BtoBの営業活動において、飛び込み営業をはじめとした従来の営業スタイルでは成約を取りづらくなり、主にデジタルによるマーケティング活動が重要視されるようになりました。株式会社Innovation & Co.の「テレワーク実施中のBtoB営業の課題について調査」では、テレワーク中の営業活動について回答者の81.5%が「課題がある」と回答し、課題解決のために「セールステック(営業支援ツール、営業効率化ツールなど)を導入した・見直した」「オンライン商談のコンサルティングを受けた」といったマーケティング活動を重視した営業活動への見直しを行う動きが多くなっています。
マーケティングで成果を上げるには、マーケティング組織自体を強化する必要があります。「マーケティングを活用した営業活動を行うために、マーケティング組織を作りたい」「今あるマーケティング組織では成果が上がらないため、組織力を上げたい」といった悩みを持つ方のために、BtoBにおけるマーケティング組織の役割や種類、マーケティング組織強化のためのポイントを解説します。
マーケティング組織の重要性が増している背景
BtoBのマーケティング組織とは、市場調査をもとに自社製品・サービスの顧客ターゲットを想定し、さまざまな方法でリードを獲得後、関係性を構築しながら営業部門と商談ができるレベルまで育てていく組織です。これまではマーケティング業務を分業せず、新規顧客の開拓からフォローアップまでをすべて営業組織が行う企業もありました。実際に、株式会社Nexalの代表上島千鶴氏が2018年にマーケティング組織設置率を調査した結果では、当時のマーケティング組織の設置率はわずか11.7%と非常に低い数値となっています。
株式会社Innovation & Co.の「テレワーク実施中のBtoB営業の課題について調査」では、テレワーク中の営業活動で「新規のリード獲得数が減少した」「商談数が減った」「電話をしてもお客様とつながりにくくなった」といった課題内容の回答が多くなっています。飛び込み営業など従来の営業スタイルでは、コロナ禍以降のBtoBにおける営業活動に手詰まりを感じる営業担当者が多いことが分かるでしょう。マーケティング業務を重視しない従来の営業活動では、ニーズが顕在化していない潜在顧客へ適切なアプローチができないためです。
出典:MarkeTRUNK テレワーク実施中のBtoB営業、課題のトップは「新規リード獲得」
潜在顧客を含む新規リードへ適切なアプローチをするには、営業組織からマーケティング業務を分化しマーケティングに特化した組織の構築が必要です。ここでは、営業活動においてマーケティング業務が重視されるようになった背景を解説します。
顧客の購買プロセスの変化
インターネットの普及により、企業は情報を担当営業から仕入れる前に、自ら情報を探索・比較し導入すべきサービスの判別ができるようになりました。B2Bマーケティング株式会社と株式会社ITコミュニケーションズの共同調査「BtoB商材の購買行動に関する実態調査」では、BtoB商材の検討時に収集した情報源として「各種Webメディア」の回答が47.9%と突出しています。一方で「営業担当者」との回答は24.3%です。このように顧客の購買プロセスが「営業担当者から情報を仕入れる」前に「自ら情報を検索する」ことにプロセスが変化したことも踏まえ、情報を求めている顧客へ適切にアプローチするマーケティング活動が必要となります。
顧客の購買プロセスが変化したことを受けて、営業活動のプロセス内でマーケティング調査を行う必要性が高まりましたが、実際に顧客ニーズや行動の分析・把握といった業務を営業部門だけで行うのは、スキルの面でも工程面でも難しいものです。代わりに、マーケティング業務を専門的に行うマーケティング組織を立ち上げ、分業制にすることで業務の効率化や営業活動の適正化の実現も可能となるでしょう。
デジタルマーケティングの普及
インターネットの普及により顧客行動や購買プロセスが変化したのと同様、マーケティング活動もデジタル化が進みました。たとえばデジタルマーケティング活動の一種に、CRMツールやMAツールの活用があります。MAとは見込み客に対してのアプローチを目的に、見込み客をターゲットにして、さまざまな営業活動を行うツール、またCRMとは顧客満足や顧客ロイヤリティの向上を目的に、顧客との関係性を構築し、維持するツールです。CRMツールとMAツールによる顧客別の分析データを用いることで、個にカスタマイズした効率的な営業活動が可能となり、営業において大きな成果が期待できます。
