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マーケティングオペレーションの事例と導入ステップを解説!

マーケティング

目次

近年、BtoBにおけるマーケティングや営業活動は効率化と成果の最大化を図るために、「The Modelと呼ばれる組織体制の分業化」が主流になりつつあり、プロセス全体が複雑化され始めています。特にテクノロジーにおいては、組織体制の分断により、各チームが所有している顧客情報が異なっていたり、顧客情報はあるが整備されていないがために、活用できていないといった状況をよくお聞きします。

本記事では、プロセス全体が複雑化していく中で、よりシンプルに顧客情報を管理し、データを元にしたマーケティング活動を行うためのマーケティングオペレーション (MOps)について、ご説明します。また、MOpsを活用した事例等を踏まえて、重要性や導入ステップをご紹介します。MOpsについて、概念だけでなく、具体的な業務や成果を知りたい方にとってはお役に立てる内容となっています。

なお、本記事はマーケティングオペレーション(MOps)の概念と実践について詳述した専門書籍「マーケティングオペレーション(MOps)の教科書 専門チームでマーケターの生産性を上げる米国発の新常識」(丸井達郎・廣崎依久 著、2023年、翔泳社)を参考にしております。

マーケティングオペレーション (MOps)とは?

マーケティングオペレーション

出典:slideshare

マーケティングオペレーション(MOps)とは、データやテクノロジーを用いて、企業のマーケティング戦略・計画・管理を最適化するための役割を指します。BtoBマーケティングでは、セールスフォース社で実践している「The Model」の組織体制の普及が近年進んでおり、マーケティング・営業活動の分業体制が主流になりつつあります。ただB2Bマーケティングは役割や業務が多岐に渡ることから、プロセスの分断による顧客体験の悪化が問題視されています。特にデータやテクノロジーにおいて、マーケティングオートメーションやCRMなどが導入されていても、うまくデータ統合ができないことや、データの整理ができておらず活用できていない等の問題がよく起こってしまいます。そこで、データの統合やデータの整備等のツール管理から、テクノロジーの活用、データを基にした戦略立案まで担う「MOps」の役割が導入され始めています。

具体的な業務としては、主に下記の内容があります。

・マーケティングオートメーションやCRM内のデータ設計・整理(ツールの導入も含む)
・マーケティングダッシュボードの構築
・マーケティングプロセス全体の構築・管理
・マーケティング全体のKPI設定・測定・管理
・マーケティング全体の戦略立案
・マーケティングチーム全体の定例ミーティングのファシリテーション
・マーケティングチームの人材育成推進

マーケティングオートメーションやCRMから得られたインサイトを基に、定例ミーティング内でチーム全体へのアクションプランや目標の提案、さらにチームメンバーの人材育成プランの設計まで関与します。今までは、SNS・SEO・広告・セミナー管理などのそれぞれのチームが、各KPIに対して、アクションプランを考えていたところを、MOpsチームがマーケティング活動全体からのKPI状況を見て、各チームのKPIを最適化するようにします。その結果、マーケティングチームのリソースを最大限活用でき、効率化と成果の最大化を生み出します。

MOpsについては、こちらの記事で解説しています。

マーケティングオペレーション (MOps)に求められるスキルセット

MOpsに求められるスキルセットは、大きく3つあります。一つは、「テクノロジーの知識」です。MOpsは、マーケティングオートメーションやCRM等のテクノロジーを扱うため、テクノロジーの知識は不可欠です。ただ一つだけのツールを知っているだけでなく、マーケティングに関わるテクノロジーを網羅的に知識として身につけておくことが重要です。特にツール間のデータ統合やダッシュボード(BIツールも含む)は、MOpsにおいて、肝となる知識となるため、知っておく必要があります。また感覚的に知っているのではなく、他のメンバーにも教えられる程度の知識を身につけることも大切です。

二つ目は、「データ分析力」です。MOpsチームが戦略立案やアクションプランなどを考えるのに、データ分析を行う必要があります。そのため、ダッシュボード上の数値設計と数値状況からの活動分析は、重要なスキルとなります。マーケティング活動全体を繋げるためにも、広告、SNS、SEO等の幅広いマーケティング指標と、それぞれの関係性を知っておくことも重要です。

