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ピープルマネジメントとは?重要視される理由と営業マネージャー向けの実践方法を解説

セールス マネジメント

目次

営業マネージャーとしてチームメンバーの育成や組織への定着は常に悩まされる課題の一つです。人材をマネジメントするにはさまざまな視点や手法があり、それぞれの違いを理解し、適切に適用することが求められます。

今回の記事では「ピープルマネジメント」について、重視される理由や実践方法について解説していきます。ピープルマネジメントの理論と実践方法を通じて、各メンバーの育成と定着を目指しましょう。

ピープルマネジメントとは?

ピープルマネジメントとは、単に業績や成果に着目するのではなく、一人ひとりのメンバーに焦点を当て、そのパフォーマンス、モチベーション、エンゲージメントを高めることを目的としたマネジメント手法です。一般的な業務マネジメントがタスクやプロジェクトの遂行を中心に考えるのに対し、ピープルマネジメントは「人」を中心に考えます。組織の目標を達成するためには、その構成員である人々が最高のパフォーマンスを発揮し、自己の成長とともに組織の成長に貢献することが重要となるのです。ピープルマネジメントは、一人ひとりの個性や能力を理解し、それを最大限に活かすためのサポートや環境を整備することを目指します。そのため、企業文化、エンゲージメント、職場環境、リーダーシップ、権限の委譲、そして組織内の調和に重点を置いています。

業務マネジメントとの違い

株式会社リンクアンドモチベーション独自のマネジメントのマトリクスでは、縦軸を「経営視点と現場視点」、横軸を「事業と組織」で4象限に分けることができます。その中で一般的に言われる「マネジメント」は、業務マネジメント、あるいはPDCAマネジメントと呼ばれるマネジメントを指すことが多いです。

マネジメント 4象限

出典:HRNOTE

業務マネジメントは現場の問題解決を中心に、いわゆるPDCA(計画・実行・評価・改善)サイクルを回しながら成果を上げることを主眼に置いています。成果を上げるためには、業務プロセスの効率化や生産性向上が重要であり、そのために各メンバーの役割と責任が明確にされ、適切なリソースが割り当てられます。一方、ピープルマネジメントは成果だけでなく、その成果を生み出す「人」に焦点を当てています。それぞれのメンバーが持つスキルやモチベーションを理解し、それらを最大限に活かすためのサポートを行い、成果を上げていきます。

タレントマネジメントとの違い

タレントマネジメントとは、従業員のスキルや才能といった「タレント」を一元管理し、それに基づいて最適な人材採用や育成を行い、人員配置の際にデータを活用するなどの体系的な人事戦略を指します。一方、ピープルマネジメントは、マネージャーが部下やチームメンバーとの間で行うマネジメントを指します。タレントマネジメントとピープルマネジメントは目指す目標は似ていますが、アプローチの方法と範囲に違いがあります。タレントマネジメントは全従業員を対象とした会社全体の戦略を、ピープルマネジメントは個々のマネージャーが自身の部下やチームに対して行う戦略をそれぞれ指しています。この2つのマネジメントは、互いに補完し合いながら組織全体の成果を高めていくことができます。

なぜピープルマネジメントは重要視されるのか

ピープルマネジメントがなぜ組織にとって重要視されるようになったのか、その背景を解説します。特に、オンラインを前提とした働き方の普及、生産労働人口の減少による雇用の流動化、そしてエンゲージメントがパフォーマンスに与える影響といった観点からピープルマネジメントの重要性を考察します。これらの要素は組織の成長、効率化、そして持続可能性に大きく影響を及ぼします。

オンラインを前提とした働き方の定着

コロナ禍をきっかけにリモートワークが急速に浸透し、企業の働き方やマネジメントスタイルも大きく変化しました。社員がオフィスでフェイストゥーフェイスでコミュニケーションをとる機会が減り、オンラインコミュニケーションが前提となった今、従来のマネジメントとは別のアプローチが必要になりました。リモートワークでは、メンバーそれぞれが自己管理しながら業務を遂行するため、それぞれのモチベーションやエンゲージメントを維持し、パフォーマンスを上げるためのサポートが必要となります。これがピープルマネジメントの重要性を高めている一因です。

生産労働人口の減少による雇用の流動化

リクルートワークス社の調査によれば、2030年には341万人、2040年には1100万人もの労働力供給が不足すると見込まれています。生産労働人口が減少することで、求人倍率が上昇し、労働者にとっては売り手市場、つまり有利な環境になります。売り手市場の中では、企業は選ぶ側ではなく、選ばれる側になります。特に、営業職はどの企業でも重要なポジションであるため、企業は有能な人材を引き留め、新たに採用するための工夫が求められます。その一環として、ピープルマネジメントを行うことは益々重要になってきます。

エンゲージメントがパフォーマンスに影響を与える

Gallup社の調査によれば、社員のエンゲージメントが企業業績に大きな影響を及ぼすことが示されています。

エンゲージメント 組織向上 組織

出典:HRzine

一方で、リモートワークの浸透により、オフライン時と比べコミュニケーションを取る機会が少なくなり、社員のモチベーションの維持が難しくなってきています。また、前述した通り、生産労働人口が減少していく日本にあって、現在所属する社員の存在が一層重要になる中で、彼らのエンゲージメントを保つことは不可欠です。そのためにピープルマネジメントが重視され、良好な人間関係を築きつつ、それぞれの社員が最高のパフォーマンスを発揮できる環境を整えることが求められています。

【営業マネージャー向け】ピープルマネジメントの実践方法5つ

営業マネージャーが日々の業務でピープルマネジメントを実践するための具体的な方法を5つ紹介します。これらの方法を用いることで、個々のメンバーとの信頼関係を築き、その能力を最大限に引き出し、組織全体の業績向上につなげることができます。具体的には、適切な目標設定、1on1やフィードバックの機会増加、フィードバックの質向上、期待や称賛の表明、そしてピープルマネジメント研修の活用などが挙げられます。

