに事業を成長させることができます。PLGを実現すれば高い生産性を確保し、競合に対して優位に立つことができます。獲得した利益をプロダクトの改善に活かすことで、ユーザーの定着や多くの顧客獲得につなげることができるのです。

SLG(Sells-Led-Growth)との違い

PLGとよく比較される概念として、SLG(Sales-Led-Growth)という戦略が存在します。SLGは従来型の営業手法で、「セールスによってプロダクトを売る」というスタイルです。PLGとSLGの大きな違いは、プロダクト使用までのスピードです。PLGはまずプロダクトを使用してもらい、プロダクト内部で営業やマーケティング活動を行って有料プランへの移行を促し、顧客を獲得していきます。一方SLGは、プロダクトの使用前に営業活動が必要で、実際の使用までに時間がかかります。セールスによる製品説明や社内承認などの工程があり、その間に他社との比較や乗り換えを検討する要因となってしまう可能性があります。
SLG PLG 違い

しかし、すべての製品がPLGに適しているわけではなく、SLGが適している商品も多数存在します。まずプロダクトを使用してもらうPLGと異なり、セールスの提案によって価値が生まれるようなプロダクトは、SLGが適しているのです。SalesForceはSLGで成功した代表例として知られています。SalesForceはSFA/CRMの分野で大きな成功を納めていますが、比較的高額で、導入に際して関係各所との調整が必要なプロダクトです。そのため、「まずは使ってみよう」となりにくく、PLGとの相性は良くないと言えるでしょう。SaledForceの導入には、セールスがSFA/CRM導入の重要性を説き、関係各所と調整しながら必要な機能を取捨選択していかなければなりません。このようなプロダクトには、SLGが適しています。

PLGで重要な4つのポイント

PLGを実施する際に、「Product」「Marketing」「Pricing」「Customer Success」の4つが重要な点とされています。本章では、openviewのWhat the heck is Product-led Growthを参考にそれぞれのポイントを紹介いたします。

Product

PLGを実現させるためのプロダクトの原則は、以下の通りです。

・ユーザーの不便を取り除くこと
・すばやく価値を届けること
・重要でないものを取り除くこと
・プロダクトを、それなしでは仕事にならない状態にすること

様々なプロダクトに当てはまる事ではありますが、特にPLGのプロダクトの存在価値は、「ユーザーの不便を取り除くこと」にあります。この価値をユーザーにすばやく届けることで、ユーザーはプロダクトの使用を継続し、いつしかユーザーにとって欠かせない存在になるでしょう。この際、プロダクトの機能や要素については本質的なものだけを残し、無駄なものを省くことが求められます。
ユーザーがそれなしでは仕事を遂行できない状態になるように設計することで、長期的な活用とロイヤルティを確保することができるでしょう。

marketing

マーケティングの強化も、PLGを行う上で重要なポイントです。PLGにおけるマーケティングの原則は以下の通りです。

・プロダクト自体がマーケティングチャネルであること
・買い手だけでなく、使い手もターゲットにすること
・内にも外にもバイラルできる仕組みを持つこと

PLGでは、プロダクト自体がマーケティングチャネルになります。ユーザーがプロダクトを実際に使って価値を感じることが重要であり、その体験を重視します。プロダクトの使用を通じて、魅力を発信してユーザーを引きつけるのです。マーケティング活動は、まだ使用していないユーザーだけでなく、既にプロダクトを使用しているユーザーもターゲットにしなければなりません。また、価値を感じた際に、ユーザー自身がプロダクトを広めたくなるような仕組みを設計することが重要となります。

Pricing

PLGでは、価格設定も非常に重要な点となります。通常PLGでは、「フリーミアム」か「フリートライアル」を導入しています。「フリーミアム」とは、プロダクトの基本的な機能を無料で提供し、利便性の高い機能を使うために有料プランへアップグレードさせるモデルです。「フリートライアル」とは期間限定で無料で試用させ、期限終了後に有料で使用を続けるか判断を迫るモデルです。

PLGにおける価格設定の原則は以下の通りです。

・初期利用の障害を取り除くこと
・価値を感じられた後のみ費用が発生する仕組にすること
・明確な料金体系を用意すること
・プロダクトの利用率に応じてアップセルを仕掛けること

まずはプロダクトを使用してもらうことが重要であり、無料で開放し、価値を感じた後に有料プランへ移行しやすいような設計をすることが求められます。また、有料プランへの移行には、明確な料金体系であることが重要です。料金体系が不透明な場合、有料にするかの判断が難しくなってしまいます。PLGのプロダクトの多くは、サービスの利用規模に応じてわかりやすい料金体系が用意されています。PLGとSLGが異なる点として、フリーミアムやフリートライアルモデルがマッチするか否かが挙げられます。PLGでは、プロダクト内部で営業やマーケティング活動を行うため、無料開放のフリーミアムやフリートライアルが有効です。一方SLGは、セールスが価値を伝えるプロダクトであるため、フリーミアムは適していません。また、フリートライアルについても、プロダクトによっては適していますが、全てに適しているわけではないため、プロダクトごとに判断が必要となります。

