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BtoBブランディングとは?必要とされる理由や実践方法について解説

マーケティング

目次

BtoBビジネスにおいてブランディングが重要であることは周知の事実ですが、具体的にどのように実践すべきなのかについては明確でない場合が多いです。本記事では、BtoBブランディングの概要、意義や必要性、BtoCとの違いについて解説し、成功のためのポイントについて解説します。BtoCとの違いを踏まえたうえで、ブランディング戦略を考えることで、より効果的な結果が期待できるでしょう。

BtoBブランディングとは?

ブランドの定義は曖昧で抽象的になりがちです。アメリカマーケティング協会では以下のように定義されています。「ブランドとは、個別の売り手もしくは売り手集団の商品やサービスを識別させ、競合他社の商品やサービスから差別化するための名称、言葉、記号、シンボル、デザイン、あるいはそれらを組み合わせたもの。」
協会の公式定義であるため、厳格な言葉で表現されていますが、このままでは意味が分かりづらいです。実務を進めるうえではチーム内で分かりやすく明確な言語化が重要です。

ブランディングのビジネス的な意味、成果は顧客から選ばれ「指名買い」されるようなロングセラーブランドを築くことです。そのため、本記事では、『ブランディングとは、そのブランドならではの独自の役割を築き「できるだけ多くの人に」「できるだけ強い」感情移入を促す取り組みを指す。』(引用元:ブランディングとは?10個のメリットと21の戦略手法|全手順)と定義します。

ブランディングとマーケティングについても混同されがちですが、それぞれ違う概念として取り扱います。ブランディングは「マーケティング」「ブランド戦略」「ブランドマネジメント」を包括しており、3つを合わせた総称として「ブランディング」が存在します。

ブランディング マーケティング 違い ブランド戦略 ブランドマネジメント ブランドマーケティング

出典:ブランディングとは?10個のメリットと21の戦略手法|全手順

日本では「ブランディング」を「広告宣伝」という手法として捉え、マーケティングの一部として捉えられていますが、欧米ではむしろブランディングはマーケティングの上位概念の戦略として位置付けられております。ブランディングはマーケティング部署が行うものではなく、経営戦略として全社的に取り組むものという発想が必要です。

ブランディングには大きく3種類が存在する

ブランディングには、大きく分けると「何を」「誰を」「誰が」の3種類の観点があります。

「何を」ブランディングするのか

「何を」ブランディングするのかという観点では、商品やサービス単位を対象とする「商品ブランディング」と、企業そのものを対象とする「企業ブランディング」があります。「商品ブランディング」は、特定の商品やサービスの価値や魅力を伝え、顧客に選ばれる理由を明確にすることが重要です。一方、「企業ブランディング」は、企業全体の価値やイメージを高めることを目的とし、企業理念やビジョンを伝えることが重要です。

「誰を」ブランディングするのか

「誰を」ブランディングするのかという観点では、自社の外側にいる人たちを対象とする「アウターブランディング」と、自社内にいる人たちを対象とする「インナーブランディング」があります。
「アウターブランディング」は、外部の顧客や取引先、投資家などに対してブランド価値を伝え、企業の評価や認知度を向上させることを目的としています。一方、「インナーブランディング」は、組織内の従業員を対象にブランドミッションやビジョン、ブランド価値を共有し、社員のモチベーション向上や企業文化形成を目指すものです。詳細は後述しますが、ブランディングには様々な効果があり、内部外部ともにポジティブな成果をもたらします。

「誰が」ブランディングするのか

「誰が」ブランディングするのかという観点では、一般消費者を対象とする企業が行う「BtoCブランディング」と、企業を対象とする企業が行う「BtoBブランディング」があります。「BtoCブランディング」では、企業が一般消費者向けに商品やサービスのブランドイメージを構築し、消費者が購入する際に選択肢の中で優先されるように働きかけます。一方、「BtoBブランディング」では、提供するビジネス財においてブランド価値を構築します。一般的にブランディングと聞くと、BtoCを思い浮かべがちですが、グローバルではBtoBビジネスにおいてもブランディングが重視されています。実際、世界のブランド価値ランキング上位のBtoB企業では、高い収益性を実現し、強い競争力を獲得しています。