個人の目標設定を行う

個人の目標設定はピープルマネジメントにおいて重要なステップです。自己のスキルに対して、業務が難しすぎると不安を生み、逆に簡単すぎると退屈に感じ、いずれの状態もモチベーションの低下につながります。業務の難易度と自己のスキルのバランスがとれている状態を目指し、少しチャレンジングな目標を設定することで、達成した時の達成感や自己成長の機会を創出することができます。例えば、営業なら一律で同じ契約率や契約数を目標にするのではなく、経験年数に応じて適切な目標設定することで、モチベーションを維持することができます。

営業 モチベーション 管理
他にも、適切な目標設定の方法として「SMART」というフレームワークもあります。これは「S:Specific(具体的で)」「M:Measurable(計測可能で)」「A:Achievable(実現可能で)」「R:Relevant(必要性があり)」「T:Timebound(時間的な制約がかけられている)」で構成されており、納得感のある目標設定を行うのにも効果的なフレームワークです。これらの手法を用いて明確な目標を設定し、マネージャーとメンバーで事前に合意しておくことが大切です。

 1on1・フィードバックの機会を増やす

ピープルマネジメントにおけるキーポイントの一つは、定期的な1on1やフィードバックの機会を増やすことです。1on1は4半期に1回の評価面談だけで行うのではなく、毎週や隔週ペースで頻度高く実施することが望ましいです。頻繁に行うことでメンバーの状況把握や問題の早期発見を行うことができます。また、一方的なレビューの場ではなく、メンバーの気づきの場になるよう適宜コーチングやティーチング、フィードバックを使い分けることが大切です。フィードバックについても機会を増やすことで、メンバーのモチベーションや成長機会を創出することにつながります。フィードバックはその場ですぐに伝えることが最も効果的です。日々の業務の中で、できるだけ頻繁にフィードバックを行いましょう。

フィードバックの質を上げる

フィードバックは頻度も重要ですが、その質についても重要です。フィードバックの質を高めることで、メンバーのエンゲージメントやモチベーションを高めることができます。まず、フィードバックをする上で重要なのは、具体的に伝えることです。抽象的なフィードバックでは意図が伝わらず、狙った効果を得ることができません。「いつ、どこで、どんな行動」に対するフィードバックなのかを具体的に伝える必要があります。また、フィードバックはネガティブな場合も、ポジティブな場合も、メンバーの人間性を対象にするのではなく、行動を対象に評価することが大切です。質の高いフィードバックを行うためのフレームワークとして「SBI」というものもあります。これはSituation(客観的な状況)」「Behaviour(客観的なその人の姿勢・行為)」「Impact(どんな影響を与えたか)」で構成されており、フィードバックする際に意識すると良いでしょう。

期待や称賛を伝える

営業メンバーのモチベーション低下の理由について解説したこちらの記事でも指摘した通り、メンバーは「期待を感じられない」ことがモチベーション低下につながる傾向があります。そのため、マネージャーが期待や称賛を適切に伝えることは、営業メンバーのモチベーション維持に重要です。また、ハーバードビジネスレビューの研究でも、パフォーマンスが賞賛されることがエンゲージメント向上に寄与すると指摘されています。

営業 エンゲージメント向上 モチベーション低下理由

出典:ハーバードビジネスレビュー

エンゲージメントの向上に成功している多くの企業では、表彰プログラムを運用しています。何が成功かを明確に定義した上で、従業員のパフォーマンスを賞賛することで従業員のエンゲージメントを高め、さらなるパフォーマンス向上へ繋げています。

ピープルマネジメント研修を受ける

ピープルマネジメントは単独で学び実践するのは困難な場合もあります。一人で実践することが難しい場合は、研修を受けるのも一つの手でしょう。専門家から直接学ぶことで理論を深く理解でき、具体的な事例を通じて実践的な知識を得ることが可能となります。また、研修を受けることで他部署や他のマネージャーとの交流の機会も得られ、異なる視点やアプローチを学ぶこともできます。ピープルマネジメントのスキルは一朝一夕に身につくものではありませんが、研修を受けることでその道筋が明確となり、自身のマネジメント能力を一段階向上させることが期待できます。

おわりに

本記事では、営業組織におけるピープルマネジメントの重要性と実践方法について解説しました。ピープルマネジメントは、業務マネジメントやタレントマネジメントとは異なり、個々の人間の能力やモチベーションに焦点を当て、「個人の成長」と「組織の発展」を同時に実現していくマネジメント手法です。新たな働き方の定着や生産労働人口の減少などの社会情勢もあり、これからの組織運営においてはピープルマネジメントの重要性がさらに増してきます。適切なピープルマネジメントはメンバーのエンゲージメントを高めることができます。エンゲージメントが高まると、その結果としてメンバーのパフォーマンスが向上し、営業成績の改善に寄与します。また、高いエンゲージメントはメンバーが会社に対する帰属意識を持つため、早期退職の防止にもなります。ご紹介したピープルマネジメントの実践方法を参考にぜひ皆さんも取り組んでください。

著者情報
田村 佳士(たむら けいし)
Keishi Tamura
2015年に東証一部上場の人材企業に入社し、新規営業、新規事業開発に従事。2018年に機械学習ベンチャーに出向し、AI技術を駆使した新規事業の企画を推進。その後、2020年に転職し、現在は大手IT企業にてAIプロダクトのプロジェクトマネージャを担当。エンタープライズ企業へAIプロダクトの導入プロジェクトの推進やプロダクト企画に勤めている。