[ B2B Enablement Media ]

BtoBにおけるコミュニティマーケティングとは?取り組むべき理由を解説

マーケティング

目次

商品での差別化が難しい現代において、顧客との関係性を深めていくことで、他社との差別化を図ることは非常に重要になっています。特に既存顧客との関係性についてはサービスの継続に直結するため、新規顧客の獲得とは別に施策を行っていく必要があります。今回は既存顧客へのアプローチの一つである「コミュニティマーケティング」についてご紹介します。

BtoBにおけるコミュニティマーケティングの全体像を把握し、自社にとって必要かどうかを判断するために、本記事では、コミュニティマーケティングの概要や注目されている背景、導入すべき企業の特徴を説明します。「既存顧客を活かし営業効率を高めたい方」や「これからコミュニティマーケティングを導入検討している方」にとって導入判断の材料となりますので、ぜひご参考ください。

コミュニティマーケティングとは?

コミュニティマーケティングは、企業が自社製品やサービスに興味を持っている人々を集め、情報交換やコミュニケーションを促進することで、顧客との関係性を深め、ブランド認知度を高め、売上を増やすマーケティング手法です。オンラインのコミュニティは、FacebookグループやSlackチャンネルなどがあります。一方、オフラインのコミュニティには、セミナーやイベント、ユーザーグループ会などがあります。通常のリード獲得施策やナーチャリング施策は、広告やSNS、メールを通じて企業からユーザーへアプローチすることが多いですが、コミュニティマーケティングは、既存顧客やロイヤリティの高いユーザーから新規ユーザーへアプローチする手法です。
カスタマーサクセス マーケティング

出典:電通報

BtoB企業の場合、営業時に顧客が他社の事例などを踏まえて購買の意思決定をすることが多いです。そのためロイヤリティの高いユーザーの口コミから、新規顧客との関係性のきっかけを作り、関係を深めていくことで、営業の生産性が高まります。またBtoB企業は、一度の購入のみで関係性が終わるビジネスモデルは少なく、継続的に顧客との関係を持ち、売上を伸ばしていくケースが多いので、顧客との関係性を保ち続け、常に購買意欲をかき立てるアプローチができるマーケティングチャネルとして、コミュニティーマーケティングは注目されています。

オープンなSNSと対をなすコミュニティ

本記事のオープンなSNSとは、FacebookやTwitterなどのソーシャルメディアを指し、それらは誰でも簡単にフォローやいいねができ、企業と他のユーザー間で簡単にコミュニケーションを取ることができます。一方、コミュニティマーケティングは、特定の目的や共通の関心事を持ったメンバーが集まり、お互いに情報や知識を共有する場を指します。運営方法も企業ごとで異なり、企業が運営するものや、ユーザーが主導で運営しているものがあります。オープンなSNSとコミュニティは、それぞれにメリットがあります。SNSは大勢の人と簡単にコミュニケーションをとることができる反面、その中には興味のない人や不特定多数の人が混じることもあります。一方、コミュニティはその目的に共感する人が集まるため、より専門的で深い情報交換ができる反面、参加に対するハードルが高いことがあります。BtoBにおいては、オープンなSNSよりも専門的なコミュニティが有効であることが多く、特定の業界やテーマに特化したコミュニティが存在します。

GWI社とReddit社のレポートによると、「回答者の66%はBtoB企業のコミュニティに所属できていることに満足しており、一方で45%はFacebookやTwitterといったソーシャルメディアでフラストレーションを抱えている」と回答していることから、通常のソーシャルメディア運営よりも特定のコミュニティをユーザーが求めていることが分かります。こうしたコミュニティでは、同じ業界や同じ問題に直面している人たちが情報交換を行い、新しいアイデアを生み出したり、問題解決の手段を見つけたりすることも可能です。また、コミュニティの中で信頼関係が築かれることによって、顧客とのより深い関係性が築かれ、新たなビジネスチャンスにつなげることができます。

なぜコミュニティマーケティングに取り組むべきなのか

コミュニティマーケティングは単なる顧客との関係構築に留まらず、ビジネスにおいて様々な影響をもたらします。オンボーディング、ロイヤリティ、リファラルの3つの観点からご紹介します。

オンボーディング

BtoB製品やサービスの導入時には、その利用方法や運用方法を理解することが重要です。しかし、一般的なオンボーディング資料やユーザーマニュアルだけでは、その製品やサービスを十分に理解することができない場合があります。特にイレギュラーな対応が必要な場合や顧客側の製品やサービス知識の理解度が低い場合は、一般的な情報だけでは不十分です。ユーザーコミュニティを利用することで、今まで同様の問題に直面したユーザーや専門家(代理店や資格取得者)に相談できます。その結果、ユーザー内で製品やサービスの理解が深まり、よりスムーズな導入が可能となります。またコミュニティを利用することで、より効果的なトレーニングや教育の提供も可能です。例えば、プラットフォームやアプリケーションの利用方法を解説する動画やWebinarを提供することで、ユーザーの教育促進につながり、顧客体験を向上させます。

