ゼンフォース株式会社では人を中心としたデジタル改革を目指して、営業コンサルティングや営業研修、営業DX支援に取り組んでいます。今回は2023年3月24日に行われたウェビナー「属人的な営業マネジメントによる限界」の模様をお届けします。スピーカーの向井俊介氏は、ウェビナーと同月に社会人大学院を修了したばかりとのこと。その過程でIT業界における「成果を出し続ける営業の能力とは何か」という題材のもと11万字の論文を執筆したといいます。向井氏が長年向き合う「営業マネジメント」というテーマに内在する問題をあげ、BtoB組織の営業を成功へと導く考え方を語ります。
スピーカー情報
営業組織で起きている問題とその理由
近年営業プロセスが多様化するなかで、BtoB企業に共通して挙げられる問題があります。それは一言でいえば、数字の達成が難しいということ。技術発展や競合他社のマーケット参入が進むなか、営業組織は従来のアプローチを見直し、自社の目標達成における効果的な戦略を模索しながら、変革を実施する必要があります。向井氏は営業における数字の達成が難しい原因を3Cの観点から捉えます。3Cとは顧客(Customer)、競合(Competitor)、自社(Company)です。
そもそも、顧客は自分たちの解決すべき課題を理解できていない状況に陥っています。課題を整理しきれていないと、顧客はどの解決方法に投資すべきか優先事項が決められず、結果として営業側も商品やサービスの販売は難しくなります。また、機能に優位性がなく、競合他社のプロダクトが選ばれてしまう点も、自社の売上に繋がらない原因です。値引きを通じて価格競争に勝つこともありますが、受注単価が下がるため、数字の達成は依然として困難になります。顧客がインターネット上から予め情報を確認し、機能の有無や価格の大小で購入を決定してしまうケースもよく見受けられるでしょう。さらに、OJTに偏った営業育成をしている自社にも問題点があります。施策に対する具体的な改善方法をOJT以外に見出せないと、結局のところ売上も一部の優秀な層に依存してしまうからです。営業チームのレベルが継続的に底上げされないことで売上も上がらない結果となります。営業成績がでない原因は多岐にわたるということを、組織はまず知るべきだと向井氏は言います。ではこれらの原因をどのように特定していけばよいのでしょうか。
「課題」とは何か
営業担当はセールス以前に、顧客が解決したい課題を正しく捉えることが重要です。しかし向井氏はこれまで数百社の組織と関わってきたなかで、課題の解釈が揃っていると認識できた組織やチームはほぼ100%なかったと言います。そもそも「課題」とは何でしょうか。顧客の思考と状況を向井氏は次の図のように説明します。
向井氏:
まず課題を明確にするとは、言い換えると、達成すべき目標との差をあとどれだけ埋めればいいかを整理することです。顧客はその差を埋めるために、要件整理や優先づけを試みたり、どのベンダーの策を用いるべきかと「解決」の条件を探します。しかし結局のところ、何が課題の原因なのかわからない段階で顧客はつまづいているんです。
出典:Gartner The B2B Buying Journy
参考資料として、ガートナー社が提示するBuyer Enablementを紹介します。Buyer Enablementとは、顧客が商品やサービスの購買に至るまでの過程で、いかに複雑で多様なプロセスを辿っているかを視覚的に説明したレポートです。
向井氏はこのBuyerEnablementを日本企業の営業組織に応用するために、「何がその問題の原因はなのか?」という視点を付け加えています。顧客は問題の原因がわからないことで複雑な購買プロセスを何度もたどり、商品やサービスを購入できない状態にいます。営業側は、課題の原因を探しつつ買い手側のハードルを下げるような営業プロセスを都度考えていくことが望ましいでしょう。
ファネル型営業に潜む問題点
近年のBtoB組織は一般的にファネル型の営業プロセスを採用しています(※)。しかしこの営業体制とアプローチは、顧客にとって商品やサービスを買いづらい状態を作り出していると向井氏は指摘します。
ファネル型営業に関してはこちらの参考記事で詳細を解説しています。
向井氏:
