近年のWEBマーケティングでは、デジタルツールを駆使して施策のKPI管理を実施することが当たり前となっているかと思います。適切なKPI設定や管理を行うことで、注力すべき施策が明確となり、限られたリソースの中で、最大限の効果を発揮していくことが可能となります。本記事では、WEBマーケティングにおけるKPI設定の方法やコツをご紹介いたします。KPI設定時をイメージしながら記事を読んでいただけると、参考になるかと思います。
KPIとは?
KPIは「Key Performance Indicator」の略であり、目標達成のカギとなる重要評価指標として使用されます。
組織や部署の目標に対しての進捗度合いを評価するために、複数のKPIを設定しPDCAを回すことで、目標達成の精度を高めます。WEBマーケティングにおけるKPIは、マーケティングや営業チームの目標達成を目的に、施策の評価や進捗度合いを確認するために使用されることが多いです。KPIを適切な頻度で確認しながら運用することで、目標達成のための細やかな対策を打つことが可能となります。
KPIとKGIとの違い
組織や部署などの重要目標達成指標をKGI(Key Goal Indicator)と言います。KGIは目標達成を評価するための指標として使用されます。そのため、
・ KGIは、組織や部署などの目標指標
・ KPIは、組織や部署などの目標を達成するためのカギとなる指標
であり、複数のKPIを達成することで、KGIも達成される関係性となっています。よって、KGIは広範囲かつ抽象度も高い指標(利益 / 売上など)となり、KPIは狭範囲かつ具体的な指標(UU / CPA / リード獲得数など)となります。また、KGIは組織やチームで責任を負うことが多く、KPIは個人が責任を負えるレベルまで詳細な指標へ分解されます。
KPIツリーとは?
KGIから各KPIを分解していく際に、KPIツリーがよく使用されます。KPIツリーは、目標(KGI)とKPIとの関係性を示し、目標達成までの戦略ストーリーとなるものです。KPIツリーには、KGIから各KPIの間に、KSF(Key Success Factor)を設定するケースもあります。KSF(Key Success Factor)は、KGIを達成するための最重要プロセスであり、このKSFから各KPIを定義していくことで、戦略ストーリーが分かりやすく明確になります。
WEBマーケティングは、広告やSEO、SNS等の多種多様な施策を同時並行で実施していくため、複雑なKPI設計になりやすいです。そのため、KGIからKSF、KPIと設定することで、KGIと各KPIの関係性が明らかとなり、各KPIを達成する目的が明確になります。また、KPIツリーを各メンバーに共有しておくことで、自分の役割とKGIとの繋がりを理解できるため、チームの一員としての当事者意識の醸成も期待できます。
KPIとなり得る要件とは?
「KPIとKGIとの違い」と「KPIツリー」の2つから、KPIは下記の3つの条件を満たす必要があるといえます。
1. 目標(KGI)に対してのインパクトが大きい指標であること
2. 数値かつ計測可能であること
3. 目標数値に対して、複数の重要指標へ漏れなくダブりなく分解し設定すること
特に、「目標(KGI)に対してのインパクトが大きい指標であること」が重要であり、WEBマーケティングの指標全てをKPIとして設定するのではなく、目標達成のための戦略ストーリーに従って、指標を取捨選択することで、最短かつ最大効果でのKGI達成を目指すことができます。
WEBマーケティングにおいてKPI設定が必要な理由
ここでは、WEBマーケティングにおいてKPIを設定する理由を説明していきます。WEBマーケティングでは、複数の施策や指標を同時に管理しなければいけないため、チームや個人間の連携、KGI達成までのストーリー設計、各施策の連動などが課題となりやすいです。また新たなツールの誕生や新機能の追加の理由から、管理も煩雑になりやすい傾向にあります。
そのため、下記の目的を達成することがWEBマーケティングでKPI設定をする理由です。
1. 達成すべき目標を明確にする
2. 目標達成に必要なKSFを見いだす
3. 目標達成のための達成水準を明らかにする
4. 課題や強みを明らかにしPDCAを回す
順に説明していきます。
達成すべき目標を明らかにする
チームや個人間の連携といった課題をクリアするために、目指す方向性や戦略について認識合わせしておくことが重要です。そのためには、マーケティングもしくは組織においてのKGI・KSF・KPIを設定し、重点箇所と注力しない箇所を明確にすることで、チームや個人それぞれの意思決定の方向性を揃えることができます。
