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パートナーセールスとは?導入のメリットや成功のコツ・事例を紹介

セールス

目次

ビジネスの拡大に向け、多くの企業が採用しているのがパートナーセールスです。これは、販売パートナーや代理店と協力し、製品やサービスをより広範囲に販売するという営業手法で、特にSaaS企業などで見られる成長戦略の一部となっています。新規の市場や顧客への販路拡大を効率的に行うための手段として活用され、利益増大の可能性を秘めています。しかしながら、パートナーセールスの成功法を型化し共有する取り組みはまだ十分に広まっておらず、新興企業にとってはその導入と活用が課題となっています。パートナーセールスを成功させるには、その具体的な業務内容やメリット・デメリットを理解し、成功に必要な要素を押さえることが重要です。

この記事では、パートナーセールスについて必要性やメリット・デメリットを詳しく解説し、その導入にあたってのポイントなどを紹介します。また、先行事例としてすでにパートナーセールスで成長している企業の事例もご紹介するので、本記事を参考に自社のパートナー戦略の見直し、検討材料としてください。

パートナーセールス(代理店販売)とは

パートナーセールス(代理店販売)とは、自社の製品やサービスを直接エンドユーザーに売り込むのではなく、代理店を介して販売する営業形態の一つです。「代理店営業」や「アライアンス営業」とも呼ばれ、代理店や業務委託先に対して販売支援を行うことで売上の増加を目指します。企業の主な役割は、パートナー(代理店)の営業活動の支援であり、プロダクトを販売するためのノウハウの提供、商談への同席、セミナーやキャンペーンの企画などが含まれます。パートナーセールスを職業とする者は、販売パートナーの営業活動をバックアップする存在となります。パートナービジネスの成功の鍵は、パートナーの先にいるエンド顧客の成功にどれだけ関与できるかという点にあります。エンド顧客の成功に関与することで、パートナーの売上が最大化され、その結果自社の売上増大につながります。そのため、パートナーセールスではエンド顧客の成功への深い理解と、その実現を支える戦略が求められます。

パートナーセールス戦略の重要性

なぜ、現代のビジネスにおいてパートナーセールス戦略が重要なのでしょうか。サービスの成熟における企業の成長戦略として取り組むべき意義について解説します。

IPO企業におけるパートナービジネスの状況

IPO企業におけるパートナービジネスの状況を見てみると、サービスが成熟期に達し、直販で一定の顧客獲得ができた多くの企業は、販売チャネルを拡大する手段としてパートナービジネスに注目しています。日本における主な販売チャネルは、直接販売、パートナー販売、web販売といった3つがあり、これらは日本の3大販売チャネルと称されています。パートナーサクセス株式会社のレポートによると、特に日本の商流の80%以上をパートナー販売が占めており、近年IPOした情報通信業界の企業の約半数がパートナービジネス(アライアンス)に取り組んでいるというデータからもその重要性が見て取れます。これらの状況からも、パートナーセールスの戦略は企業成長において重要な役割を果たすことが確認できます。

IPO企業 アライアンス

出典:パートナーサクセス株式会社「IPO企業のアライアンス事例集」

直販には壁が存在する

パートナーセールス戦略を採用すべきもう一つの理由は、サービス拡大期にぶつかる「直販の壁」があるからです。特に、SaaS企業は「THE MODEL型」を採用している企業が多く直販を優先しがちです。確かに、立ち上げ当初は、顧客に直接自社の製品やサービスの価値を訴えることができる直販は重要な意味を持ちます。しかし、Coral Insightsの「SaaSがキャズムを超えるための新たな代理店戦略」によると、いわゆるイノベーター理論のキャズムを越えるあたり、イノベーター層やアーリーアダプター層からマジョリティ層にアプローチするには直販だけでは壁にぶつかるといいます。これまで得意としてきたエリアではない地域への拡大だったり、業界だったり、企業規模に直販だけで一からアプローチするのは困難なためです。そこで、パートナー戦略が重要な意味を持ちます。なぜなら、パートナーは自社では拡大が難しい地方市場へのアクセスや、自社が直接注力したい層以外への販売拡大など、自社単独では難しい事業展開を可能にするからです。特定の業界への販売拡大を考えた場合でも、ITパートナーとは異なる業種の代理店を見つけ出し、業界特化型の戦略を立案することも可能です。これらの観点からも、パートナーセールス戦略が非常に重要であることが分かります。

SaaS キャズム

出典:Coral Insights

パートナーセールス導入のメリット

パートナーセールスの導入には数々のメリットがあり、その中でも特に注目すべきは、「コストの削減」と「新規セグメントや販路」への拡大です。これらは、事業の規模やフェーズに関わらず重要な要素となります。これらのメリットについて具体的に解説します。