ブランディングにおけるBtoCとBtoBの違い

従来の考え方では、BtoCとBtoBは相反するものとされていました。BtoBは価格とスペックを重視し、BtoCは感情を重視すると言われており、BtoBは無感情でドライという通説がありますが、これには誤解があります。BtoBの担当者も人間であり、たとえ無意識であったとしても、感情は常に意思決定に影響を及ぼします。つまり、BtoCでもBtoBでもともに感情に働きかけるという点は共通しているのです。一方で、BtoCとBtoBには明確な違いもあります。BtoBはよりターゲットを絞り、よりパーソナライズされたものであることが多く、意思決定プロセスの異なるタイミングで、異なる意思決定者の特定のニーズや期待に訴求することが必要です。BtoCとの違いを明確にすることで、より効果的なBtoBブランディングが実現します。以下は代表的な違いをまとめたものです。BtoC BtoB ブランディング 違い

BtoB は BtoC よりも購入サイクルが長い

BtoBでの購入サイクルはBtoCと比べて長く、数か月または数年にも及ぶ場合があり、プロセスも複雑です。実際、BtoBの新規商談の4分の3は、成約までに4カ月以上かかるといわれています。購入サイクルが長い分、顧客との関係性が重要です。そのため、BtoCに比べ顧客ロイヤリティの向上に対する視点を持つことが大切です。

多くのステークホルダーによって意思決定されている

BtoCは消費者単独での意思決定となるのが基本ですが、BtoBではあらゆるレイヤーが関わります。企業が大きな支出をするためには、多くの関係者を動かす必要があります。ハーバード・ビジネス・レビューによると、BtoBソリューションの購入には、平均6.8人が関与していると言われています。実際に製品を使用する部門だけでなく、経営幹部、購買担当、法務担当、情報システム担当など、さまざまな部門から参加することが多いです。複数の関係者を説得する際、ブランドの力は強力です。ブランディングによって企業への信頼度を向上させることで、意思決定の場で有利に運ぶことができます。

BtoBにおける顧客ロイヤリティは人間同士の関係に依存している

BtoCでは、必ずしも顧客が企業と直接やりとりすることなく購入に至ることがあります。我々が普段購入する消費財のほとんどは企業の担当者に直接売り込まれたものではないはずです。一方、BtoBでは営業を中心に顧客の担当との人間同士の関係構築が肝です。BtoBビジネスでは、購入までの間に、複数の担当者と何度も会話、ミーティング、電子メールをすることになります。関係構築ができていると、スムーズに提案活動を進めることができ、最終的な購買行動にも良い影響を及ぼします。そのため、顧客との関係値を向上させる施策が重要です。

BtoBブランディングの現状

現状では、BtoB企業は商品やサービスの性能を強調するマーケティングに比べて、ブランディングに対する取り組みには消極的な傾向があります。そのため、マーケティング予算の割り振りにおいても、ブランド構築には十分な投資が行われていません。実際、アメリカではBtoB企業の約4分の1が、マーケティング予算の20%以下しかブランディングの予算に割り当てられていません。

ブランディング 予算 割り当て

出典:Why B2B Brand Marketing Matters

しかし、これは大きな機会損失であることが、BCGとGoogleの調査から明らかになっています。ブランドマーケティングが成熟している企業は、マーケティング投資の利益率(ROMI)が高く、ブランドマーケティングがパフォーマンスマーケティングを強化し、全体的なエンゲージメントが向上することが示されています。つまり、ブランドマーケティングはBtoC企業と同様に、BtoB企業にとっても効果的であるということです。BtoBのブランディングが成功すれば、需要創出活動の効果を高め、販売コストを下げることができるのです。

BtoBブランディングが必要とされる理由

近年、BtoBビジネスを取り巻く環境は日々変化しており、強固なブランドイメージを確立することの重要性がより増してきています。以下はBtoBブランディングが必要とされる代表的な理由です。
・ 急速なデジタル化の進展
・ 競争の激化
・ 持続可能性に対する意識の高まり
・ 顧客の購買行動の変化

急速なデジタル化の進展

ここ数年の急速なデジタル化はほぼすべての業界に影響を与えています。また、デジタル技術の発展に伴い、SaaS(ソフトウェア・アズ・ア・サービス)に代表されるサブスクリプション型のビジネスが普及し、多くの企業でビジネスの変革が求められています。