目標達成に必要なKSFを見いだす
KGIから各KPIへ細分化していく際に、現在の組織のリソース・ケイパビリティ・外部リソースを踏まえた上でKGIの達成方法を考えるかと思います。そのKGIの達成方法こそが、KSFとなります。このKSFを考えることによって、組織においても最大効率・最大効果でのKGI達成を実現できる機会を生み出すため、非常に重要なプロセスです。特に、WEBマーケティングでは、KSFの設計こそがKGI達成までのストーリー設計となるため、必須のアプローチです。あらゆる施策の中から、注力する箇所を考え、チームの共通認識を持っておくためにもKSF策定のプロセスは欠かせません。
目標達成のための達成水準を明らかにする
KPIを設定することで、目標達成のための達成水準を明確に定義することが可能となります。WEBマーケティングの領域では、どの程度のリソース・予算を投下するのか?という視点を持つことも重要です。また、各施策を連動させていくためにも、追うべき指標を明確に定義した上で運用していかなければ、成果の最大化を生み出せません。各施策を連動させ、KGIを達成するためにも、KPIを設定し、達成水準を明らかにすることは重要です。
課題や強みを明らかにしPDCAを回す
定めたKPIに対する進捗を確認していくことで、実施した施策の課題や強みが明らかになります。KGIを達成するためには、各施策の現状を適切に評価し、スピード感のあるPDCAを回すことが重要です。逆にKPIを設定しなければ、施策の良し悪しが分からず、各施策の改善にはつながりません。それでは、行き当たりばったりな施策設計や集客チャネルの有意性を見誤ってしまうため、KGI達成までのスピード感がどうしても遅くなってしまいます。また、仮説を検証し課題が明確になるだけでも、組織にとって貴重な情報となります。事業フェーズごとで施策が変わるWEBマーケティングにおいて課題を明らかにするためにも、KPI設定は必須といえるでしょう。
WEBマーケティングにおけるKPI設定の方法とコツ
ここからは、WEBマーケティングにおけるKPI設定の方法とコツを説明していきます。WEBマーケティングにおけるKPI設定の方法は下記の通りです。
1. WEBマーケティングのKGIを設定する
2. KGIと、現在の実績数値とのギャップを把握する
3. KGIとのギャップを基にKSFを設定する
4. KSFからKPIツリーを作成する
1. WEBマーケティングのKGIを設定する
まずWEBマーケティング領域のKGIを、組織のKGIから設定します。この時に重要なのが、WEBマーケティングで目指す方向性を他の部署と共通認識を持っておくことです。よくあるのが、縦割り型の組織体制で、マーケティング・営業・カスタマーサクセスが連携せずに個々のKGIを持ち、部署のKGIは達成しても組織のKGIは達成しなかった、もしくは顧客からのクレームが増えブランドイメージを下げてしまったというパターンです。
近年は顧客体験重視のビジネスオペレーションが主流となりつつあるので、マーケティング・営業・カスタマーサクセスの連携は必須です。そのため、WEBマーケティング領域において、目指すべき方向性を議論する際から、他の部署も交えて、設定していきましょう。WEBマーケティングにおけるKGI設定は、量と質の観点から考えていきます。
例えば、組織として売上1億、顧客単価100万円をKGIとして設定し、今期目指す受注件数は100件としましょう。SaaSの各フェーズにおける平均移行率を採用した場合、マーケティングから営業へバトンタッチするリードは、169件になります。そこから、WEBマーケティングでは169件中の70%を担当した場合、WEBマーケティングとしてのKGIは、約118件となります。ただし、ここで注意しなければいけないのは、WEBマーケティングから単純に118件のリードを営業へバトンタッチすればよいというわけではないことです。
本質的なことを考えれば、118件のリードの30%を提案までつなげ、さらに受注へ至る必要があります。
そのため、WEBマーケティングの施策から営業へバトンタッチしたリードがどの程度提案・受注へ至ったのか?を計測することが重要です。だからこそ、KGIの設定時には、量だけでなく質も含めることが欠かせないのです。KGIに質の観点も含めなければ、KSFやKPI設定時に観点から漏れたり、チーム全体として質を意識しない傾向になりやすいです。チームとして一貫した戦略・施策を行うためにも質の観点を含めたKGI設定が必要になります。