コストの削減

ビジネスを大規模に展開しようとすると、避けて通れないのが人件費や設備投資などのコスト増です。特に新たなエリアへの進出を考えた場合、新規の営業スタッフの採用や拠点開設などが必要となり、さらに地方に目を向けると採用の難易度も高まるため、これらが大きな負担となることがあります。そこで、パートナーセールスを導入することで、このような直接的なコストを大幅に抑えることが可能です。パートナー企業が販売を担当することで、営業スタッフの人件費や教育コスト、さらには拠点開設に伴う各種経費を削減することが可能です。

新規セグメント・販路の拡大

従来自社が得意としていなかった市場への進出は、市場調査から営業リストの作成を行い、営業活動を一から行うなど相当な時間と労力が必要です。これはコスト的な問題だけでなく、ビジネスのスピードにも影響があり、競争戦略的にも大きな課題になります。パートナーセールスを活用することでこの問題を軽減することができます。パートナー企業は既に確立した販売網があり、様々な顧客を抱えてます。その中にはこれまで手が届かなかった市場や顧客も含まれている可能性があります。このようにパートナーセールスを活用することで、労力を割くことなく新規市場への進出が可能となり、販売の規模を効率的に拡大できるのです。

パートナーセールス導入のデメリットと注意点

パートナーセールスの導入には多くのメリットがありますが、一方で無視できないデメリットや注意すべき点も存在します。それらを把握し、適切に対処することが成功の鍵となります。パートナーセールス導入のデメリットと注意点を詳しく説明します。

すぐに売れるわけではない

パートナーセールスの導入は、一見すると業績拡大の近道のように思えますが、パートナーと契約を結んだからといって、すぐに売上が伸びるわけではありません。パートナー企業は多種多様な商品を取り扱っており、自社の商品がいつも最優先で売られるとは限らないためです。SAIRUの「SaaS企業のパートナーセールス(代理店販売)入門~取り組むための判断軸とよくある誤解~」によると、パートナー戦略を成功させるためには「パートナー企業の既存事業と自社の商品がどの程度相性が良いか」、「パートナー企業に対するサポートやインセンティブが適切に設計されているか」、「商品自体がパートナー企業から見て売りやすいかどうか」、といった3つの重要な要素があるといいます。パートナー企業の既存のビジネスと自社の商品が相乗効果を生むことができると、パートナー企業も積極的に販売活動を行う可能性が高まります。また、インセンティブが魅力的であれば、パートナー企業の営業担当者も自社の商品を推す動機付けとなります。

パートナー戦略 成功

出典:SAIRU

パートナーの管理は難しい

パートナー企業が増えれば増えるほど、各パートナーとのコミュニケーションや各商品の管理、販売状況の把握など、監督が必要な項目は一気に増大します。特に考慮すべき点なのは、自社ブランドへの影響です。パートナー企業は自社のビジネスの一部としてあなたの製品を取り扱っているため、その取り扱い方次第で企業のブランディングに影響が出る可能性もあります。例えば、自社が認識していないキャンペーンをパートナー企業が実施したり、エンドユーザーへの説明が不透明なまま販売活動が行われてしまったりすると、企業のイメージに悪影響を及ぼす可能性があります。このようなリスクを避けるためには、パートナー企業との密なコミュニケーションと共に、適切な管理体制の構築が必要です。

パートナーセールス導入を成功させるポイント

パートナーセールスの導入を成功させるためには具体的な戦略と計画が不可欠です。この章では、成功を促進する重要な要素である「成功事例の共有」「パートナープログラムの構築」「パートナー企業間のコミュニケーションを円滑にするための手段」について詳しく解説します。

成功事例を共有する

パートナーセールスを展開する上で、成功するパートナーとそうでないパートナーが存在します。重要なのは、なぜ成功しているパートナーは成功しているのか、その中で水平展開可能なノウハウがないかを分析し、全てのパートナーが成功できるようノウハウを共有することです。例えば、成功しているパートナーの営業資料であったり、セールストークなども参考になるでしょう。ノウハウ共有は、単に売上げを伸ばすだけではなく、パートナー間の信頼関係を深め、長期的なビジネスパートナーシップの育成にもつながります。また、それぞれのパートナーが自身の経験と知識を共有することで、再現性を高め、全体としてのパフォーマンスを引き上げることが期待できます。

パートナープログラムを構築する

明確なパートナープログラムを構築することも、パートナーセールスを成功させるポイントです。パートナープログラムとは、パートナービジネスの体制を整理し、その取り組みを体系化したものです。これは、契約種別、表彰制度、インセンティブなど、パートナーシップに関連する全ての要素を含んでいます。それらをパートナープログラムとしてwebサイト等に公開することで、パートナーの活動を活性化し、新たなパートナーの開拓にもつなげることができます。さらに、パートナープログラムの存在は、既存パートナーとの長期的な関係構築を促し、相互の理解を深めるのにも役立ちます。プログラムの構築と公開は、ビジネスの透明性を保証し、信頼関係を強化する重要なステップとなります。