企業目線から見ると、自社の専任担当者の緊急対応業務が少なくなるため、導入サポートにかかるコストの削減、またオンボーディングに関する新たなナレッジの取得などを見込むことができます。サービス提供者側も生産性を高めつつ、顧客体験を向上させるコミュニティマーケティングは、オンボーディングにおいてメリットが大きいです。

ロイヤリティ

コミュニティ内で情報発信やユーザー同士のつながりを作ることで、顧客とサービスとの接触頻度が多くなり、結果的に企業のブランドやサービスに対して、ロイヤリティ(信頼や愛着心)が生まれやすくなります。ロイヤリティが高い状態は、ブランドやサービスへの愛着から継続率やLTV(顧客生涯価値)を向上させ、サービス提供側の売上向上へつながります。ベイン・アンド・カンパニー社によるB2B企業への調査(ネット・プロモーター・スコアで9-10点をつけた顧客を推奨者、0-6点をつけた顧客を批判者と定義する)によると、「推奨者」の平均生涯価値は「批判者」と比べ、3倍から12倍にも達することが明らかになっており、すでにロイヤリティとLTVに相関があると証明されています。

推奨者 批判者 B2B BtoB

出典:ベイン・アンド・カンパニー社

このように、コミュニティマーケティングは既存顧客のロイヤリティーを高め、結果的に売上の向上へつながるため、継続的な顧客との関係構築のマーケティング施策として大きな影響を持ちます。

リファラル

コミュニティマーケティングによってロイヤリティの高まった顧客は、LTVを向上させるだけでなく、企業の商品やサービスを他社へ紹介したり、顧客自身のSNSで発信・周知する「リファラル(口コミによる新規顧客獲得)」へつながるといわれています。通常、BtoBサービスの受注後は顧客とサービス提供企業間でコミュニケーションが完結してしまうため、第三者と関わる機会が少ないです。そこにコミュニティのような、ユーザーが抱くサービスへの意見を共有したり、コミュニティ内で仲間と一緒に問題を解決したりする枠組みがあることによって、外部へサービスを紹介したくなるような仕掛けを作ることができます。また、コミュニティ内での活発な議論や情報共有は、企業の製品やサービスを利用している人たちの満足度を高め、新規顧客を獲得するための口コミを生み出します。さらに製品やサービスに対する理解が深まり、その製品やサービスを使っていない人たちにも興味を持たせることができ、結果的に新規顧客の獲得へつながります。

コミュニティマーケティングの注意点

「オンボーディングにおける顧客体験の向上」「ロイヤリティの向上」「リファラルの促進につながる」など、様々なメリットがあるコミュニティマーケティングですが、導入する上で注意すべきポイントがあります。

コミュニティの主体は顧客

コミュニティマーケティングにおいては、企業が主体になるのではなく、顧客が主体となります。つまり、サービスを売るという気持ちを前面に出すのではなく、サービスに関する問題解決を支援する立場として運営管理をする必要があります。そのため、単に企業からセミナーやユーザー会を告知するだけでは、顧客はコミュニティに所属することのメリットを感じにくいので、顧客同士のつながりや彼らの中で問題を共有でき、解決できる場を作ることが重要となります。またコミュニティの主体を顧客に置くことで、顧客の率直な意見から顧客インサイトを見つけやすくなるため、サービス改善やマーケティング・営業活動の促進にもつながります。

短期で売上に貢献できる活動ではない

コミュニティマーケティングは、短期的に売上に貢献することを目的とした施策ではありません。むしろ、長期的な視点で、顧客と信頼関係を築き成果を創出する施策です。そのため、コミュニティマーケティングに取り組む企業は、長期的な視野を持ち、コミュニティを育成するための費用や時間を投資する必要があります。また、コミュニティの運営に必要な人員やリソースを確保し、継続的に活動を行うことが求められます。そのため、事業を立ち上げたばかりや現時点で潤沢な資金がない場合は、コミュニティマーケティングを行うことをお勧めしません。マーケティング、営業、プロダクト開発などに投資しオペレーションが安定してきたタイミングで、長期的視点を持ってコミュニティマーケティングを導入することを推奨します。

コミュニティマーケティングに取り組むべき企業とは

BtoB企業の中でも、コミュニティマーケティングの導入によって売上につながりやすい特徴を持つ企業があります。以下のいずれかに当てはまる企業はコミュニティマーケティングの導入検討を考えてみることをお勧めします。

・ 売り切りではなく継続利用が前提のサービスを取り扱っている
・ サービスを提供しているが、製品としての価値が伝わりにくいサービスを取り扱っている
・ ビジネスにおいて人と人との信頼関係が重要な企業
・ ある程度の顧客数がいる(サービス立ち上げ当初は向いていない)
・ サービスのカスタマイズが可能(顧客同士でアイデアを共有し合える)
・ リソース(ヒト・カネ・情報)がある

