現在、生産年齢人口の大幅な減少という社会問題を見据え、今後多くの企業にとって優秀な営業人材の獲得は、これまで以上に困難を極めると考えられます。こうした問題に対し、個人の能力に依存するのではなく、組織として売上げをあげる仕組みづくりに注力する企業が増加しています。
そもそも営業力とは
営業力を高めたい、という言葉は営業部に所属していたり、マネジメントしていたりする方なら、誰しも一度は口にするか聞いたことがあると思います。ではそもそも営業力とは何なのでしょう。まず営業という言葉は「広辞苑 第七版」によると、「顧客や市場を対象とした販売促進業務」と定義されています。その言葉に「力」がついて、営業力ということは、「販売促進業務を遂行する力」ということになります。つまりもう少し噛み砕くと、「顧客との関係を発展させ、自社に利益をもたらし、企業の成長を促す活動」と解釈することができます。
営業力を構成する要素
では営業力はどのような要素で構成されているのでしょうか。この記事では営業パーソンの個人スキルと、営業部の組織力の2つの軸を中心に見ていきましょう。
個人スキル
まず営業パーソン個人の営業スキルを見ていきましょう。
1. コミュニケーションスキル
2. ヒアリングスキル
3. 課題発見スキル
4. ロジカルシンキング
5. 交渉スキル
6. クロージングスキル
7. マネジメントスキル
8.プレゼンテーションスキル
9.ストレス耐性スキル
10.トラブル対応スキル
11.コミュニティ形成スキル
12.マーケティングスキル
13.ITツール活用スキル
14.情報収集スキル
14種類も記載しましたが、まとめると営業に求められる個人スキルは、マーケティング部門と連携してリードを獲得、獲得したリードの温度感を見極め適切なタイミングとパーソナライズされた営業資料でアプローチ、顧客に寄り添い交渉を行いながらクロージングまで導く、という一連の業務を円滑に進めるために必要とされるものです。これらのスキルを身につけ、複合的に活用しながら成果を挙げられる営業パーソンは、「営業力が高い」と言えるでしょう。
上記営業の個人スキルの詳細とその身につけ方については、こちらの記事で詳しく解説していますので、あわせてお読みください。
組織力
営業における組織力とは、戦略・プロセス・ツール活用・営業文化に分類できます。特に近年、CRMやMAといったマーケティングツールの普及が進み、一気にデータの利活用が浸透しました。企業の組織力はこのデータの利活用なしでは語ることはできません。従来では営業パーソン個人に属人化してしまっていた顧客情報も、上記ツールに入力するような仕組みを整えることで他の営業パーソンに共有できるようになるなど、情報の有効活用ができるようになります。
営業力は個人から組織力の時代へ
SanSan株式会社が実施した「営業活動におけるデータ活用の実態調査」より、現代の企業が考える営業力とはどのようなものか考えていきたいと思います。営業力強化のために最も必要だと思う要素として「個人の営業スキル」はコロナ禍前の29.8%から17.2%へと大幅に減少しています。また、「営業のデジタル活用」は1.8%から12.8%と7倍以上に増加、「社内のデータを営業に利用したい」は8割超という結果を示しております。
これらの結果より、個人の営業スキルを高めることは重要である一方、個人への依存から組織のデータを活用し、いかに売上をあげるための仕組みを構築することに重点を置く企業が増加していることがわかります。
本記事の冒頭で、営業力とは「顧客との関係を発展させ、自社に利益をもたらし、企業の成長を促す活動」と定義しました。従来よりも現在の方が、顧客は取引金額やその内容にシビアになっており、1人の営業パーソンの個人スキル頼みで利益を上げ続けることが難しい時代に変化しています。そんな時代の流れに対応するためにも、組織力を高めることが重要です。組織力は市場環境に合わせた適切な営業戦略と実行、継続的な改善活動が促される組織文化、業務フローの最適化など、様々な要素の掛け算が必要となります。ここからはそんな営業組織の力を高めていくことを主眼として内容を見ていきましょう。
営業力がない会社の特徴
営業活動における不明瞭な責任分担
1つの業務をチームで遂行する機会が増加
現在、製品やサービスの差別化が難しくなっている背景より、複雑なソリューション営業へのシフトが生じており、一人完結型の営業スタイルが難化しています。また、営業マネジメントの発展により、営業成果をプロセスごとに管理する重要性が高まっています。さらに、各企業において人材の多様化、人材の流動性の高まりにより、メンバーの価値感や能力に合わせた人材配置が求められています。これらの理由から、営業プロセスの中で役割を分担し、チームを設ける企業が増加しています。
チームでの情報連携/調整のためにコストが生じ、営業効率の悪化につながっている
チームでの業務遂行の増加に伴い、顧客情報についての担当者間の連携や引き継ぎのコミュニケーションコストが生じています。特に、役割が不明瞭な場合、複数人での顧客対応が必要であり、社内担当者間の調整に時間がかかっているケースもあります。このように、チームでの情報連携や調整のためにコストが生じ、営業効率の悪化につながっています。
過度な顧客対応に起因する非効率性
働く時間の25.5%はムダ、年間約8,300億円の経済損失
