[ B2B Enablement Media ]

法人営業歴18年の大ベテランが「仮説が最重要」と断言する理由|Datable鈴木眞理氏

セールス

目次

「営業にもっとも大切なことは?」

と聞かれたら、あなたはなんと答えるでしょうか。

「製品知識」「ヒアリング力」「熱意」など、きっとさまざまな回答があるでしょう。

キーエンス、freeeなどを経て現在株式会社DatableのVP of Salesを務める鈴木眞理さん(@shinri_55)は、この質問に対し「営業にもっとも大切なことは “仮説” である」と答えます。同氏は2023年7月に書籍『仮説起点の営業論 セールス・スキルを磨くたった1つの方法』も出版されました。

なぜ仮説が大切なのか、その仮説とはいったいどのように立てるのか。このたび、鈴木さんに特別インタビューのお時間をいただきました。「営業スキルを1ランクアップさせたい」と考える若手セールスのみなさんは特に必見です。ぜひご覧ください。

株式会社Datable VP of Sales 鈴木 眞理(すずき しんり)氏
1981年生まれ。早稲田大学卒業後、2005年キーエンス入社。工場、設備メーカーに制御機器の営業を行う。11年SAPジャパン入社。インサイドセールスを経て、エンタープライズ営業に従事。15年オープンテキストに入社しOEM販売を担当。16年freee入社。セールス、カスタマーサクセスのマネージャーを歴任、チームから全社売上1位メンバーを複数輩出。22年より現職。マーケティング、セールスなどGo To Marketに関わる領域の責任者を務める。

営業にもっとも大切なのは「仮説」である理由

―― 18年にわたり法人営業として活躍されてきた鈴木さんが、「営業にもっとも大切なのは仮説である」と考えるのはいったいなぜでしょうか。

株式会社Datable VP of Sales 鈴木 眞理
鈴木:前提としてビジネスは、お客様に価値を提供することで成り立ちます。そのため営業は、「自社サービスがどんなに優れているのか」をただ説明するのでなく、お客様が達成したいゴールを起点に課題を洗い出し、それに対して「自社サービスがどう貢献できるのか」を提案する必要があります。

「ゴール達成のためにお客様が解決すべき課題」は、当然ながら営業自身が正解を持っているわけではありません。手元にあるお客様の情報から推測する、つまり「仮説を立てる」しかないのです。

こう言うと、「課題なんてお客様に直接聞けばいいじゃないか」と思われる方もいるでしょう。しかしヒアリングを通じて得られるのは、「お客様自身が “すでに気づいている” 課題」だけです。顕在化した課題に対してサービスを提案するだけなら、営業が介在する意味がありません。

たとえば、パソコンを購入するとき、求める性能が明確であれば、わざわざ営業におすすめのパソコンを教えてもらう必要はありませんよね。しかもビジネスの構造上、営業が介在するとその分の人件費が製品価格にのっかることになるため、営業の存在はお客様にとってデメリットにすらなり得ます。

よって営業の存在意義とは、「ゴール達成のために本来解決したほうがいいけれども、お客様自身が “まだ気づいていない” 課題」に気づかせて、解決へ導くことにあると私は考えます。潜在的な課題を見つけ出すためにも、やはり「仮説」が必要なのです。

―― なるほど。だからヒアリングだけでなく「仮説をぶつけること」が大切なんですね。

短時間で、筋のいい仮説を立てるためには

―― 具体的に、鈴木さんはどのように仮説を立てているのでしょうか?

株式会社Datable VP of Sales 鈴木 眞理
鈴木:仮説構築にかける時間は、お客様の企業規模や自社の製品価格によって異なります。たとえば、エンタープライズ(大企業)向けERP「SAP」の場合、お客様の投資額は億単位です。お客様は投資規模に見合った効果を期待されるので、「それ以上の価値を提供できる提案」にする必要があります。お客様の社内には関わるステークホルダーがたくさんいて大小さまざまな問題を抱えているので、優先的に取り組むべき課題を見極めるのは大変です。中期経営計画や決算書を競合他社と比較したり、社内のプリセールスやITの専門家と壁打ちしたりしながら課題を見つけ出す必要があります。現に私がSAPの営業をおこなっていたころは、提案社数は年に10社強であり、1回の商談に対して8時間ほど準備にかけることもありました。

一方で、個人事業主やSMB(中小企業)を中心に導入されているクラウド会計ソフト「freee」の場合、顧客単価は年数万から数百万円であり、投資額が少ない分お客様が期待している効果も大企業に比べると小さくなります。組織も複雑ではないため、取り組むべき課題もシンプルです。また、この顧客単価だと、営業が1日1社提案するペースではビジネスとして成り立ちません。自社が潰れてしまえば、結果としてお客様にも迷惑をかけることになります。よってSMB向けサービスの場合は、お客様の情報をとりあえず片っ端から調べるのではなく、自社サービスに関わる領域に絞って情報を集めて、短時間で仮説を作る必要があります。事前準備にかける時間の目安は1時間以内ですね。