ビジネスモデル別で考えると、サブスクリプション型のビジネスモデルや、専門性の高いコンサルティングビジネスなどは、コミュニティマーケティングの事例としてよく挙げられます。理由として、既存顧客との密な関係を作ることによって、サービスが継続され、LTVの向上や新規顧客の獲得につながっていくからです。逆に言えば、サブスクリプション型のビジネスモデルや、専門性の高いコンサルティングビジネスは、密な関係を作らなければ、サービスが継続されず、売上が一向に向上しません。また新規顧客獲得に膨大なリソースがかかり、営業効率が高まらず、利益を向上させるのも難しいです。そのため、既存顧客との関係構築を行うコミュニティマーケティングを行うことで、既存顧客のサービス継続率の向上・新規顧客の獲得チャネルの開拓につながり、最終的に売上や営業効率、利益の向上へ寄与します。ただ、成果が上がるまでに時間がかかることや、部門間の連携なども必要になるため、組織全体の負荷が大きくなることを踏まえて、導入検討をしていきましょう。

BtoBにおけるコミュニティマーケティングの事例

Salesforce

コミュニティマーケティング セールスフォース

出典:Markezine

Salesforce社が運営する「Trailblazer Community」では、Salesforceの製品やサービスに関する情報交換が行われています。このコミュニティに参加している人たちは、製品やサービスに関する知識を持つだけでなく、製品やサービスを使っていない人たちや、過去に使用していたが現在使用していない方々にも情報を提供しています。すでに40以上のグループ、150名以上のコミュニティリーダーが活動しており、事業成長にも寄与しています。実際にコミュニティ上でアクティブな顧客とそうでない顧客とを比較した場合、「受注商談金額が2.5倍」「パイプラインが2倍」「33%以上の製品活用度」「顧客離れを25%削減」などの数値が現れており、コミュニティマーケティングの重要性が分かります。Salesforce社の「Traiblazer」は、ユーザー同士が協力して課題を解決する自主活動を推進していますが、Salesforceに興味のある方であれば誰でも気軽に入会できます。最低限守るべきCode of conduct(行動規範)はあるものの、コミュニティごとの自由度を許容し、ユーザーが自律的に運営できるようになっています。またツールに対する資格を用意し、ツールの専任者が資格を持つことで、自身のブランディングや転職活動に活かしやすくし、ツール運用者を育成する仕組みを整えています。Salesforce社のコミュニティマーケティングについては、こちらで詳しく説明されています。

AWS

AWS(Amazon Web Services)社には、JAWS-UG(AWS Users Group – Japan)というコミュニティがあります。JAWS-UGとは、AWSを利用する人々で構成されているコミュニティで、ユーザー主導で運営されています。日本全国に70以上の支部があり、オンライン・オフラインでのイベント活動や勉強会が開催されています。2023年5月時点でTwitterアカウントのフォロワーも6,000人を超えており、大規模なコミュニティとなっています。JAWS-UGの優れている点は、Twitterのハッシュタグを活用し、ハッシュタグの投稿からユーザー同士で関係を作っていけるようにしていることです。また「#AWS開発日記」といったAWSの初心者にとっても携わりやすい環境を作ったことによって、コミュニティのユーザー数を伸ばし大きくしています。AWS社のコミュニティマーケティングについては、こちらで詳しく説明されています。

船井総合研究所

船井総合研究所社では、経営研究会やアカデミーという中小企業の経営者や実務担当者が、気軽に相談をできるグループを運営しています。こちらは先ほど説明したSalesforce社やAWS社とは異なり、有料サービスとなります。日ごろ、社内に相談しにくい経営問題や社内の専門家がいないことで悩んでいる実務担当者に対して、外部とのつながり(情報交換)の機会を作り、様々な企業の実例を元に悩みを解決していけるようなグループとして運営されています。船井総合研究所社のグループで素晴らしいところは、業種や職種に特化したグループを選べることで、ユーザー側が聞きたい内容をピンポイントで提供でき、また内容も網羅されているので、「まず船井総合研究所のグループに入れば、ヒントをもらえる」という仕組みにしていることです。さらに社内のコンサルティング事例も豊富にあることから、ユーザーにとって学びの多いコンテンツを提供できています。コンサルティング系のコミュニティマーケティングの場合、船井総合研究所社のマーケティングは非常に参考になると思います。こちらの動画を記事内に差し込むと、よりイメージが沸くと思います。

おわりに

BtoBにおけるコミュニティマーケティングは、既存顧客との関係性を深め、LTVの向上・新規顧客の獲得につながることを説明しました。長期的な視点を持ってコミュニティを運営することで、他社との大きな差別化になっていきます。もし本記事を読み、コミュニティマーケティングを導入することで、自社が成長するイメージがついた方は、ぜひ他社事例などを参考に体制やアクションプランを整え、実践してみてください。

著者情報
米田 晃 (よねだ あきら)
Akira Yoneda
大学卒業後、BtoB事業支援のスタートアップに入社し、「BtoB マーケティングチームの立ち上げ」「BtoB企業向けのMA/CRM初期設定・運用代行サービスの構築/運用」を担当。現在は、シンガポールにて、組織・人事コンサルティングを行いつつ、シンガポール拠点・日本拠点・タイ拠点のマーケティング戦略・施策の責任者として、企業ブランドの促進から、リードライフサイクル全ての統括を行っている。