三つ目は、「ファシリテーションスキル」です。事実だけではチームを動かすことはできないため、ミーティングの場を充実させるファシリテーションスキルが必要となります。ミーティング内ではチームの現状をデータだけで伝える「一方的なコミュニケーション」ではなく、それぞれのチームリーダーから報告してもらい、ネクストアクションを腑に落とさせるファシリテーションスキルが求められます。またMOpsチームは、マーケティングチームだけでなく部長や経営者ともコミュニケーションを取る必要があるため、各ステークホルダーに合わせたコミュニケーションを求められます。

マーケティングオペレーション (MOps)の導入事例を紹介

ここからは、MOpsを活用し、マーケティングプロセスの最適化、人材育成等への効果をもたらした導入事例をご紹介します。

再現性の高い組織的なマーケティング運用を実現 | 旭化成株式会社

旭化成社は、2021年4月に組織的にDX推進を行うデジタル共創本部を設立し、「Asahi Kasei DX Vision 2030」というビジョンのもと、「2030年にデジタルの力で境界を越えてつながり、“すこやかなくらし”と “笑顔のあふれる地球の未来”を共に創る」ことを目指しています。取り組みの一環として、デジタル人材育成に向けたDXオープンバッジ制度を設け、デジタルマーケティングの人財育成を強化しています。  DXオープンバッジ制度は5段階まで分かれており、2024年にはグローバルを含む全従業員4万6千人がレベル3まで取得することを目標としています。

オープンバッジ 旭化成

出典:旭化成株式会社

弊社は、事業部の軸が強いのですが、デジタル共創本部が横断組織となり、事業部をまたいだ、全社的なDXの取り組みを進めているところです。DXを進めるときには、全従業員のレベルが底上げされ、デジタル活用の意識を持ってもらうことが重要です。それにより組織の壁をなくし、みんなで一緒に取り組んでいくという組織風土を作りたいという想いが背景にあります。(中略)DXオープンバッジというのは、この中の人と組織風土に対する取り組みの1つになります。デジタルの意味、技術について理解するリテラシーを向上し、底上げするという目的の自己啓発プログラムとなります。(デジタル共創本部 DX経営推進センター DX企画管理部 部長 新屋弘紀氏より、引用元:TECH+

マーケティングの分野においては知識のインプットだけではなく、ロールプレイング形式のセミナーを開催を行ったり、マーケティング業界の有識者を招いた社内講義会を実施して知識に厚みをつけて実務の高度化に取り組んでおり、またグローバル目線でのマーケティング戦略・戦術の計画、実践ができうる人財の育成への注力が重要と考えています。

事業フェーズや規模に合ったマーケティング運用体制の追求 | 株式会社スマートドライブ

MOpsは、プロダクトマーケティングフィット(PMF)が確立した市場で事業を拡大するタイミングでは、各専門分野の人員を確保することが理想だが、少数精鋭で人的コストの負荷を最小限に抑えて、市場を拡大したい過渡期においては、将来リーダーを担うメンバーがマーケティング施策の企画から実行、データ分析や効果測定まで行えるフルスタックマーケターとなることが重要です。モビリティデータを活用したサービスを提供するスマートドライブ社では、過渡期において、専門性と視野の広さを兼ね備えたT型人財への成長をチーム全体で取り組み、各メンバーには自身の担当チャネルからSQL創出をKPIとして、予算の申請から成果の検証までの責任範囲を持って業務を行っています。

BIZHINT 

出典:BIZHINT

またレベニュープロセスの設計においても、MQLやSQLなどの様々な指標がある中で、それらの指標の定義が適切かどうか、また受注に対する先行指標として機能しているかどうかを常に意識されています。理由として、他社の成功事例として挙げられている仕組みが組織の実情と合わず、失敗するケースも経験されており、自社の状況にあった管理体制を設計することが大切だと理解されているからです。マーケティング施策のあらゆる場面で深掘りし、仕組み化の落とし穴にハマらずに、きちんと人と向き合って、オペレーションを構築・改善することで、実行する組織作りが実現できると考えられています。