―― 後者において、短時間で筋のいい仮説を立てるコツがあればぜひ教えていただけますか。

鈴木:第一に、「ビジネスモデル」は課題を見つける上で最大のヒントになります。ビジネスモデルが同じであれば、たとえ別の業界であったとしても課題が近しいことがよくあるんですよ。たとえば、不動産紹介会社と人材紹介会社は業界は違えどどちらも「リボンモデル」と呼ばれるマッチングビジネスであり、よくある課題は「需要と供給のバランス」「マッチングの精度」です。こうした引き出しを自分のなかに増やしておくと、短時間で仮説を作れるようになります。

また、「求人情報」をチェックすることもおすすめです。営業職を急募しているとしたら、「リード獲得は順調だが商談数が足りていない」といった課題が想定されますし、管理部門の募集に「IPOを目指す」といった文言があれば、内部統制にニーズがあると予想できます。このように、求人情報は「お客様がいまリソースを割きたい対象」を読み解くことに役立ちます。

―― この2つに着目すれば、営業の事前準備をグッと効率化できそうですね。

1回目の仮説はハズれたっていい

―― しかし、いざ「お客様に仮説をぶつける」となると、「仮説がズレていたら信頼を損ねてしまうのではないか」という不安があります。

株式会社Datable VP of Sales 鈴木 眞理
鈴木:商談が1回で終わりではないように、仮説も一発勝負ではありません。お客様からフィードバックをもらいながら精度を高めていくものなので、1回目の仮説は多少ズレていても問題ありませんよ。それに、「御社の課題はこれです」といった断定的な表現にしない限り、お客様から不快に思われることもそうありません。むしろ「私なりに御社の課題を考えてみたのですが、こんな懸念はないでしょうか?」という姿勢に対し、「この営業担当はうちのことをよく考えてくれているんだな」と好意的に受け取ってもらえることもあります。

仮説を作る上で避けるべきは、「間違えること」よりも、「お客様にぶつける前に時間をかけすぎること」です。20時間かけて緻密な仮説を立てたとしても、大きくズレていたら時間のムダでしかありません。多少粗くとも、まずは一度お客様にぶつけてみることが大切です。

ただし、「このお客様にはこんな課題があるはずだ」という当初の思い込みが強すぎると、2回目、3回目の仮説の精度がなかなか上がらないことがあります。ビジネスモデルごとに課題は似ているとはいえ、当然ながら各社状況は異なるものです。お客様からフィードバックをもらったら、最初に作った仮説にこだわり過ぎることなく、フラットに考え直しましょう

―― 「仮説構築」は「すばやい検証」とセットである、と言えますね。心に留めておきます。

法人営業歴18年のベテランが語る、営業の醍醐味

―― 最後に、鈴木さんが感じる営業の醍醐味をぜひ教えてください。

株式会社Datable VP of Sales 鈴木 眞理
鈴木:プロダクトを開発するときは必ずお客様にヒアリングをするように、「お客様の声」は事業戦略の起点になります。営業は、この大切な「お客様の声」を第一線で受け取れる仕事です。商談の場で聞いたお客様の声は、自分の仮説のブラッシュアップに使うだけでなく、社内の開発チームやマーケティングチームにフィードバックしていく。こうして事業成長にダイレクトに貢献できることが、営業のおもしろさだな、と私は感じますね。

―― 鈴木さんは、心から営業という仕事を楽しんでいらっしゃるのですね。本日は貴重なお話をありがとうございました!

おわりに

顧客にとって営業とは、「サービスを売り込んでくる人」ではなく、「自分たちが取り組むべき課題の解決を後押ししてくれる存在」でなければならない、と改めて感じた取材でした。書籍『仮説起点の営業論 セールス・スキルを磨くたった1つの方法』には、本日お話しいただいた内容がより詳しく、すぐに実践に活かせる形でまとめられています。ぜひ、お手にとってみてください。

著者情報
齊藤 麻子(さいとう まこ)
Mako Saito
1992年生まれ。2014年九州大学芸術工学部卒業後に採用コンサルティング会社へ新卒入社。法人営業から新規事業推進、マーケティング業務に従事したのち、2018年にLIGへ。2021年にマネージャー、2023年にLIGブログ編集長に就任し、現在は自社のマーケティング、オウンドメディア運営に携わる。副業ではライターとして活動中。