PLG SLG

出典:株式会社UB Ventures

Customer Success

カスタマーサクセスはPLGを実現する上で、購入後の顧客関係を構築する重要な要素の一つです。カスタマーサクセスの原則は以下の要素が挙げられます。

・カスタマーサクセスを最も重視すること
・セルフサービスに注力すること
・アップセルの機会を作ること

顧客の満足度を高めるため、プロダクトの使いやすさだけでなく、カスタマーサクセスを充実させることが非常に重要です。ユーザーの不便を取り除き、プロダクトを使用し続けてもらうことが、PLGを実現させることにつながります。ここで注目したいのは、「セルフサービスに注力すること」という原則です。ここで言うセルフサービスとは、ユーザーが必要な情報やサポートを自ら見つけ、利用できる環境を整えることを意味します。プロダクトの活用方法がわからない時、企業に問い合わせの連絡をすることはユーザーにとってストレスとなります。ユーザー自身で解決方法を見つけられるよう、検索エンジンやヘルプページで解決できるコンテンツを充実させることが求められるのです。また、無料版から有料版へ、有料版の中でもさらにアップグレードしてもらうために、アップセルの機会を創出することも重要です。アップセルのためには、さらなる利便性の向上させる機能を追加することや、利便性を訴求することが必要です。

PLGが最適な戦略か判断するMOAT

PLGを採用するかどうかを判断する際には、MOATと呼ばれる要素を考慮することが有益です。MOATとは、市場戦略(Market strategy)、ブルーオーシャン/レッドオーシャン(Ocean conditions)、意思決定者(Audience)、プロダクト理解までの時間(Time-to-value)の4つの重要な判断材料の頭文字を取ったものです。

Market strategy(市場戦略)

プロダクトが市場の中でどんな立ち位置にいるのか知らなければ、どんな戦略を取るべきか、PLGを採用すべきなのかを判断することはできません。ここでは、「プロダクト優位」「プロダクト価格」の観点から作成されたマトリクス図を用いて、PLGに適しているポジションをみていきたいと思います。

MOAT フレームワーク

出典:株式会社UB Ventures

PLGは、価格が低いプロダクトに適しています。価格が高く、優位性も高いプロダクトは、他社との差別化を図って事業を展開する必要があります。価格が高く、セールスによって価値を伝える必要があるため、「まずプロダクトを使ってみよう」とはなりにくい性質を持っています。価格が低いプロダクトにおいて、優位性の高いプロダクトは「ドミナント戦略」が適しています。競合よりも安価であり、プロダクトの提供価値がシンプルかつ優れているサービスは、PLGと非常に相性が良いとされています。フリーミアムやフリートライアルで導入のハードルを下げてプロダクトを使用してもらい、その価値を感じてもらうことで、ユーザーにとって「それなしでは仕事ができない状態」にさせることができるでしょう。価格が低く、既存のプロダクトより機能に劣る場合は、「ディスラプティブ戦略」が適しています。既存プロダクトのダウングレード版を安価で提供する戦略です。

具体的な例として、グラフィックデザインツールのCanvaが挙げられます。CanvaはAdobe Photoshopに比べて操作性は劣るものの、誰でも簡単にドラッグ&ドロップで一定のクオリティの仕上がりを作ることができるため、セミプロやビギナー層での利用が広まっています。特定の人にとって既存のプロダクトがオーバースペックな場合には、安価でシンプルな操作性を提供できるディスラプティブ戦略型によるPLGが適しているでしょう。

Ocean conditions (ブルーオーシャン/レッドオーシャン)

PLGにおいては、市場の環境が重要な要素となります。市場が成熟していない場合をブルーオーシャン、成熟している場合をレッドオーシャンと呼びますが、PLGと相性がよいとされるのはレッドオーシャンです。ブルーオーシャン市場では成熟度が低く、セールスによる顧客の啓蒙活動が必要です。この場合、従来のセールスとカスタマーサクセスによる丁寧なオンボーディングが有効となります。一方成熟したレッドオーシャン市場では、その分野におけるプロダクトの使用が当たり前になっているものの、その限界や課題が顕在化しています。ユーザーはプロダクトの課題解決に共感しやすく、既存プロダクトへの不満を感じているため、PLGにより導入してもらいやすい状態となっているのです。

Audience(意思決定者)

PLGを導入するかの判断基準は、意思決定者の観点も非常に重要です。PLGにおいては、エンドユーザーが重要な意思決定者となることが一般的です。PLGの成功の鍵は、プロダクトをエンドユーザーに早く届けてその価値を感じさせることです。エンドユーザーによる決定が可能な価格設定の場合は、PLGによって製品を広めることが適しています。意思決定者が会社の上層部である場合には、導入までのフローが長く、経営レベルの問題を解決するために会社に合わせたカスタマイズが必要になるでしょう。こうしたプロダクトは、SLGが適しています。

