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BtoB企業こそ取り組むべきグロースマーケティングとは?企業事例を交えてわかりやすく解説!

マーケティング

目次

近年、マーケティング手法として注目されるグロースマーケティング。特にBtoB業界、中でもSaaSや各種オンラインサービスを取り扱っている企業にとって、グロースマーケティングはその事業成長の鍵を握ります。しかし、「名前は聞いたことあるけど、具体的にどういった手法なのかわからない」と感じている方も多いのではないでしょうか。そこで本記事ではグロースマーケティングの基本から展開方法にいたるまで、くわしく解説します。特にBtoB企業の経営者やマーケティング担当者の方は、本記事をご覧いただくことでグロースマーケティングの具体的な行動に移すためのヒントを得られるでしょう。後半には、実際の企業事例を交えて具体的な成果や実践方法も紹介していますので、ぜひ最後までお読みください。

グロースマーケティングとは

グロースマーケティングは、企業の製品やサービスが提供する価値を最大化し、結果としてビジネスの成長を促進するためのマーケティング手法です。製品開発、営業、マーケティング、カスタマーサクセスなど、部門間の壁を越えて協力し合い、組織一体となって顧客体験を向上させることでビジネス全体の成長を促します。グロースマーケティングは、新規のユーザーを獲得するだけでなく、既存のユーザーを維持し、購買量や購買頻度を増やすことにも注力します。これらを実現するために、製品の改善、マーケティング施策の最適化、新たな販売チャネルの開拓など、あらゆる戦略が用いられます。マーケティングの歴史を振り返ると、グロースマーケティングの概念は、Facebookが成長を加速するために初めて採用した施策に由来するといわれています。Facebookの成功は多くのテック企業にも多大な影響を与え、現在ではグロースマーケティングはあらゆる業界で採用されるようになりました。

従来のマーケティングとの違い

そもそもグロースマーケティングと従来のマーケティングにどういった違いがあるのか、具体的なイメージを掴めない方も多いのではないでしょうか。従来のマーケティングは主にブランドの認知度を高めるために広告やプロモーションを行い、新規顧客を獲得することに重きを置いていました。これに対し、グロースマーケティングは顧客獲得だけでなく、顧客のリテンション(再購入率)やLTV(生涯顧客価値)の向上にも注力します。また、従来のマーケティングが予算をかけて広告を打つ一方、グロースマーケティングはデータを活用して施策の効果を測定し、最適化を行うことが特徴です。これにより、より効果的なマーケティング戦略を短期間で見つけ出し、その結果、企業の成長を加速させることができます。以下に従来のマーケティングとグロースマーケティングの比較を表にまとめました。

グロースマーケティングとは グロースマーケティング
これらの違いからもわかるように、グロースマーケティングは従来のマーケティングよりも幅広い視点で企業の成長を支え、顧客に価値を提供することに重点を置いています。

グロースマーケティングで実現できること

グロースマーケティングを適切に実施することで、多くのビジネス成果が期待できます。具体的には、プロダクトの成長、デジタルマーケティングの成果向上、休眠ユーザーの掘り起こしなどが挙げられます。それぞれ見ていきましょう。

グロースマーケティングとは グロースマーケティング

1.プロダクトの成長

グロースマーケティングは顧客のニーズや行動に深く根ざした施策です。データ分析により、ユーザーの利用傾向やニーズを把握し、それに基づいて製品の改善を行います。検証と改善のプロセスを繰り返すことで、製品やサービスは市場への適応力を高め、結果としてプロダクトは成長を遂げます。

2.デジタルマーケティングの成果向上

グロースマーケティングの核心的な要素であるデータ分析と高速のPDCAサイクルは、デジタルマーケティングの成果を大幅に向上させます。データに基づいて施策の効果を評価し、顧客の行動を理解した上で素早く改善を行うことによって、効果的なマーケティング施策のノウハウが蓄積されるためです。結果として、広告の配信からユーザーエンゲージメントの改善にいたるまで、デジタルマーケティングの各領域での成果が向上します。

3.休眠ユーザーの掘り起こし

顧客の行動を理解し、それに合わせた施策を行うグロースマーケティングは、休眠ユーザーの再活性化にも効果的です。休眠ユーザーに対し、興味関心やニーズにあったメッセージを送ることで、再び製品やサービスを利用するきっかけを作ります。休眠ユーザーの掘り起こしは、新規ユーザーに比べて顧客獲得コストを抑えられるため、広告費の最適化など企業の成長を助ける重要な要素といえるでしょう。

