ゼンフォース株式会社では人を中心としたデジタル改革を目指して、営業コンサルティングや営業研修、営業DX支援に取り組んでいます。今回は2023年6月8日に行われたウェビナー「新時代の営業活動に必要なストーリーテリングとは-思考法について解説!-」の模様をお届けします。本ウェビナーでは、株式会社インフォマート事業推進2部部長の源栄公平氏とウェルディレクション合同会社 CEOの向井俊介氏が登壇いたします。
突然ですが、日々営業活動を行う中で下記のようなお悩みを感じられたことはないでしょうか?
・営業に行く時にトークをする時のネタがなくて困る
・営業先の情報収集に時間がかかって、営業にかける時間がない
・収集した情報を営業トークに生かせていない
実際にインプットした内容をアウトプットするだけでは意味がなく、相手に合わせた内容に落とし込み提案することが大切です。同様に成功事例を横展開していくうえで、営業における一連の情報を正しく蓄積していくことは必要不可欠です。
本ウェビナーでは、ストーリーテリングや仮説構築を行ううえで大切な個別化の秘訣について向井氏より、お話いただきます。また、インフォマート社がどのように顧客の情報収集を行い、その後の整理や蓄積を行っているのか具体的な例を交えながら源栄氏より解説いたします。
スピーカー情報
向井氏:ストーリーテリングに必要な営業の思考 〜スループット〜
営業組織が抱えている問題
近年の営業は絶対的な正解がなく、「これは確からしい」と思っても、その「確からしさ」が移り変わってしまうという、非常に難易度の高い仕事になっています。多くの営業組織では、「アポイントが取れない」「商談を獲得できない」「受注に至らない」という問題を抱えているのではないでしょうか。相手から「予算がない」「今ではない」と断られた時に、「コンペリングイベントを作ろう」と考えることがよくあります。「コンペリングイベント」とは、購買しなければならない差し迫った理由、という意味です。しかし本当に必要ならば、こうした断り方はされないはずです。本音では「今、この領域に対して投資をして、改革・改善をする合理的な理由がなく、意思決定ができない」と思っていても、建前上断るために「今ではない」と言われてしまうのです。「今ではない」と断られた時に、文字通り受け取って「じゃあコンペリングイベントをつくろう」と思うのではなく、「お客様はどのようにして社内で合意形成を図るのだろうか」ということを考えると、営業の幅が広がるのではないかと思います。
ここで、ガートナー社が提示するBuyer Enablementを紹介します。Buyer Enablementとは、顧客の購買タスクを体系的に示したもので、左から「解決すべき問題」「解決方法」「解決策」「ベンダー選定」というタスクを表しています。
営業が話すことの多くは「解決方法」「解決策」ですが、そもそも顧客は問題がよくわかっていないことがよくあります。営業は自社商品の説明や実演デモを行うだけでなく、まずはお客様の問題を特定しなければなりません。
あなたは、「情報収集をしましょう」とアポイントを取ったにも関わらず、一方的に「解決方法」や「解決策」の話ばかりしていないでしょうか?お客様は問題を捉えきれていないのですから、その前にお客様と対話し、原因を探求しなければなりません。問題の原因が明らかになったうえで、はじめて具体的な解決方法や解決策の提案ができるようになります。
ストーリーテリングに必要な「スループット」の考え方
人間は必ずしも経済合理的な理由だけで判断しない、ということは様々な研究で明らかになっています。人は合理的な理由だけでなく、感情も含め判断しているのです。営業も人と人の対話であるため、「この人なら」と思ってもらわなければ、購買に至ることは難しいでしょう。営業のトークで、「この人ともっと話したい」「この人の言っていることはためになる」と思ってもらうなど、お客様の感情に変化を起こすことが重要です。そのために必要なポイントは、一般的に「示唆」だと言われています。示唆、つまり気付きを与えられるかどうかはお客様によりますが、どうしたら示唆を与えられるのでしょうか?
