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マーケティングオペレーションとは?体制づくりと必要なスキルセットを解説

マーケティング

目次

近年、「マーケティングオペレーション(MOps)」が注目されています。この新たな概念が、なぜ急速に注目を集めているのか、その理由と必要性について本記事で解説いたします。さらに、従来のマーケターとの違いや必要なスキルセット、そしてMOpsの体制づくりについても具体的な手法とともにくわしく紹介します。今後の営業組織の効率化や人材育成を見据え、この新たな視点がマーケティング部門の成長に繋がるでしょう。ぜひ、最後までご一読いただき、MOpsの導入や人材育成の参考にお役立てください。

なお、本記事はマーケティングオペレーション(MOps)の概念と実践について詳述した専門書籍「マーケティングオペレーション(MOps)の教科書 専門チームでマーケターの生産性を上げる米国発の新常識」(丸井達郎・廣崎依久 著、2023年、翔泳社)を参考にしております。

マーケティングオペレーション(MOps)とは?

マーケティングオペレーション(MOps)は、人材、プロセス、テクノロジー、データを含むマーケティングの全領域を管轄し、マーケティングチームの生産性向上と効率的な運営を目指す役割を指します。具体的には、データを活用したベストプラクティスの追跡、成果と投資収益率の測定・改善に取り組み、デマンドジェネレーションと収益成長の推進などです。その結果、チームメンバーには有益なインサイトが提供され、マーケティング活動全体を最大化することができます。

マーケティングオペレーション

出典:slideshare

実際にマーケティングオペレーションは、近年特に米国において大いに注目されています。「Marketing Ops Professional」というコミュニティが米国で550人を対象に行った2022年の調査では、80%以上の企業が専任のマーケティングオペレーション担当・チームを配置していることが明らかになりました。

なぜ、マーケティングオペレーション(MOps)に注目が集まっているのか?

なぜ今、マーケティングオペレーションが必要とされ注目を集めているのか、その理由について解説していきます。

マーケティングオペレーション(MOps)への投資が高まる

近年、マーケティングオペレーションへの投資が増加しています。実際、米国の調査会社であるガートナーがマーケティング担当者(CMO)を対象にグローバルで行った2021年の調査によると、最も予算を投じている分野として「デジタルコマース(12.3%)」に次いで「MOps(11.9%)」が挙げられました。この結果から見ても、マーケティングの成功を収めるためには、組織全体のマーケティング活動を効率的に運用・管理するマーケティングオペレーションの構築が欠かせないと考えるCMOが多いことがわかります。

デジタル時代にマッチした組織・オペレーションが必要

企業活動のデジタル化が進むにつれ、マーケティングテクノロジーも拡大しています。2011年150しか無かったソリューションが2020には8,000ほどに成長拡大しています。

マーケティングテクノロジー

出典:chiefmartec.com

デジタル化が進む中で、企業内では日々膨大なデータが発生するようになり、これらはビッグデータと呼ばれ、活用が求められています。しかし、仕組みやプロセスなしに単純にデータを集めて使えそうなものを使用するだけでは、管理コストが膨らむばかりで効果は期待できません。同様に、ただマーケティングテクノロジーを導入するだけでは望んだ効果を得ることはできないでしょう。データやテクノロジーの価値を最大化するためには、組織全体がデータを適切に処理し、活用できるようなオペレーションモデルの構築が必要となります。その際、旗振り役として期待されるのがマーケティングオペレーションです。

マーケティングの効果の見える化

「マーケティングチームが具体的に何をしているのかわからない」という声は、組織内でよく耳にされます。これは、マーケティング活動の効果を可視化できていないことが主な原因です。これらを解決するためには、各マーケターの生産性を可視化し、その効果を定量的に評価することが重要となります。そして、この可視化と評価のプロセスを標準化し、効率的に進める上でマーケティングオペレーションは欠かせない役割を果たします。