Time-to-value(プロダクト理解までの時間)

ユーザーがプロダクトの価値を感じるまでの時間は、PLGにおいて重要です。その時間が短ければ短いほど、効果的になります。仮にユーザーが使い方に戸惑ったり、プロダクトの価値に疑問を感じたりした場合は、有料版へのアップグレードを拒否するでしょう。PLGの導入は、以下の2つのポイントを軸に判断することが重要です。

・プロダクトが解決する課題はユーザーに分かりやすく、身近なものか
・ユーザーが問題解決に至るまでのステップはシンプルで期間は短いか

PLGで成功した企業事例

米国を中心に近年は多くの企業がPLGを採用し、急成長を遂げています。2012年にPLGで上場を果たした企業は1社だけでしたが、2020年には21社に増加しました。上場した企業の中には、日本でも大きく普及した企業がいくつもあります。

PLG 企業例 成功事例

出典:openviewpartners

今回はPLGの成功例として、電子署名のDocuSignのと、チャットツールのSlackを紹介いたします。

Docusign

DocuSignは主に電子署名のサービスで、オンライン上で文書に電子署名を追加したり、契約書を作成・管理したりすることができます。DocuSignはPLGの初期段階で成功した代表的な例の一つです。電子署名を用いてオンラインで文書に署名するという明確でわかりやすい価値観を提供し、サービス単体の販売に成功しました。また、シームレスなオンボーディングプロセスを提供することで、PLGの実現を達成しました。DcuSignはフリートライアルを採用し、30日間の無料トライアル期間を設けています。まずは無料で使用してもらい、ユーザーに電子署名の利便性を体感してもらう戦略を採りました。たとえ送信先の相手がDocusignのアカウントを持っていなくても、電子署名を受け取ることができるため、未導入企業とのやり取りも不便なく行うことができます。有料プランへの以降の際も、非常にわかりやすい価格設定となっており、必要なユーザー数と電子署名数によって料金が決まります。そのため、試用期間の終了後、ユーザーはニーズに応じて簡単にアップグレードできるシステムとなっています。

Slack

Slackはチャットツールとして有名で、タスク管理や他のサービスとの連携などもできることから、IT系の企業を中心に多くの企業で導入されています。SlackもPLGによって急成長したサービスの一つです。Slackはフリーミアムの戦略を採用しており、基本的な機能は無料で誰でも使用できます。無料版も非常に使いやすく、ユーザーからの評価が非常に高いプロダクトです。こうした理由から多くの企業でSlackが導入されますが、無料プランではメッセージ数や社外への連携に制限があり、利便性を高めるためには有料プランへの移行が必要となります。「Slackなしでは仕事ができない」という状態のユーザーは、喜んで有料プランへと移行するでしょう。Slackの戦略が優れている点は、有料プランに移行する前に、無料プランで十分な顧客体験を提供していることです。この顧客体験が、「プロダクトがプロダクトを売る」というPLGの状態をつくり出しています。

おわりに

PLG SLG 違い まとめ

いま話題のPLGについて解説してまいりましたが、いかがでしたでしょうか。PLGとは、要点をまとめると以下の通りです。

<PLG>
・プロダクトで価値を伝える
・単価が比較的低く、意思決定者はエンドユーザーのみ
・顧客がプロダクトを利用した後に営業活動する
・オンボーディングはわかりやすく簡単で、工数も少ない
・プロダクト改善が肝
・レッドオーシャン市場に適する

一方、従来の営業スタイルであるSLGの要点は以下の通りです。

<SLG>
・セールスが価値を伝える
・単価が比較的高く、意思決定者はエンドユーザーのみではない
・営業活動を通じて、デモ・プロダクトのトライアル利用が始まる
・オンボーディングに時間がかかる
・セールスプロセスの改善が肝
・ブルーオーシャン市場に適する

すべてのプロダクトがSLGに適しているわけではありませんが、PLGは人手をかけずに効率よく事業を成長させられるため、メリットが非常に大きい戦略です。条件に当てはまるプロダクトを扱っている企業の皆様は、PLGを検討してみてはいかがでしょうか。

著者情報
荻野 嶺(おぎの れい)
Rei Ogino
米国NY、LAで幼少時代を過ごす。 2015年、伊藤忠商事入社。金属資源部門にて経営企画や事業開発に携わり、赴任先のシンガポールで石炭の三国トレーダーとして、各国の市場を新規開拓。2020年に帰国し、スタートアップ向け人材紹介のfor Startupsに従事。入社半年で最速昇格基準達成、MVT 受賞などの実績を上げ、各有力スタートアップのCEOやVCからの信頼を獲得。 2020年12月にゼンフォース株式会社を創業し、代表取締役CEOに就任。