CRMツールやMAツールを用いたデジタルマーケティング活動により、営業活動の効率化や他社との差別化が実現する一方、ツールを使いこなすためには専門の知識やスキルが必要な側面もあります。営業担当者のスキルやリソース不足が散見される場合は、営業活動とマーケティング活動を積極的に推進することは難しくなるでしょう。そのためにも、営業部門からマーケティング業務を分業し、マーケティングへ専門的に取り組めるマーケティング組織を構築することが求められています。
マーケティング組織の主なミッション
出典:ITmedia Inc.「リード獲得とは?方法や施策、 効果的なリード獲得のポイントや事例を解説」
既に営業担当者が新規顧客の獲得からアフターフォローまでを一貫して行っているような企業では「マーケティング組織の役割や目的が何か分からない」「営業と分業する必要性を感じない」と考えるかもしれません。マーケティング組織を構築するうえでは、組織上の役割やミッションを明確にしたうえで、業務をこなすことが重要です。マーケティング組織の主な役割は以下の3つがあります。
・ リード獲得
・ リード育成
・ コンテンツ制作
それぞれの役割について解説します。
リード獲得
リードとは「まだ購入(契約)には至っていないが、近い将来顧客になる可能性の高い母集団」である見込み顧客のことです。マーケティング組織では、まず営業活動の対象となるリードの獲得を行います。マーケティング活動では、個別にアプローチを行うことでリードとの関係性を育て、顧客化につなげるためです。リード獲得を目的とした主な施策は、自社サイトでのユーザーの問い合わせ、メルマガ登録者、資料やホワイトペーパーのダウンロード、SNSでのアンケートやキャンペーンなどがあり、またリード獲得のミッションは、「成約につながりそうなリード数」となります。明確な指標・KPIを設定し、リードを獲得していくことが第一ステップです。
リード育成
獲得したリードを顧客へ育成していくのも、マーケティング組織のミッションのひとつです。獲得したすべてのリードが成約まで達成するわけではありません。成約の確度をリードごとに推定し、段階に応じてリードごとに個別のアプローチを行うことで、顧客化につなげていきます。
リードの成約確度を測るために、リードから情報を得たり、信頼関係を築いたりするのもマーケティング組織の役割です。メール、チャット、電話などを通じてリードと接触し、リードの持つ悩みや課題をヒアリングします。さらにセミナーのお知らせ、メルマガ配信、オウンドメディアの記事の紹介など、リードの持つ悩みや課題の解決案を提示することで、リードとの関係性を深めていきます。
ここでの重要なポイントは、リードとの関係性を深めるためのアプローチ方法です。従来の営業活動は顧客に対して商材の「売り込み」を行うのに対して、マーケティング組織の行うリード育成はあくまでリードの悩みや課題に寄りそう「関係性の構築」を行うという点に違いがあります。リードとの関係性を深め、信頼関係が構築された段階で適切なタイミングで商談のアポイントを取得、取得後は営業担当者にリードを引き継ぐ、ここまでがマーケティング組織の業務役割です。商談後は営業活動に入るため、主には営業部門がリードを担います。
コンテンツ制作
コンテンツ制作もマーケティング組織の役割です。新規リード獲得のため、リードが抱える悩みや課題の解決策として提示し、リードとの関係性を深めるために、コンテンツ制作を行います。マーケティング組織が制作するコンテンツの種類は、自社で構築するオウンドメディアに掲載する記事コンテンツ、SNSアカウントや動画投稿サイトなどで発信するコンテンツ、広告や販売促進などのマーケティング用のコンテンツなどです。
コンテンツはすべて自社で内製するのではなく、種類によっては外部へ制作を依頼することもあるでしょう。コンテンツの制作や管理、運用はマーケティング組織が行います。
マーケティング組織の4つの型
マーケティング組織の典型的なパターンとされている型が大きく分けて4つあります。4つの型の特徴やメリットデメリットなどを理解し、また自社のマーケティング活動の現状や今後の方向性などをふまえ、最適な型を選び構築することが重要です。ここでは、マーケティング組織の代表的な4つの型の特徴やメリット、デメリットを解説します。
事業部並列型
「営業部」「企画部」「人事部」といった従来の部門と同じく、マーケティング組織を独立した部門として設置するのが「事業部並列型」です。マーケティング組織と各部門は並列関係になります。マーケティング組織の担当者は、各部門や事業部より適任とされる人材を選出し集められます。集まったメンバーに実行権限や責任を付与することで、マーケティング活動の実行や推進をするのが一般的です。社内で保有するマーケティングのノウハウを集約でき、各部門から人材を選出することで、対象となる部門や業務への理解があるためマーケティング活動に活かせるメリットがあります。営業経験の多い人材を選出することで、営業現場で培った顧客や営業プロセスのノウハウを、マーケティング活動や業務に活かすことも可能です。