従来のマーケターとマーケティングオペレーション(MOps)の違い

従来のマーケターとマーケティングオペレーションの間には、どのような違いがあるのでしょうか。マーケティングオペレーションが持つべきスキルや役割について解説します。

マーケティングツールの要件定義から導入までのスキルが必要

デジタル時代のマーケティングでは、ツール選定から導入、そして運用までがマーケティング戦略や戦術に大きく影響しており、テクノロジーを正しく理解した上で、最適なツールを選定しその導入と運用を行うスキルが求められています。しかし、一部の企業ではこれらのタスクがIT部門に委ねられることが多いです。管理者がマーケティング部署外にいることで、様々な問題が生じることがあります。例えば、ツールに関する問題が発生した際には、解決のためにIT部門に依存することになります。その都度、コミュニケーションコストがかかり、タイムリーに問題解決することが困難になります。また、ツールの使い方や最適な運用法についての知識がマーケティングチーム内に蓄積されず、ベストプラクティスの共有ができないという問題もあります。加えて、IT部門主導で進めると、現場のニーズに応じたツール選定や運用ができず、最大の効果を発揮できない場合もあります。これらの問題を解消するためには、マーケティング部署がツールの要件定義から導入、運用までを手掛けることが重要になります。しかし、従来のマーケターはツールの要件定義や導入の経験やスキルを必ずしも持ち合わせていません。そこで、その役割をマーケティングオペレーションが担い、マーケティング部署内でツールに関する知識を共有し、最大限の効果を得られるように導くことが求められます。

運用ルールの策定と情報共有

マーケティングオペレーションの重要な役割の一つは、ツール導入後の運用方法やプロセスを策定することです。どのような指標を採用しトラッキングするのかl、効果測定をどのように行うべきかを検討し、再現性の高い運用方法を決めて、プロセス化することが求められます。また、適切な初期設定を行うことで、本格的な運用に備えます。さらに、運用する中で蓄積されたノウハウやベストプラクティスを記録し、その情報をアップデートして社内に共有することもマーケティングオペレーションの役割の一つです。学びを担当者だけではなく組織全体に広め、全体のナレッジレベルを標準化する仕組み作りが必要です。

データマネジメントと分析

データは現代マーケティングの基盤となりますが、その管理と分析は容易なものではありません。Google Analyticsのようなシンプルなツールだけではカバーできず、BIツールやDMPなどを使用し、各種データを適切に管理・加工する能力が求められます。また、MAやCRMツールによって得られる定量的なデータだけでなく、フィールドセールスから得られる定性的なフィードバックなどから施策全体の評価をすることも大切です。これには、複数のプラットフォームに散らばるデータを一つに繋ぎ合わせるデータマネジメント力と、それを深く解析し有用なインサイトを抽出する分析力が必須となります。このように、マーケティングオペレーションが担う役割は従来のマーケターに比べて範囲が広く、マーケティング知識だけではなく、テクノロジーやデータの知識、スキルが求められます。

マーケティングオペレーション 範囲

出典:Gartner

マーケティングオペレーション(MOps)に必要なスキルセット

テクノロジーへの深い理解、データ分析力、そしてファシリテーションスキルなど、マーケティングオペレーションとして必要なスキルセットについて説明します。

テクノロジーの知識

マーケティングオペレーションにおいて、テクノロジーの知識は必要不可欠なスキルの一つです。特に、CRMやMAといったマーケティングツールの活用は日常業務において重要な位置を占めています。これらのツールは、マーケティングの最前線で活躍するために不可欠な要素であり、それぞれのツールが持つ役割や特徴を理解し、的確に使いこなすことが求められます。また、CRMなど部門横断で利用されるツールを導入する際は、他部門のメンバーの知識レベルに合わせて説明、レクチャーするスキルも求められます。

データ分析力

データ分析力もマーケティングオペレーションに不可欠なスキルの一つです。大量のデータから必要な情報を抽出し、分析することで、ビジネスのボトルネックや改善の余地を発見することが求められます。仮説の立案から検証、改善までの一連の流れを遂行できる能力は、データ駆動のマーケティングを行う上で必要不可欠です。また、データ分析力とは数字に表れた定量的なデータだけでなく、目的や狙い、原因、関係性など数字には表れない定性的な要素にも目を向ける能力を含みます。数字だけでは見えない情報を理解し、それを活用して意思決定を行うための洞察力が必要となります。

ファシリテーションスキル

ファシリテーションスキルは、マーケティングオペレーションの業務を円滑に進めるために重要なスキルです。マーケティング部門のテクノロジー教育をリードするとともに、他部署や経営層との連携をスムーズに行う必要があります。マーケティングオペレーションに関わるステークホルダーは多く、ファシリテーションスキルだけではなく、ステークホルダーを適切に動かすためのコミュニケーションスキルやリーダーシップも同時に求められます。

マーケティングオペレーション(MOps)の体制作りに必要なことは?