グロースマーケティングの理解を助ける関連用語

グロースマーケティングの理解を深めるには、その周辺の概念や用語を理解することも大切です。中でも「グロースハック」「リーンスタートアップ」は、グロースマーケティングの核となる考え方を示すキーワードです。それぞれの概念を理解し、グロースマーケティングとどのように関連しているのかを見ていきましょう。

グロースハック

「グロースハック」は、既存の資源や制約の中で、効率的にユーザーや顧客の数を増やす戦略や手法を指します。少ない資源で大きな成果を出すために、データ分析や実験を通じて最適な施策を見つけ出し、実行に移すことが特徴です。グロースマーケティングは、このグロースハックの概念を基盤にしています。つまり、両者はデータに基づく、施策の迅速な評価と改善を通じて事業成長を実現するという点で関係し合っているといえるでしょう。

リーンスタートアップ

「リーンスタートアップ」は、起業家のEric Ries(エリック・リース)氏によって提唱されたスタートアップの運営手法で、少ないリソースで新規事業を立ち上げ、育てていく方法を指します。この手法では、最小限の製品(MVP:Minimum Viable Product)を作り、市場に投入し、顧客のフィードバックを得ながら製品を改善・発展させていくことが特徴です。リーンスタートアップの考え方は、グロースマーケティングにも深く関連しています。顧客の反応をデータとして捉え、それをもとに製品を改善し、事業成長を実現するというプロセスは、グロースマーケティングの本質と共通しているといえるでしょう。

グロースマーケティングが重要視される背景

近年、マーケティングの世界ではグロースマーケティングが重要視されています。その背景には、デジタル化の進展、顧客行動の多様化と複雑化、そしてデータ解析技術の進歩など、多くの要因が絡み合っているためです。それぞれの背景について見ていきましょう。

デジタルトランスフォーメーションの流れ

デジタルトランスフォーメーション(DX)が加速し、企業はBtoBツールを導入する機会が増えました。同時に、インターネットを活用したデータ収集や活用も普及しています。こうした結果、見込み顧客に対する的確なアプローチが求められるようになりました。
従来のマーケティング手法だけでは効果的な結果を出すことが困難になる中、グロースマーケティングの価値が高まっています。特に、データ分析を駆使した施策の企画・実行・評価のサイクルを迅速に回すことで、デジタル化が進む中でも効果的なマーケティングを行えることが重要視される理由です。

顧客行動の多様化と複雑化

デジタルトランスフォーメーションの影響により、顧客の購買行動は以前よりも多様化・複雑化しています。情報の収集から購入までのプロセスが短縮されたと同時に、様々なチャネルを通じた情報収集や購入が可能になりました。これにより、新規顧客の獲得は以前に比べて困難になっています。企業目線でのアプローチではなく、顧客行動の理解とその動向へのクイックな対応が求められており、そのためにはグロースマーケティングの考え方が不可欠となっています。

顧客行動を分析するデータ解析技術の向上

データ解析技術の進歩により、顧客の行動をより深く理解し、行動パターンの可視化が可能になりました。こうしたデータ解説技術の進化は、マーケティング活動の効果を正しく評価し、改善策を策定するための強力なツールです。その結果、より効果的な施策を迅速に企画・実行・評価するためのプロセスが可能になり、グロースマーケティング施策を実施する上での基盤となります。

グロースマーケティングにおける3つの軸

グロースマーケティングを成功させるためには、その戦略の中心に据えるべき3つの軸があります。

行動理解(Behavioral Analytics)
高速に施策を繰り返す(Rapid Iteration)
的確な目標・指標設計(Business Impact)

これらの軸が連動して機能することで、企業は急成長が可能になります。それぞれくわしく見ていきましょう。

グロースマーケティング グロースマーケティングとは

出典:今注目される新しいマーケティングの概念、グロースマーケティングとは?