サブスクリプション型のビジネスモデルでは、企業はカスタマージャーニーのあらゆる場面で、顧客との関係性や満足度を維持する必要があり、優れたブランド体験を提供することは高いロイヤリティにも繋がります。例えば、デジタルインバウンドマーケティングのパイオニアであるHubSpotのブランドボイスは力強くシンプルで、全てのタッチポイント(例えそれがチャットボットであっても)がブランドボイスを元に設計されています。また、あらゆる段階で無料のコンテンツを提供しており、専門的なノウハウを顧客に提供しています。このことでHubSpotは、親しみやすく話しやすい、そして豊富な情報源であることでクライアントの成長を支援するというブランドを確立しています。

競争の激化

急速なデジタル化がもたらしたのはビジネスモデルの変革だけではありません。クラウドサービスなどのデジタル化によって限界費用(何かを生産するために必要な費用)が低下し、従来の参入障壁が崩れたことで競争が激化しています。また、市場参入者が増えたことで、サービスや商品のコモディティ化が進み、製品や機能のレベルで差別化を維持することは困難になっています。そこで重要になるのが企業やサービスのブランド力です。高いブランド力は差別化の源泉です。例えば、高いブランド力を持つとされているAppleはコモディティ化するスマートフォン市場において、価格競争に巻き込まれず、高い収益率を確保しています。同じく、サービスがコモディティ化しやすいカード業界でも、アメリカン・エキスプレスは高いブランド力を持ち、ステータスの証として他のカードと差別化することに成功しています。

持続可能性に対する意識の高まり

近年、SDGsに代表されるように、「持続可能性」に対する意識は日本のみならず世界中で高まっています。これは単に「やったほうがいい」という話ではなく、企業価値にも直結しており、ビジネスの成功のためにも必要不可欠なことが年々明らかになっています。つまり、持続可能性は「社会目的=ビジネス目的」となっており、このような社会目的を実践する企業に対する「共鳴感情」や「共創意識」を向上させることがブランディングにおいて重要な視点となっています。また、BtoB企業では、持続可能性に向けてあらゆるビジネスの変革を求められていますが、転換期には多くの障害が伴うものです。その際、ブランドマーケティングで得られた好意は転換期の軋轢やステークホルダーの疑念を解消するのに役に立ちます。

加えて、ブランドアイデンティの成り立ちの変化についても注意が必要です。従来、ブランドアイデンティティとは「企業側の意図により戦略的に創り上げるブランド連想の集合」とされていました。つまり、「企業側が目指したい、企業都合のゴール」を示しており、「生活者や社会が目指すゴール」は示していませんでした。しかし、社会が変化し、生活者との向き合い方も大きく変化しているため、従来の企業都合のブランドアイデンティティから生活者主導のブランドアイデンティへのシフトが求められています。より多くの生活者から共感・共鳴されれば、多くの人たちから感情移入が促され、愛される企業・商品になります。

顧客の購買行動の変化

BtoBを取り巻く販売プロセスは大きく変化しています。CEB社の調査によると、購買プロセスの57%が営業担当と接触する前に終了していると言われています。つまり、営業と接触する前にはほぼ勝負がついているのです。そのため、BtoBにおいても顧客とのタッチポイントは多様化し、あらゆるタッチポイントでブランドの訴求を行うことが求められています。潜在的なリードに対しても、ブランディングを行っておくことで、第一想起を獲得することができ、選択される可能性は高まります。

BtoBブランディングがもたらす効果

BtoBブランディングを行うことで、さまざまなビジネス的な成果をもたらします。ここではBtoBブランディングがもたらす代表的な効果を表にまとめております。

BtoBブランディング 効果
ブランディングの効果は、売上増加のみならず、コスト削減という利益を増加させるうえで必要などちらの要素にも寄与します。また、一度ブランドを築き、それを維持することができれば、いずれの効果も短期的なものではなく、中長期的に効果を持続させることができます。社内外でブランディング活動がうまく回れば、ポジティブなフィードバックループができ、ブランド力の向上を加速させることができます。