2. KGIと、現在の実績数値とのギャップを把握する
KGI設定の後には、KGIと現在の実績数値とのギャップを把握します。把握するための確認ポイントとして、次の例が挙げられます。「今までの施策の延長線上でKGIを達成できる見込みか?」「それとも改善や新規施策が必要なのか?」「今までの施策の延長線上でKGIを達成できる場合、長期目線でリードライフサイクルに課題が生じるか?」「改善や新規施策が必要な場合は、リードライフサイクルの中でどこに課題があるのか?」
特に、ギャップを把握する際は、単なる「リード獲得数が少ない」や「リードの質が良くない」を把握するだけでなく、リードライフサイクル全体における課題を把握することが重要です。顧客は、リードライフサイクルに沿って自社のことを認知・理解していくので、「リード獲得数が少ない」原因は、リード獲得に直結するCVポイントではなく、その前の認知段階に課題がある場合もあります。
(出典:PriceSpider)
主に下記の指標を最低限見ておくことと、リードライフサイクル全体の現状は把握できるかと思います。
・ UU数
・ リード獲得数、CVR
・ WEBマーケティング施策から営業へバトンタッチしたリード数、CVR
・ WEBマーケティング施策からの受注数、CVR
・ リード獲得から営業へバトンタッチするまでの期間
・ リード獲得から受注までの期間
・ リードソース別)リード獲得数、CVR
・ リードソース別)WEBマーケティング施策から営業へバトンタッチしたリード数、CVR
・ リードソース別)受注数、CVR
・ リードソース別)リード獲得から営業へ渡すまでの期間
・ リードソース別)リード獲得から受注までの期間
他にも広告やメールマーケティングなどの細かい指標もありますので、可能な限り全ての指標をリードライフサイクルに当てはめて把握していくとよいです。
3. KGIとのギャップを基にKSFを設定する
KGIと現在の実績数値とのギャップを基に、KSFを設定していきます。よくある間違いが、KSFを「新規リード獲得数の増加」「リードの質の向上」などボヤッとしたものを設定してしまうことです。これは、施策の自由度が高すぎて、注力する箇所が明確になっておらず、PDCAを回せない状況が生まれます。また「新規リード獲得数の増加」「リードの質の向上」は常に必要なものであり、WEBマーケティングとして追及することは当たり前です。そのため、もっと具体的に「新規リード獲得数の増加 / リードの質の向上をするために、何に注力するのか?」を明確にしていきます。具体的にするためには、KGIと現在の実績数値とのギャップを把握する際に説明した、リードライフサイクルをベースに考えていきます。方法としては下記の通りです。
3-1 リードライフサイクルの中でも先に、どこに注力すべきか?
3-2 注力する先に、どういう施策を行うのか?
3-3 施策について、マーケティングチャネル・コンテンツの方向性をどう考えるのか?
3-1. リードライフサイクルの中でも先に、どこに注力すべきか?
まずリードライフサイクルの中でも注力する箇所の優先順位を考えます。リードライフサイクルの中でも先に、注力すべき優先順位としては、受注に近い施策です。
受注に近い施策から注力していく理由は、すぐに組織の成果(受注)に反映されるためというのと、先に受注に近い施策を確実に成果を出せるようにしておくことで、リードライフサイクルの前段階の施策も受注へ繋がりやすくなり、施策検証の効率性が高まるためです。
3-2. 注力する先に、どういう施策を行うのか?
次に、注力する先の施策の大枠を考えていきます。
KGIと現在の実績数値とのギャップを埋める施策は、大きく下記の2つのやり方があります。
・ 現状の施策の改善
・ リードライフサイクルの中に新たな施策を導入する
上記の2つのやり方を同時に検証していく場合もありますが、基本的に優先順位を付けておく必要はあります。ただ、これでは注力する箇所の大枠だけしか決まっておらず、具体的にマーケティングチャネルとコンテンツの方向性は見えてきません。そこで、マーケティングの基礎でもあるペルソナ・カスタマージャーニーマップを元に、マーケティングチャネルとコンテンツの方向性、次のリードライフサイクルステージへ引き上げるための顧客インサイトを確認していきます。
3-3. マーケティングチャネル・コンテンツの方向性をどう考えるのか?