代理店同士のコミュニケーションの場をつくる

パートナーセールスを成功に導く上で、パートナー企業同士が競争相手ではなく、共に成功を目指すパートナーとして連携を深めることも大切です。成功事例の共有でも述べたとおり、全てのパートナーが成功するためには情報共有が鍵になります。その一環として、代理店同士の交流の場を設け、情報共有を促進することが必要となります。各代理店が保有する成功事例や逆に陥った罠などを共有することでそれぞれの代理店が自身のビジネスを成長させるための新たな視点やアイデアを得ることができます。このようなコミュニケーションの場を提供し、一体感や連帯感を醸成することで、ビジネス全体としての結束力を高め、パートナーセールスの成功につなげることが期待できます。

パートナーセールス導入の成功事例

株式会社カオナビ、株式会社マネーフォワード、そして株式会社ベーシックの3社を取り上げ、それぞれがどのようにパートナーセールスを活用し、どのような成果を上げたのかを詳しく紹介します。これらの事例を通じて、パートナーセールス導入の手法や成功のポイントを具体的に理解しましょう。

株式会社カオナビ

カオナビ パートナーサクセス パートナーセールス

出典:カオナビ パートナーシップ

タレントマネジメントシステム「カオナビ」の開発・販売・サポートを行う株式会社カオナビでは、2020年にパートナーセールスを立ち上げ、直販だけではリーチできない市場へのアプローチを成功させました。元々、カオナビでは「THE MODEL型」でインバウンド主体のセールスを行っていましたが、インターネットで調べる文化のない地方の顧客にはリーチができていませんでした。そこで地場に強い販売代理店へパートナープログラムを展開し、地方への拡大を成功させました。また、教育機関向けの新サービス「カオナビ Academy Cloud」は、教育業界に強いパートナー企業様との出会いがあって実現したプロジェクトであり、パートナーとのコミュニケーションが新しいサービスやスキームにもつながっています。

株式会社マネーフォワード

マネーフォワード パートナーセールス パートナーサクセス

出典:マネーフォワード パートナープログラム

PFMサービスおよびクラウドサービスの開発・提供を行うマネーフォワードは、自社サービスの属性にあったパートナープログラムを展開し成功しています。会計ソフトを展開しているマネーフォワードが注目したのは、士業事務所です。士業事務所は多くの顧客を抱え、会計業務を受託しており、マネーフォワードとの相性が良いです。士業事務所に向けたパートナープログラムを展開し、サービスの活用サポートに留まらず、集客支援や収益源の提供まで、専任担当者が伴走支援することで、細かなフォローを実現しています。

パートナープログラムが記載されたページでは、実際にパートナーとして協業している士業事務所の事例を写真付きで掲載したり、ランク制度や、それぞれの特典も細かく記載されていることが特徴で、パートナーを検討している士業事務所がイメージしやすい作りになっています。

株式会社ベーシック

ベーシック パートナーセールス パートナーサクセス

出典:ferret One パートナープログラム

web経由の有効リードを創出させるマーケティングサービス「ferret One」を運営する株式会社ベーシックでは、2021年に、「パートナーサクセス推進室」というパートナー制度を活用した代理店販売推進部隊を立ち上げ、10ヶ月で100社ほどのパートナー獲得に成功しています。ベーシックでは、パートナーサクセスの戦略において「新規よりも既存パートナーさまからの紹介が増え、件数が担保されている状態」という目標を設定し、戦略を展開しています。「自社・競合分析」「バリューチェーンの把握」「各業種毎のニーズの可視化」の3つの観点で整理・分析し、ferret Oneのパートナーサクセスにおけるバリュー・プロポジションを明確化しました。その結果、新規開拓の後はそのパートナーさまがしっかりと育成され、既存パートナーさまからの紹介が増え、件数が担保されている状態を実現することができました。

おわりに

本記事ではパートナーセールスについて、概要やポイントを解説しました。パートナーセールスは、直販だけでは抱えきれない市場ニーズに対応し、効率的に販路を拡大する戦略です。導入におけるメリットとして、コストの削減や新規セグメントへの進出が挙げられますが、成功への道のりは必ずしも容易ではありません。代理店の適切な管理と育成、戦略的なプログラム構築が求められます。これから売上拡大を図るにあたり、パートナーセールスの導入は強力なオプションであり、その効果的な実施方法について本記事での学びをぜひ参考にしてみてください。

著者情報
金子 光 (かねこ ひかる)
Hikaru Kaneko

大学時代にサンフランシスコに留学。卒業後楽天グループ株式会社に入社。モバイル事業部に配属され、40人規模のチームリーダーを経験。その後はWEBメディアのベンチャー企業に就職。マーケティング領域(特にSEO)で活躍中。