HubSpot Japan株式会社が実施した「日本の営業に関する意識・実態調査結果」より、営業現場で生じている非効率な部分がうかがえます。
特に、大きい要素としては2つのテーマに絞ることができ、1つ目は社内での情報共有に関するムダ、2つ目は訪問に関するムダです。
日本では「お客様第一主義」文化が過度に作用する傾向が見られる一方で、「誠意の対価」として顕著な成約率アップは見られない
買い手が営業担当者の訪問を希望する理由は、営業担当者の誠意と安心感という非合理で気持ちの要素が大きいです。一方、非訪問型営業を導入している組織・していない組織でそれぞれの営業担当者に自身の商談成約率を尋ねたところ、加重平均値はそれぞれ39.6%、41.6%と大きく差がないことが分かっています。実際に現場の営業担当者がムダと感じていることは、キーパーソンとの面談ができず再訪問することについて26.6%、日々の商談の移動時間について24%と回答されています。
営業マンが顧客対応以外に時間をかけ過ぎている
社内会議やそのための会議資料の作成など、営業活動ではない社内業務の量が多いことから、本来の顧客へ費やす時間が少ない
上述したように、1つの業務をチームで遂行するため、社内での情報連携の機会が高まっています。ゆえに、社内会議の増加、それに伴う会議資料の作成時間の増加が生じています。実際に現場の営業担当者もムダと感じていることは、社内会議について33.9%、社内報告業務について32.4%と回答されております。
情報を組織全体で共有するインフラが未整備
営業資料や会議資料、トップ営業やマネージャーのノウハウ等が散乱しており、それらの情報を組織の資産として管理・活用されていないケースがあります。また、顧客とのコミュニケーションについても営業担当者の脳内のみで蓄積・管理され、顧客情報を組織として一元管理がなされていないケースもあります。このように情報を組織全体で共有する仕組みがないことにより、
・案件の引き継ぎや部署を横断した情報連携の際、コミュニケーション回数が増える
・営業資料やノウハウが共有されないために、新入社員の育成に時間、コストがかかる・会議資料が共有されないために、重複したテーマでの議論が生じる
などが生じています。
組織的なデジタル化の遅れ
新型コロナウイルスの世界的な影響下で、多くの企業がDXの加速を検討/実施しているが、日本はDXへの取組みが世界に比べて遅れている現状
デル・テクノロジーズ株式会社が発表したニュースより現代の日本のDX化への取り組み状況がわかります。このニュースではデジタル化への取り組み具合に応じて、下記5項目で企業を分類しています。
・デジタルリーダー:DXが様々な形で自社DNAに組み込まれている企業
・デジタル導入企業:成熟したデジタル プラン、投資、イノベーションを確立している企業
・デジタル評価企業:DXを注意深く徐々に採り入れ、将来に向けたプラン策定と投資を行っている企業
・デジタルフォロワー:デジタルへの投資はほとんど行っておらず、とりあえず将来に向けたプラン策定に手を着けはじめた企業
・デジタル後進企業:デジタルプランがなく、イニシアチブや投資も限定されている企業
2018年から2020年にかけて、日本の「デジタル導入企業/デジタル評価企業」の数値が26%から47.5%に増加しており、多くの企業がDX化への取り組みを進めていることが分かります。一方、2020年の「デジタルフォロワー/デジタル後進企業」の数値は、グローバルでは16.2%、日本では51%と大きな差があります。この結果より日本企業とグローバル企業を比較すると、DXへの取り組みについて大きく遅れを取っていることが分かります。
デジタルツールを活用した、営業パフォーマンスを上げる仕組みの構築がなされていない
SanSan株式会社が実施した「営業活動におけるデータ活用の実態調査」より、他部署が収集した顧客データや外部の企業データを営業活動に利用したいと感じる人は8割超という結果を示しており、営業現場ではデータを活用した営業活動への望みが大きいことが分かります。実際に、営業力強化のために会社組織全体でデータを活用した営業に6割が取り組んでいると回答されています。
活用目的として、データに基づく営業戦略を立案するため(53.5%)、自社との取引状況を知るため(37.4%)、企業に関する基本情報を連携するため(37.2%)などがあります。一方ITツール導入後、適切なデータ活用しきれていない企業も多数あることがうかがえます。所属する部署が保有するデータについて、最新情報に保たれていないと感じている人は3割を超える上に、保有するデータが最新でなかったことで、営業活動に支障をきたしたと回答した人は半数以上という結果を示しています。具体的にデータ活用に取り組めていない理由としては運用ノウハウがない、データを共有する文化がないといった障壁が大きいようです。
営業力強化に必要な5つのこと
デロイト トーマツ グループの「B2Bの提案型営業を実現する組織営業力」より、現代の営業活動を取り巻く環境について整理していきます。競争優位は「顧客のために、何を製造して安価でタイムリーに提供できるか」から「顧客にどんな価値を提供できるか」というテーマがより重要になってきています。
過去の良い製品・サービスを作れば売れる時代から製品・サービスのコモディティ化が進み、製品やサービスだけでは差別化がしにくい時代となりました。さらに顧客の求める内容が魅力ある製品/サービスの提供から顧客のビジネス最大化への寄与へと変化していることから営業プロセスの見直し、強化することが重要となっております。