マーケティングオペレーションの体制を作るには、計画的なアプローチが求められます。まず、必要なスキルセットを持つチームを作り上げ、明確な目標と役割を定義します。その後、適切なツールの選定を行いますが、ここで重要なのは「どのツールが必要か?」ではなく、「どの問題の解決やニーズに対応したいか」を理解することです。そして、その要件に基づいてテクノロジースタックを設計し、全体のロードマップを作成します。フローに合わせて組織体制・ツール選定を行い、マーケティングオペレーションの導入を成功させましょう。

要件定義を行う

マーケティングオペレーション体制を作る上での最初のステップは、要件定義を行うことです。この過程では、マーケティングチームが1年先、3年先、5年先に目指す理想像を明確にし、改善すべきポイントを特定します。理想像や課題を明確にすることで、必要なマーケティングスタック全体の形や雰囲気が見えてきます。この要件定義は、全員が同じ方向を見てテクノロジーツールを選定できるようにするため、非常に重要です。将来のビジョンも含めてチーム全体で議論し、共通の目標と理解を共有しましょう。

主要ツールをリサーチする

次のステップは、主要ツールをリサーチすることです。長期的に使用する予定のツールや、マーケティング活動の中心となるツール、例えばECやMAなどは、その機能の違いを調査することが必要です。そして、このリサーチはマーケティングチームだけで行うのではなく、エンジニアやセールスなどとも連携しながら選択肢を絞り込んでいきます。この時点で各部署の意見を取り入れることで、その後の部門間でのハレーションや仕様の考慮漏れを防ぐことができます。

テクノロジースタックをデザインする

ツールのリサーチが完了し、使用するツールが明確になったら、次にテクノロジースタックの全体像を落とし込みます。具体的には、自社のマーケティング活動全体を俯瞰し、どのツールがどの部分を担当し、どのように連携するのかを明確にします。テクノロジースタックをデザインする際は、全体を一望できる視点を持つことが重要となります。例えば、ガートナー社のマーケティングテクノロジートランジションマップが参考になります。

マーケティングテクノロジートランジションマップ
出典:Gartner

ロードマップを作成する

マーケティングオペレーション体制への移行ロードマップを作成する際には、まずは現状のリソースやテクノロジーを洗い出し、これらがどのように効果を上げているのかを明らかにします。次に、理想のマーケティングオペレーションが備えているリソースやスキルセット、テクノロジーを挙げ、両者のギャップを分析することで、そこに到達するための具体的な役割分担とタイムラインを明確にすることが可能です。加えて、デザインしたマーケティングテクノロジースタックから優先度の高いものを特定し、これをロードマップに落とし込みます。数年にわたる長期的な計画なので、新しいツールや機能が途中で発表されることもあります。その都度見直すとプロジェクトが滞る可能性があるため、半年〜1年ごとの見直しを推奨します。しかし、新しいテクノロジーに流されることなく、常に自社に最適な選択を行う視点を持つことが重要です。これにより、ロードマップを常に最適化することができます。

おわりに

本記事では、マーケティングオペレーションの概念や必要性、さらには体制作りと必要なスキルセットについて解説しました。デジタル化の流れは不可逆なため、今後もより重要度は増してきます。マーケティングオペレーションはデジタル時代にマッチした組織・オペレーションを実現し、マーケティングの効果を最大化するための重要なアプローチであり、これからさらに注目度が増していきます。マーケティングオペレーションの導入を検討する際には、マーケティングチームの目標の明確化、ロードマップの作成が重要です。また、マーケティングオペレーションは日本では比較的新しいポジションのため、即戦力の採用は難しく、既存のマーケティング部門もしくはIT部門から人材育成していくのが重要です。また、外部のエキスパートを活用するのも有効な手段でしょう。

参考書籍

マーケティングオペレーション(MOps)の教科書 専門チームでマーケターの生産性を上げる米国発の新常識

著者情報
田村 佳士(たむら けいし)
Keishi Tamura
2015年に東証一部上場の人材企業に入社し、新規営業、新規事業開発に従事。2018年に機械学習ベンチャーに出向し、AI技術を駆使した新規事業の企画を推進。その後、2020年に転職し、現在は大手IT企業にてAIプロダクトのプロジェクトマネージャを担当。エンタープライズ企業へAIプロダクトの導入プロジェクトの推進やプロダクト企画に勤めている。