ただし選出された人材のデジタルマーケティングの知見が低い場合、組織がうまくまとまらない、マーケティング活動が進まない、といった問題が発生することがあります。
マーケティング企画型
独立したマーケティング組織をほかの部門と並列関係で設置する「事業部並列型」に対して、独立したマーケティング組織を経営陣直結の部門として設置するのが「マーケティング企画型」です。「CEO直結の経営企画の部署」と同じ位置づけになるため、マーケティング企画型のマーケティング組織は、ほかの部門や事業部よりも上位に位置する組織となります。
上位組織にすることで、下位にある部門や事業部の持つマーケティングの実行力や課題を掌握しつつ、各部門や事業部と協力しながらマーケティング活動を立案し、実行していくのが特徴です。マーケティング組織が上位となるため、決定権がありマーケティングのプロジェクトが進みやすいメリットがあります。マーケティング根本の企画はマーケティング組織が行い、各事業部のレベルや戦略に応じてマーケティング活動を進めることも可能です。
各事業部、または代表者の役職や立場に差がある場合、事業部並列型では組織全体のパワーバランスが崩れやすいため、事業部やメンバー間で格差がある場合にもマーケティング企画型は有効となるでしょう。一方で、事業部並列型と同じく、メンバーにはデジタルマーケティングの知見が求められます。
プロジェクト型
マーケティング活動を事業部間で横断するプロジェクトとして位置づけ、チームを組んで活動を行うのが「プロジェクト型」です。プロジェクトを遂行するチームが、マーケティング組織に該当します。マーケティングに対する知識が乏しい、マーケティング活動の実行力が低い、各部門間での連携を取るのが難しい場合は、独立したマーケティング組織を構築すること事態が困難となります。そういったケースではプロジェクトベースでマーケティングスキルの高い人選を行い組織を構築することで、活動の促進につなげられる可能性が高いです。事業部間を横断することで、プロジェクトチームのメンバーを柔軟に編成できるメリットもあります。各部門からの協力も得やすいためマーケティング活動の瞬発力が高く、期間限定のマーケティング活動にも有効なマーケティング組織の型です。
ただし、あくまでプロジェクトとしての形成であり、メンバーは通常業務とマーケティング業務を兼務することになりますので、メンバーによっては大きな業務負担を抱える場合もあります。長期的なマーケティング活動を遂行するには不向きである点がデメリットと言えるでしょう。
アウトソーシング型
マーケティング活動や実行そのものを外部に委託するのが「アウトソーシング型」です。アウトソーシング型にも複数のパターンがあり、外部に委託したマーケティング活動の管理のみを行うチームや部署のみを自社内に設置する、マーケティング専門の子会社を設立する、完全に別の会社へマーケティング活動を外注する、などがあります。
自社に十分なマーケティングのノウハウがない、社内にマーケティング組織を構築できるリソースがない、といったときに選択肢となる方法です。メリットは、マーケティングの知見を持ったプロにマーケティング活動を任せられることです。ただし、社外に独立した組織を設ける、または外部へ委託する場合には、社内の営業をはじめとした各部門と連携を取るための体制や仕組みづくりが必要となります。それらを検討する必要があると共に、仕組みを整えるためのリソースの準備もあらかじめ用意する必要があるでしょう。
失敗するマーケティング組織の特徴
営業活動を強化するためにマーケティング活動へ注力できる組織を構築したものの、構築後マーケティング活動が想定通りに進んでいないと感じるケースもあるかもしれません。
マーケティング組織構築後に組織を再構築するのは手間がかかりますので、できる限り失敗は避けたいものです。ここでお伝えするマーケティング組織構築時の失敗事例を参考にしながら、最適な自社の組織構築方法を見極めてみてください。
意思決定に時間がかかる / リーダー不在
マーケティング施策の実行判断が慎重になってしまいスピードが遅くなるケースや、決定権をもつリーダーが不在のため、意思決定に時間がかかるケースがあります。リードの顧客化につなげるためのマーケティング活動には、スピード感が重要です。意思決定にもたついている間にタイミングを逃してしまい、せっかく育成したリードを取りこぼしてしまうことにもなるため、迅速な意思決定は重要です。