①顧客に対する提供価値の再定義
変化する顧客のニーズにValue Proposition(競合にはできない自社のみが提供できる価値)を提示できるかが差別化のポイントとなります。目指すべき営業像が何かを具現化する、誰を顧客として定義し、何を自社の提供価値とするのか、バリュープロポジションを再定義することが必要不可欠です。
②営業プロセスの組織的なマネジメント
営業担当者の顧客対面時間やマーケティング活動の時間を確保するための組織的マネジメントが必要です。具体的な取り組みとしては、業務フローの見直しによる不要な工数削減、工程の統合、業務の自動化による業務圧縮が有効な手段となります。他には、営業サポート部門を立ち上げ、ナレッジや会議資料を一括で管理できるようなインフラを整備することも効果的であると言えるでしょう。これによって営業活動情報の集計・分析、資料作成時間の削減をすることができます。また、アクティブなPDCAを実現することも重要です。そのために、各プロセスのKPIを明確化し、各KPIに対する実績の計測/可視化、各KPIを活用した部門間コミュニケーションによる改善活動の促進等により、常に改善活動が行われる組織を形成することができます。
③最適なリソースの配置
1人の営業マンによる営業活動からチームでの営業活動が増えるため個々のスキルに応じて、各メンバーの業務役割を明確にすることが重要です。そのために、
・チームメンバーの価値感/スキル/目指す姿の認識できるようにコミュニケーションを取る
・組織内で必要な仕事を洗い出し、整理する
・各個人の特徴と組織で必要な仕事をマッチングし、役割を明確に示す
などを行うことが必要不可欠です。また、若手にも積極的に権限を移譲し、活躍させることで人材育成も促進できます。このような取り組みにより、各メンバーがスキルを発揮しやすく、円滑な情報連携をできる組織となります。
④営業力強化を加速させるデジタル化ツールの導入
急速かつ複雑に社会が変化していく中で、市場の変化を察知して素早く対応するためには、有効となるデータを蓄積し、ファクトに基づく経営判断が必要
市場の変化を察知して素早く対応するために、まずは有効となるデータを蓄積することが重要です。従来では営業担当がどこに何件訪問に行ったのかという自社が主語のデータ管理になっていました。そのため、顧客の取り巻く環境や今後の取り組み方針、ニーズ等を粒度高く把握するのが困難でした。これからは顧客が主語となるデータ管理をする必要があります。
具体的には、顧客のビジネス環境に合わせて情報を蓄積したり、顧客接点情報をデータとして保有しデータを会社の資産に変えていくことが重要です。これらの取り組みにより、顧客のビジネス環境/ニーズを把握することできます。また、蓄積したデータを効果的に活用することも重要です。そのためにファクトに基づく経営判断をし、効果的な取り組みを考案すること、そのうえで各部門で良質なPDCAサイクルを促進していくことが必要になります。
CRM/SFAを始めとしたITツールを効果的に活用し、経営のデジタル化を図ることで、企業間の競争に優位に立つことができる
現在、顧客管理や営業支援のITツールが数多く存在します。これらのシステムを活用することでデータを活用した営業戦略の策定と実施、業務の自動化/簡素化、良質な改善活動の実現を促すことができます。このように企業体質の強化をすることで企業間の競争優位性を確立することができます。
⑤デジタル化による営業力強化に対する知見をセミナーや本で深める
意思決定をする経営陣のデジタルリテラシー向上を最優先に据える必要がある
上述したように、急速かつ複雑な社会変化が生じる現代において、自社の企業体質を強めるうえでITツールを適切に活用することができれば大きく営業力強化につながります。一方で、ITツールを導入しても利活用が進まない企業も多数存在します。推進者は、自社の直面するビジネス環境にとって最も有効と考えられるツールは何か、それを導入したときにはどのような障壁が考えられ、どのように対策を打つべきか、どのように社内に推進していくか等を明確にし、社内に浸透させるための知見を深めなければなりません。
DXに関係するセミナーや書籍に触れ、知見を深めることが重要
現在、DXに関するセミナーや書籍は多く存在します。それらの資料や事例からどのようなツールが存在するのか、それぞれのツールを具体的にどのように活用し、自社のビジネスを強化するか、生じうる障壁にはどのような策が有効かなど、様々な引き出しとなる情報を持っておくことが重要です。
おわりに
冒頭で述べたように「組織として継続的に売上を高めていける力」を高めるためには市場環境に合わせた適切な営業戦略と実行、継続的な改善活動が促される組織文化、業務フローが最適化されている等、様々な要素の掛け算が必要となります。それらを実現するために、
・顧客に対する提供価値を再定義する
・営業プロセスを組織的にマネジメント/支援する
・個々のスキルに応じて、各メンバーの役割を明確にする
・ITツールを効果的に活用し、経営のデジタル化を図る
・DX推進者のリテラシーを高める
がポイントになります。これらの取り組みにより営業力を高め、企業体質の強化につなげていただくことを願っています。