情報が民主化されている、ということは誰もが疑わない事実です。調べればすぐに情報が手に入るため、ただインプットしてアウトプットしただけの情報は、あまり価値はありません。例えば、コロナ禍の最初の緊急事態宣言のときに、私はモバイルアプリのデータの会社に所属していて、UberEatsの利用者がものすごく伸びていることがわかりました。しかしこの情報はネットですぐに伝わる情報であるため、飲食業界のお客様に「UberEatが業界一位になりました!」と伝えたところで、「ふーん、知ってるよ」と反応されてしまいます。この情報にはなんの価値もない、と言えるでしょう。
価値のある情報に変えるためには、自分なりの意見をもって、自分の言葉で伝えることが重要です。このプロセスを、「スループット」と言います。先ほどの例を挙げると、UberEatsが凄い勢いで広がった事実だけを伝えるのではなく、「外食業界にとってはどうなんだろう」と考えます。誰がいつ注文して、どんな価格帯で売れるかなどの詳細なデータは、UberEatsのみに残ります。外食業者には、どんな商品が売れたかのPOSデータしか残りません。POSデータは100年以上前からあるテクノロジーです。この情報だけでは、マーケティングをアップデートすることはできないでしょう。
また、一見初期投資なしでお客様に商品を届けられるサービスですが、30%から40%の手数料が取られてしまい、今はそれが商品価格に転嫁されています。外食業者だけでなく、消費者側にも発生するデメリットとなっています。
このように、自分の中で考えて情報を肉付けしていくことで、価値ある情報に昇華します。このスループットのプロセスが、お客様の感情を動かすストーリーテリングにつながります。
スループットを行うには、問いを立てて思考することが出発点となりますが、「どこから問いを立てれば良いのだろう」と考える人もいるかもしれません。そんなときは、まず自分の興味本位からはじめると良いかと思います。業界、部門部署、社会や学問、あるいは人に興味を持つこともあるでしょう。そこから自分なりに思考して、自分の意見に昇華させていくことで、図の右側のようなストーリーが描けるようになります。お客様とのコミュニケーションをリッチにするために、お客様の問題やその原因、どの解決策が良いかを明らかにするために、スループットの概念を身につけてはいかがでしょうか。
源栄氏:新時代の営業活動に必要なストーリーテリングとは?
購買プロセスの変化と売り手の課題
「購買プロセスの57%が営業担当者に会う前に終わっているという事実」は、営業に携わっている方は既にご存じの情報かと思います。
こうした状況のなか、従来の営業スタイルから脱却した、「新時代の営業」が求められています。「新時代の営業」で押さえるべきポイントは以下の通りです。
・デジタルマーケティング
顧客はオンラインで情報収集を行っています。様々なITツールを駆使してユーザーの行動をリアルタイムで分析し、顧客といち早く接点を作ることが重要となります。
・ストーリー営業
商談など、営業が介在できるのは、お客様の検討フェーズの後半に限られます。他社との差別化を図り、お客様から信頼してもらうためには、ストーリー営業で営業力を強化する必要があります。
・カスタマージャーニー営業
お客様の検討フェーズにあった提案をしなければ、思うような成果は得られません。また、情報収集はオンラインで行いますが、お客様によっては商談時に訪問するなど、ハイブリッド型の営業で距離をつめていくことも重要です。
新時代の営業活動を進めていくと、以下のような3つ問題が発生します。
一つ目は、大量のリードを獲得してしまうことです。マーケティング技術が発達し、検討フェーズの低いリードの獲得も増えています。その結果、リードの育成や営業手法が複雑化してしまっているのです。
二つ目は、商談件数増加による初回商談レベルの低下です。リード数の増加に伴い商談の数も増えますが、そのクオリティが低下してしまう恐れがあります。
三つ目が、商談の事前準備が不十分になることです。商談数が増えるため、事前準備に割く時間がなったり、作業の負荷が高まったりすることがあります。
これらの問題に対し、解決すべき課題を整理すると、「案件化率(SQL率)の改善」が挙げられます。商談数は増えているため、初回商談のクオリティを担保し案件化率を向上させることは、営業組織にとって最も優先順位の高い課題だといえます。
初回商談でお客様が期待することは何でしょうか?おそらく、「担当営業は信頼できるか」「解決できるサービスか」「予算内で収まるか」などでしょう。こうした当たり前の基準を超えるような準備を行い、初回商談に臨むことが求められます。
ストーリーテリングに重要な「顧客理解」
初回商談のクオリティーを向上させるために、「顧客の抱える課題を正確に把握すること」が重要ですが、初めて話す営業に本当の課題を話してもらうことは難しいでしょう。まずはお客様からの信頼を獲得しなければなりません。信頼獲得のカギは、事前準備にあります。「事前準備が重要」ということは各所で言われていますが、どの程度行えば良いのか、判断に迷う方もいるかもしれません。ここでは、事前準備の基準として2つのポイントを使って説明します。
一つ目は、お客様の質問に対し、速やかに回答できるようにすることです。お客様からの質問に回答できなければ、信頼を獲得することはできません。回答を持ち帰ることがないよう、過去のデータなどからお客様の課題を予測し、FAQを想定して事前シミュレーションを徹底します。
二つ目は、ストーリーテリングです。事前情報から仮説を立て、お客様が成功をイメージできるような活用事例を用意します。
お客様が抱えている課題と、その解決方法を成功事例に乗せて物語のように伝えることで、相手の共感を生み、強い印象を残すことができます。
ストーリーテリングで重要なポイントは、「顧客理解」です。営業であれば、「お客様は誰なのか」という問いを常に繰り返すかと思いますが、ターゲットは「企業」ではなく、あくまで目の前の「人」であると捉えることが大切です。事前準備を業界調査や企業調査で終えてしまってはいけません。商談する人がどんな立場か、どんな課題課題解決を望んでいるのか、など「企業の中の人」を想定して準備を行いましょう。
ストーリーテリングについて対談
荻野:ここからは、台本なしでストーリーテリングについての対談を行いたいと思います。
「顧客理解」を業務に落とし込むために
荻野:
ここまでのお話で、「顧客理解が重要」ということがわかったのですが、実際に業務に落とし込んでいくためには、何から始めれば良いのでしょうか?