スピーディな意思決定を実現するためにも、マーケティング組織における意思決定のルートの明確化や体制づくりを行っておきましょう。具体的には、複数の事業部と連携しながらマーケティング活動を行っている場合には、意思決定権は事業部側にあるか、マーケティング側にあるかなど、所在をはっきりさせておくべきです。複数部署から選定されたメンバーで構成するチームの場合は特に、リーダーの存在が曖昧になりやすいです。活動前にリーダーを立てるなどして、決定権が誰にあるか明確にしましょう。
関連部門の御用聞きに忙殺
マーケティング組織が関連部門からの依頼に忙殺してしまい、マーケティング活動そのものがうまく進められない、といった事態に陥ることがあります。たとえば関連部門からマーケティング活動に必要な「提案資料を作ってほしい」「Webサイトのページを直してほしい」といったオーダーを受けるばかりとなり、そもそものミッションであるリード獲得や育成、コンテンツの作成が進まないと本末転倒です。
関連部門からのオーダーによる負担を少なくするためには、日頃からコミュニケーションを取りマーケティング組織の取り組みについて理解してもらい、部門間で各タスクの優先度を決めることが重要になります。さらに、関連部門からの依頼とマーケティング組織としてのコア業務を両立させるためには、マーケティング部門として達成すべき目標を掲げ、目標達成までの進捗を組織間で共有することも大事です。目標達成までの指標となるKGIやKPIを明確化し業務にあたりましょう。
専門的なスキルを持つ人材の不足
デジタルマーケティングはCRMやMAツールをはじめとしたITツールを利用するため、専門スキルが必要です。また、リードの獲得や育成のためのアプローチやコンテンツ制作のためには、ある程度のWeb知識も必要となります。デジタルマーケティングに関するノウハウやスキルが不足した状態でマーケティング組織を構築してしまっては、思うように活動成果が出せず営業活動の強化にもつながりません。
マーケティング組織を構築するとき、社内のメンバーは専門的なスキルやノウハウを十分保有しているかどうかを見極めましょう。自社内で専門的なノウハウや知識が足りないと判断した場合は、マーケティング組織の内製化にこだわらず、専門知識を持つプロがいる外部へ委託する方法も選択肢の一つです。
手段と目的の履き違え
マーケティング施策を目的として捉えがちですが、施策はあくまでマーケティングで用いる手段であり、目的ではありません。明確な目的がないままマーケティング施策について議論を続けると、当然ながらマーケティング活動での成果は出せないでしょう。たとえば「SNSと連携したキャンペーンを行う」「オウンドメディアでコンテンツを発信する」などの施策について論議をしても、「目的」が明確でなければ適切な施策を選べません。「リード獲得のための集客をする」「リード育成のために商材やブランドの認知を促進する」など、目的に応じて選ぶべきマーケティング施策は異なるため、目的の明確化は第一優先で行いましょう。目的に加え、KGIやKPIの設定も必要です。そのうえで設定したKPIやKGIを達成するためのマーケティング施策を検討するという順序となります。このように施策の検討は最後です。「メルマガを連日発信しよう」「SNSアカウントを開設しよう」「オウンドメディアを作ろう」など、手段の議論は盛り上がるでしょう。一見価値のある議論のように思えるかもしれません。
しかしながら、「何のため」を見据えた議論でなければ、議論の軸がブレてしまいます。目的を明確にするために有効な手段として、関連部門(特に営業部門)と「SLA」に合意しておくことがあります。SLAとは「Service Level Agreement」の略で、日本語では「サービス品質保証」「サービス水準合意」などと訳されます。本来SLAはサービスを提供する側が利用者に対して示す、質と量を用いた「品質保証」の基準として活用されていますが、マーケティング組織が目標を設定するベースとしてSLAを活用することも可能です。たとえばマーケティング組織と営業組織間で「リードがどのような状態(質)で、どのくらいの件数の見込み客(量)を営業組織に渡すか」とSLAとして定義しておくことで、マーケティング組織の目的の明確化とともに、営業組織とのスムーズな連携にもつながります。
おわりに
インターネットの普及などが影響し、顧客の購買行動も変化しました。従来の営業手法では成果が上がりにくくなり、個別に顧客へ適切なアプローチを行うマーケティング活動が重要視されています。マーケティング組織は営業と同じように売上に関わる目標を持ち、見込み顧客の獲得や既存顧客へのアプローチなどを行う組織です。顧客との接点がオンライン上に移る中、マーケティング組織が担う役割は大きくなりつつあるといえるでしょう。自社のマーケティング組織の強化や、営業部門とマーケティング部門の分業化を実現するためにも、今回の記事をぜひ参考にしてください。