適切なタイミングで適切なコミュニケーションを行い数値改善 | 某自動車メーカー

当社では顧客の購入履歴やサービス履歴、Webサイトのアクセス情報など、マーケティングや営業活動に活かせるデータを多く持っていたが、各部門がそれぞれの独自データの一部のみを参照し、マーケティングにおいても独自のデータを元に施策を行っていました。そのため、各部門で重複する内容のオファーを送信してしまっていたり、中にはマーケティング施策以外とは関係ない情報も送られていました。結果的にユーザーはメールへの関心がなくなってしまい、開封率の低下やオプトアウト数の増加などが起こっていました。ユーザーやクライアントと適切なタイミングで適切なコミュニケーションを行えるようにするため、 企業独⾃のデータ(販売およびサービス履歴、Webサイト訪問、運転履歴)と外部ソースからのデータ(ソーシャルメディアなど)を統合させ、顧客情報の一元管理を行うようにしました。また機械学習と人工知能を用いて、ユーザーやクライアントにとって最適なオファーメールを選択し、最適なチャネルを通じて配信される仕組みも整備しました。結果的に、パーソナライズされたコミュニケーションが実現され、メールの開封率は2倍の45%へ増加し、導入後の初年度は50%以上の販売見込みを生むことに成功しています。

マーケティングオペレーション (MOps)の導入のステップ

MOpsを導入するにあたってのステップは、下記の通りです。

1.要件定義を行う
2.ツールをリサーチし、デザインする
3.ロードマップを策定する

順番に説明します。

1. 要件定義を行う

まずマーケティングチームにおける、MOpsの目的や役割を設定します。1年先、3年先、5年先のスパンでマーケティングチームが目指したい理想像に対して、MOpsがどのような役割を担い成果を発揮すれば達成できるのかを考えます。3社の事例の通り、MOpsでも取り組むべき内容は企業の状況によって変わります。そのため、自社が目指すべき方向性に対して、役割の設定、取り組むべき優先度等を定義していきましょう。また、チームメンバー全員が同じ方向でMOpsを構築できるようにするために、構築するまでの議論にメンバーを含めることも重要です。

2. ツールをリサーチし、デザインする

次に自社の環境に合ったツールをリサーチし、システム連携図をデザインします。何のデータをどのシステムで管理し、どのツールで指標を可視化するのかをデザインするイメージです。

下記の画像が参考になるかと思います。

フライク システム連携組立図

出典:フライク

ポイントはマーケティング以外のツールも含めて、システム全体のデザインを考えることです。リードや顧客情報はマーケティングだけ所有していても組織の売上等にはあまり大きな影響をもたらしません。そのため、営業やカスタマーサクセスが使用しているツールなどとの連携が不可欠です。MOpsが使用するツールが営業やカスタマーサクセスチームが使用しているツールと連携できるかどうかを確認した上で、デザインしていきましょう。ツール選定については、データ連携を考えるとSalesforceやHubSpotなど世界的にシェア率が高いものを選ぶことをお勧めします。ただ自社のシステムが国産であれば、国産のツールの方がデータを連携しやすい場合があるので、事前にツールベンダーへ確認しておきましょう。Zapierなどのデータ連携ツールもありますが、管理が複雑になるので、ツール間で連携できるものの方が運用上良いと思います。

3. ロードマップを策定する

デザインしたシステム連携図から事業へのインパクトの大きいものを特定し、優先順位をつけてロードマップに落とし込みます。いきなり全てのツールを導入することが難しかったり、データの整備やAPI連携などの複雑な設定があったりするため、数年単位での計画となります。注意点としてはテクノロジーが近年著しいため、数年の間に新しいツールや技術が出てくることを考慮しておくことです。そのため、半年〜1年に1回、ロードマップの見直しをお勧めします。ただ新しいテクノロジーを導入すれば良いというわけではないため、手順1の要件定義の内容を元に、自社にとって最適化かどうかを判断し、ロードマップの編集とアップデートを行いましょう。

おわりに

テクノロジーが発展し続け、新しいツールが次々と登場する現代において、MOpsは今後も注目度が増していきます。さらに複雑なシステムデザインが求められる中、MOpsの構築の遅れは、組織においても成長する機会を見過ごすことになります。記事内にてご紹介した活用事例や導入手順を参考に、導入の準備を進めていきましょう。

著者情報
荻野 嶺(おぎの れい)
Rei Ogino
米国NY、LAで幼少時代を過ごす。 2015年、伊藤忠商事入社。金属資源部門にて経営企画や事業開発に携わり、赴任先のシンガポールで石炭の三国トレーダーとして、各国の市場を新規開拓。2020年に帰国し、スタートアップ向け人材紹介のfor Startupsに従事。入社半年で最速昇格基準達成、MVT 受賞などの実績を上げ、各有力スタートアップのCEOやVCからの信頼を獲得。 2020年12月にゼンフォース株式会社を創業し、代表取締役CEOに就任。