向井氏:
「興味を寄せる」ことが、最初のステップになると思います。しかし興味は人それぞれによるもので、興味を持てないところに興味を寄せることは、とても難しいと思います。私自身も興味を持てない業界を調べようとしたときは、企業情報を眺めても素通りしてしまうことがありました。逆に、ひとたび興味を持てばさまざまな疑問が浮かび、積極的に調べることができると思います。皆さんは自分の会社やプロダクトに興味を持ち、今の会社に入社をしています。しかしその先のお客様や、お客様のお客様まで見えている人がすごく少ないように感じます。
先ほど私は外食を例に取り上げましたが、外食企業のお客様まで考えて問いを立てる営業はどれくらいいるでしょうか?お客様は、そのお客様に貢献するために商売をしているので、ソリューションを提供する営業はその先のお客様まで興味を持たなくてはいけないと思います。「自分は何に興味があるのか」を内省し、まずは自分が興味を持てるところから始めてみると良いのではないでしょうか。
源栄氏:
商談する相手の部署名や名前が分かっているならば、その人の仕事に興味を持つことが重要だと思います。法人営業であれば、相手は「決裁者」「ミドルレイヤー」「エンドユーザー」の3つに大きく分類できますが、会社ひとくくりの課題よりも、各人が抱えている課題を重視しましょう。会社としての課題を相手にぶつけても、なかなか響かないことがあります。まずは目の前の相手の仕事を教えてもらい、その人の課題を考えることが重要です。また、情報公開されている大企業が相手なら、競合の有価証券報告書などをみると同じような課題が見えてくることもあります。こうした情報から仮説を立てていく方法もよいでしょう。
向井氏:
できることから始めることを考えると、「主語を変える」ということが大切だと思います。商談に同席したり動画を見たりするのですが、「御社は〜」と言う人がとても多く、目の前の担当者が感じている課題まで考えられていないのです。会社全体の話をするときは「御社」でも良いですが、それ以外では「あなたは〜」「〇〇さんは〜」と主語を変えるだけで、見え方や考え方が変わるのではないかと思います。
源栄氏:
そういう個人に落とし込んだ話し方をすると、お客様も自分に興味をもってもらいやすいのではないかと思います。初回の商談で信頼を得ることは難しいですが、主語を変えてみるだけでも少し変わるので、オススメですね。
向井氏:
人は、自分に興味を向けている人間を嫌いにはなりませんもんね。
AI時代の営業とは
荻野:
最後に、私が気になっている点として、AIと営業の関係性があります。AIが企業情報を調べたり、課題を引き出したりすることができてしまうのではないかと思いますが、その中で人間にしかできないことは何があるでしょうか?
向井氏:
確かに、人間にしかできないことは減ってきています。ただ、最後の最後まで残る部分は「感情を動かす」部分です。大袈裟にいえば、買い手に膝を叩かせるのは、人間にしかできないことだと思います。例えばChatGPTが買い手の手元にあったとしても、プロンプトが書けないようなことを営業が投げかけると、それが価値のある提案になります。AIは想定外の回答はできないので、ストーリーを作って気付きを与えるのは、人間にしかできないことかと思います。
源栄氏:
たびたび「営業不要論」が囁かれていますが、その際に営業が医者に例えられることが多くあります。いくら医療の技術が発達しても、最終的には医者が患者の事情を考慮し、治療の方向性を決定します。どれだけ医療が進歩しても、医者はいなくなりません。営業も一緒だと考えていまして、目の前の担当者や企業の状況に合わせて、どんな製品やサービスを提案し、どのように活用してもらうかを考えるのは人間の仕事だと思います。「組織力学」や「担当者のクセ」などは、AIには分からないですよね。そういったことも考慮して、最終的に判断できるのは人間しかいません。これからの営業は、AIやデータなどを活用しつつ、お客様に寄り添った提案を最終的に判断することが求められると思います。
著者情報
荻野 嶺 (おぎの れい)
米国NY、LAで幼少時代を過ごす。 2015年、伊藤忠商事入社。金属資源部門にて経営企画や事業開発に携わり、赴任先のシンガポールで石炭の三国トレーダーとして、各国の市場を新規開拓。2020年に帰国し、スタートアップ向け人材紹介のfor Startupsに従事。入社半年で最速昇格基準達成、MVT 受賞などの実績を上げ、各有力スタートアップのCEOやVCからの信頼を獲得。 2020年12月にゼンフォース株式会社を創業し、代表取締役CEOに就任。