そもそもリードの獲得は売り手側の視点であり、顧客は実のところ商品やサービスに興味がない状態である、と買い手側は認めなければなりません。これは勇気がいることかもしれませんね。でも顧客側からすれば、興味のないままプロダクトに関するメールマガジンが送られてきたり、アポイントメントや情報交換を求められては、当然ネガティブな気持ちになる。マーケティングが一所懸命とったリードを失うような活動をしていないか自分たちの取り組みや顧客の状態を客観的にみていただきたいです。また、顧客も商談を提案の場であると思っているかは重要な視点です。本当にお客様は提案を求めているのか改めて自問自答してみてください。
図のように顧客の「興味がない」「不快である」という心理の表れは、ニーズを客観的に捉えられていない状態です。買い手不在の営業プロセスになっていないか、マネジメント層は自分たちのアクションを振り返ることが大切です。
営業育成と営業プロセス改善課題がわからない中での場当たり的な改善施策
組織が属人的なマネジメント体質にならぬよう、育成方法におけるOJTの在り方について考えます。向井氏は、OJTは積極的に使うものでありながらも、育成がOJTだけに偏っている状態は正すべきだと言います。営業のゴールは売上目標金額の達成です。しかし、自社の営業プロセスにおいても課題がわからないと、自分たちがパフォーマンスを出すために、あと何をどれだけすればいいかという施策も具体的にわかりません。育成方法がOJTに依存してしまう理由は、自社の課題を本質的に捉えられていないからなのです。
図のように、今の状況とゴールの差を埋めようとする解決策の解釈が異なると、改善の施策も場当たり的になりがちです。また数字を達成しようと思うがゆえに、業務プロセスを推し進めようとすると顧客とのコミュニケーションが雑になり、受注率も高まりません。向井氏はファネル型営業で求められる各プロセスの本質的な在り方を、次のように示します。
1)ナーチャリング
顧客がいかに自社を「嫌いではない」状態になれるかが重要である。メールマガジンやウェビナー企画の案内をするだけではなく、買い手がどのような状態を求めているかを考える。
具体的には、リードに対するコンテンツ、リードに対するコミュニケーション頻度や時間帯が適切かを改善することが大切である。
2)リード見極め
マーケティングやインサイドセールスが、顧客に喜ばれる情報提供とコミュニケーションの土台を持って関わる。顧客が「話を聞いてもいい」と思える状態が理想である。具体的には、リードスコアの変化やアポイント率の状態を確認し、リードに対する複数回のコミュニケーションが取れている状態を目指す。
3)面談
商談の機会ではなく、自社や営業担当との信頼関係を構築する段階である。また、問題を整理し何が顧客の課題になっているか共に探求するフェーズである。初回面談の目的や構成ができているか、フィールドセールスの用意する仮説やファクト、事例が揃っているかを確認し、改善する。
4)商談
予算やタイムライン、競合や決裁権をもつ人物の把握など意思決定に向けて必要な要件を整理することが望ましい。競合情報やバイヤー相関図の把握も必要である。提案に向けた合意形成ができている状態か確認する。
5)提案
受注に向けた不安の払拭と買い手内部の合意形成ができている状態を目指す。金額面など経済的合理性を担保した提案をする。期日までに受注するプロセスの把握と失注リスクの把握が必要である。
6)受注
合意形成のための情報提供を通じて、最終的に受注を達成する。
個人のテクニックに依存しない3つのポイント
これまでの流れを踏まえ、向井氏は最後に営業プロセスの整備における3つのポイントを提唱しています。はじめに、自社の営業における課題整理ができていないと自覚すること。数字が達成できない原因は多岐にわたると、まず営業が知ることが改善のスタートです。そして、買い手不在の営業プロセスを作らないこと。つまりどうしたらお客様の購買難易度を下げられるかという視点で、営業側がプロセスを設計することが重要です。最後に、定めた営業プロセスを運用しながら改善すべき箇所を特定し、とるべき行動を明確に特定すること。組織は育成すべき対象を明らかにしつつ、その改善手段もOJTがベストか、ほかの最適な手段がないかを判断することが求められます。向井氏はこれらのヒントを活用することで営業マネジメントをアップデートできるとし、本ウェビナーを締めくくります。
向井氏の考え方をベースとし、ゼンフォース株式会社は営業プロセスへの改善や実行支援を行っています。BtoBマーケティングや営業領域のDXに関して、詳しい内容にご興味がある場合は、資料請求フォームまでお問い合わせください。