マーケティングチャネル・コンテンツの方向性を考える際には、ペルソナ・カスタマージャーニーマップをまず作成し、ターゲットとリードライフサイクルステージごとの顧客体験を定義していきます。ペルソナとは、「自社製品・サービスのターゲットとなる架空の人物像を、実際の顧客情報やインタビューを踏まえて作成したもの」です。
(出典:HubSpot)
カスタマージャーニーマップとは、「顧客が受注、もしくはリピートするまでの一連のプロセスの行動・思考を、時系列別に可視化したもの」です。
(出典:HubSpot Japan)
ペルソナとカスタマージャーニーマップは、チーム内の共通認識・リードライフサイクルにおける各施策・顧客体験の整理にも活用できるため、昨今のWEBマーケティングでは、これらをベースにマーケティング施策を考えるケースが多くなっています。ペルソナとカスタマージャーニーマップの作成にあたっての注意事項として、顧客情報もしくは、インタビュー結果から作成することをおすすめします。架空の人物を想像だけで作成した場合、自社都合の目線でまとめてしまい、実際の顧客の行動・思考との乖離が起きやすいです。実際の顧客の行動・思考との乖離が大きければ想定している成果を出すことは難しく、最悪のケースだと企業ブランドへの悪影響も及ぼします。もしマーケティングチームが、直接顧客との接点がない場合は営業チームやカスタマーサクセスへヒアリングさせてもらうや、営業に同行するなどから情報を集めた上でペルソナとカスタマージャーニーマップを作成しましょう。
ペルソナ・カスタマージャーニーマップから、WEBマーケティングにおけるKSFを抽出する
ペルソナ・カスタマージャーニーマップから、WEBマーケティングにおけるKSFを抽出するために、マーケティングチャネルとコンテンツの方向性を見ていきます。方向性を考えるにあたって「KGI達成からの逆算」と「マーケティングチャネルとしての実現可能性」の2点を見ていく必要があります。まず、KGIの達成を実現するために、各施策において必要な件数とCVRを把握しておきます。そして、施策において必要な数とCVRを実現可能なマーケティングチャネルやコンテンツの方向性を選んでいきます。ペルソナ・カスタマージャーニーマップから、マーケティングチャネルやコンテンツの方向性を選定をしても目指すべきKPIを達成できない可能性も大いにありえるため、実現可能性を見極めておくことはKSFを設定する上で重要な要素となります。
KSFからKPIツリーを作成する
KSFを定めた後は、KPIツリーを作成していきます。KPIツリーでは、KGI・KSF・KPIを一貫したストーリーとして、漏れやダブりなく設定していくことが重要です。また、KPIは1次KPI・2次KPIへと細分化されていき、定期的に観測・分析する数値まで落とし込んでいきます。KPIツリーの設計は、実現性の高い具体的な戦略達成のストーリーを描くことが重要です。また、KPIツリーの作成後は、誰にどのKPIをどの程度の期間でアサインするのか?まで決め、責任の所在を明確にしておくことも、KGI及びKPIの達成において重要となります。
おわりに
いかがでしたでしょうか?KPIの作成は、WEBマーケティング全体の戦略設計に大きく関わるところであるため、非常に重要なポイントだと思います。中々、自身が思うようにKPIを設定できなかったり、見たい数値が計測できない等の問題も発生するかと思います。ただ、一つ一つ丁寧に順序立てて、各指標を計測する→KPIを設定する→PDCAを回すを少しずつ始めることによって、組織として前進していきます。また、ペルソナやカスタマージャーニーマップの作成のような、マーケティングチームだけでは解決できないタスクも発生するかと思います。そのため、どれだけ社内に協力してもらえる体制を作れるか?もマーケターとして重要なスキルです。ぜひ、マーケティングチームだけで抱え込まずに、組織が一体となったWEBマーケティングKPI作成を行っていきましょう。