1.行動理解(Behavioral Analytics)

行動理解は、顧客のニーズや要望を理解し、どのように製品やサービスを使用しているか、どのような経験を求めているかを詳細に把握することを指します。具体的には、デジタルトラッキングツールやCRM(顧客関係管理)システムを使用して顧客データを収集、分析することで顧客の行動を理解することです。これにより企業は顧客が何を求め、何に対して反応するのかを理解でき、これを基に最適なマーケティング戦略の立案が可能となります。また、顧客行動を分析したら、分析結果を施策に活用し、ビジネス効果を創出することが大切です。言い換えれば「知る」にとどまらず、アクションや戦略に反映することまで意識しましょう。

2.高速に施策を繰り返す(Rapid Iteration)

2つ目は高速に施策を繰り返すことです。具体的には、顧客行動を理解した上で、施策の改善や最適化を繰り返します。その結果、製品の質がブラッシュアップされ、ユーザーにとって心地よく、より良い製品体験ができるようになり、結果としてファンになってもらうというステップです。グロースマーケティングでは、こうした高速な実行・検証・改善のサイクルが求められます。しかし、従来のPDCAサイクルでは、現在の環境変化のスピードについていけず、顧客のニーズを満たすことが難しくなっています。グロースマーケティングのステップに適した思考・意思決定プロセスが「OODAループ(ウーダループ)」です。OODAループでは、次のようなプロセスを高速で回します。

Observe(観察)
Orient(情勢判断)
Decide(意思決定)
Act(行動)

このプロセスにより、企業は顧客の反応をリアルタイムに把握し、施策の改善を素早く行うことが可能です。

OODA OODAサイクル

出典:グロースマーケティング(株式会社DearOne著)

3.的確な目標・指標設計(Business Impact)

3つ目は的確な目標・指標設計です。ここでは「結果指標」「先行指標」を基に設計します。結果指標とは売上や問い合わせ件数などのことで、先行指標とは新規求人数など景気動向に関わる指標です。正しい指標を設計するためには、その根拠となる顧客の行動を高いレベルで理解する必要があります。具体的には、定点観測、課題探索、行動理解が挙げられます。

定点観測:MAU/DAU等のビジネスドライバーをもとに、パフォーマンスを測定する
課題探索:ユーザー離脱ポイントの特定など、スポットの課題を発見する
行動理解:ユーザー行動に基づき、ネクストアクションを導く

その上で設計された指標を基に施策の成果を評価し、次の施策に反映させることで、事業全体の成果向上に寄与します。

グロースマーケティングを実現する3ステップ

成功的なグロースマーケティングを実現するためには、企業は戦略を明確に設計し、それを順序立てて実行する必要があります。ここでは3つのステップに分けて紹介します。

グロースマーケティング 進め方 ステップ

ステップ1.目的を明確化する

最初のステップは、事業の目的を明確化することです。具体的に何を達成したいのか、どのような成果を得たいのかを明確に設定しましょう。これには事業の長期的なビジョン、短期的なゴール、KPI(Key Performance Indicator)の設定などが含まれます。ここで立てた目的は、全てのマーケティング活動の方向性を示し、組織全体を一つの方向に導く役割を果たすことでしょう。

ステップ2.計測のためのデータ化およびデータ連携

次に、計測のためのデータ化およびデータ連携を行います。具体的には、売上や利益、販売数、在庫量など決算書に含まれる過去の実績が活用できます。また、従業員のホスピタリティや顧客との信頼関係などは、データ化が難しいものの可能な限り定量化すべきです。その際、スコアリングをして管理することでデータとして加工しやすくなります。このように、マーケティング活動の結果を定量的に評価するために必要なデータを収集し、それを分析可能な形に整理することがグロースマーケティングでは重要です。

ステップ3.ボトルネックを解消する

3つ目のステップは、ボトルネックを解消することです。ボトルネックは企業の成長を妨げる要素であり、解消することで成長速度が向上します。データ分析によって明らかになった課題や問題点を特定し、改善に向けた施策を実施しましょう。このステップでは、問題解決のためのアイデアを創出し、それらを素早く実行、検証し、改善を行っていくことが重要です。

グロースマーケティングの事例

近年では業界問わずグロースマーケティングを導入する企業が増えています。新規顧客の獲得難易度が高まる中、既存顧客を含めて、長く自社の製品・サービスを利用してもらうことが重視されており、グロースマーケティングの成否によって企業の成長が左右されるといっても過言ではありません。マーケティングの成功を収めるには、他社の取り組みにヒントが隠されています。ここではグロースマーケティングによって企業成長につながった3社を紹介します。

事例1:オルビス株式会社

オルビスは創業35年の化粧品ブランドで、1990年後半〜2000年代前半に売上が急伸した後、売上が伸び悩む低迷期に突入しました。当時、商品ラインナップを拡大し続けていたものの、結果的にその提供価値が薄れ、プレゼンスが低下。これにより売上は横ばい、利益率は低下する状態に陥っていました。その状況を打開するために、顧客と深い関係を築くことを軸にしたリブランディングを実施。従来の「リテールビジネス」スタイルから、まず「ブランドビジネス」に転換し、スキンケアを中心としたビューティーブランドとしての認知を高めました。さらに次の段階として「ブランドビジネス+パーソナライズ」を目指し、顧客一人ひとりのニーズに対応していく方針を採用したのです。顧客のLTVを高め続けるために「お客様の期待値を少しでも超えていく」ことを強調し、その上で顧客の購買データやRFM分析だけでなく、趣味や趣向などのデータも含めた総合的な分析が必要との考えを示しました。

事例2:IKEA

スウェーデンの家具メーカーIKEAは、オフラインからオンラインへとビジネスを転換し、その結果、目覚ましい成長を遂げています。同社では、AR(拡張現実)アプリ「IKEA Place app」を開発し、ユーザーが自分の部屋に3Dで家具を配置できるようにしたことで購入体験を一新。その後のアップデートでは、複数家具の配置や部屋全体のコーディネートを可能にし、さらに最新のiPad Proを用いたStudio Modeの追加により、より細部までリアルに家具を体験できるUXを実現しました。また、実店舗で培ってきたクロスセリング戦略をオンラインにも適用。ユーザーが商品を選ぶと、関連商品や色のコーディネートが提案される仕組みを導入し、ユーザーの購入数を増やすと同時に、選択のストレスを軽減しました。こうした取り組みの結果、2020年にはコロナ禍で多くの実店舗が閉店したにもかかわらず、オンライン売上は前年比60%増となり、全体売上の18%を占めるまでに至りました。これらの戦略は、テクノロジーの活用とユーザー視点の追求が、企業の持続的な成長に寄与する好例といえるでしょう。

事例3:Spotify

音楽ストリーミングサービスSpotifyは、その多機能なプラットフォームを有料で提供する一方、制限付きの無料プランも提供しています。これによりSpotifyは幅広いユーザー基盤を確立し、日本でもその知名度を高めることに成功しました。しかし、そのグロースハックの真の特徴はFacebookとの巧妙な連携にあったのです。ユーザーはFacebookアカウントでスムーズにSpotifyに登録でき、自身の聴いている曲をFacebookのタイムライン上で共有可能。これにより、Spotifyの認知度はFacebookの友人ネットワークを通じて急速に拡大しました。さらに、友人がSpotifyに登録した際の通知機能を設けることで、音楽という共通の趣味を通じたコミュニケーションを促進。Spotifyはこれらの戦略により、SNSと音楽文化の融合を実現し、ユーザー心理を深く理解することでその成長を加速させました。

おわりに

本記事では、BtoB企業がグロースマーケティングに取り組むべき理由と展開方法について、企業事例を交えて解説しました。グロースマーケティングは、顧客エンゲージメントの向上とビジネスの拡大を目指す手法であり、BtoB企業においても重要な役割を果たします。具体的にはユーザー体験の改善、データを活用した施策の最適化、製品自体をマーケティングの一部として利用することなどが挙げられます。BtoB企業がこれらを上手に活用すれば、より高いユーザーエンゲージメントと成長を実現できるでしょう。グロースマーケティングは、BtoB企業が競争力を保つために欠かせない手法です。ぜひ本記事で紹介した3つのステップを参考に、早速取り組んでみてください。

著者情報
高橋 洋介(たかはし ようすけ)
Yosuke Takahashi
2010年リクルート入社。アルバイト・中途採用領域の求人広告営業に従事し。在職中にMVP5度受賞などの実績を上げ、業界・業種・企業規模問わず多くのクライアントからの信頼を獲得。その後人材系広告代理店を経て、2020年よりフリーランスとして活動を開始。現在では法人向けに採用支援、営業支援、SaaS導入支援など幅広く対応。