BtoBブランディングを成功させるポイント

BtoBブランディングを成功させるポイントには、様々な要因がありますが、ここではブランドのコンセプト設計、顧客への訴求方法の検討、ブランド定着に向けた仕組みづくりの大きく3つに分けて、それぞれ詳細について説明します。

ブランドのコンセプト設計

ブランドのコンセプト設計は、BtoBブランディングにおいて極めて重要な要素です。ブランドを構築する目的や企業におけるブランドの位置づけを整理し言語化しておくことで、一貫したブランディングが可能です。コンセプト設計を行うためには、STP分析を用いるとよいでしょう。STP分析とは、市場戦略の立案において重要な3つのステップ(Segmentation「セグメンテーション」、Targeting「ターゲティング」、Positioning「ポジショニング」)を組み合わせた分析手法です。STP分析を用いることで「誰に、どのように」が明確になります。

STP ブランディング 市場戦略

出典:STP分析とは?マーケティングで重要な理由、やり方、注意点を解説

ターゲット顧客候補の洗い出し

ターゲット顧客候補の洗い出しでは、市場を顧客のニーズや属性に基づいて細分化します。市場に存在する顧客のニーズ、購買行動を詳細に分析し、どのような顧客をターゲットとしていくか明確にします。ターゲットを決める際は3C分析を用いて、市場・競合・自社を分析し、戦略的にどの市場を選ぶべきかを検討するのもよいでしょう。

提供価値と差別化ポイントの設定

ターゲットとなる顧客が決まったらターゲットに対してどのような価値を提供し、競合と差別化を図るのか検討します。バリュー・プロポジションを検討し、提供価値を明確にしましょう。
また、競合ブランドの特定や競合の強み・弱みを把握し、自社がどのように戦うのか戦略を明確にしておくことも大切です。SWOT分析を用いれば、自社の外部環境と内部環境をStrength(強み)、Weakness(弱み)、Opportunity(機会)、Threat(脅威)の4つの要素で漏れなく分析することができます。

顧客への訴求方法の検討

顧客への訴求方法の検討では、BtoBブランディングを効果的に進めるために、ターゲット顧客への適切なアプローチ方法を見つけ出すことが重要です。デジタル化の進展により顧客接点は従来の営業活動や展示会等のオフラインだけでなく、ウェブサイトやSNSなどオンラインでもさまざまです。手法は多岐にわたるため、先入観を持たず広く顧客接点を洗い出し、自社の提供価値をアプローチする具体的なアクションに落とし込むことが重要です。

顧客接点(タッチポイント)の整理

自社が提供する価値を顧客に届けるための顧客接点を整理します。その際、ターゲット層が価値イメージを認識するにあたって影響の高い顧客接点について調査しましょう。先に挙げたとおり、顧客接点が多様化している今、全ての顧客接点にリソースを投入するのは現実的ではありません。最も影響の高い顧客接点を分析することで効率的なリソース配分が可能です。

顧客へのアプローチ方法や顧客ロイヤリティ向上に向けた施策の検討

明らかにした提供価値と顧客接点をもとに、具体的なアクションを検討していきます。絵に描いた餅にならないよう、自社のリソースやメンバーのスキルで対応が可能なのか実現性をみながら具体的なオペレーションに落とし込んでいきます。また、KPI(重要業績評価指標)を設定し、ブランディング活動の成果を定量的に測定することで、改善点を明確にし、次の取り組みに活かすことができます。顧客ロイヤリティを測る場合はNPSなどの指標を用いるのが一般的です。

ブランド定着に向けた仕組みづくり

ブランドに対する意識やコンセプトは社内で共通理解を図る必要があります。短期で共通理解を図ることは難しく、中長期でブランド定着に向けた仕組みづくりが必要です。

ブランドマネージャの設置

ブランド定着化には、ブランドやその浸透状況を管理する人材や専任部隊を設置することが重要です。ブランドマネージャは、ブランド戦略の立案から実行、評価まで一貫して担当し、各部門と連携してブランディング活動を推進します。ブランドガイドラインを策定し、社内外でのブランドイメージの統一を図る役割も担っており、ブランドマネージャがいることで、ブランディング活動の効率化と効果の最大化が期待できます。

ブランド定着化に向けた場の設定

ブランド定着に向けては社内への啓蒙活動も重要です。定期的なブランディング研修やワークショップを行い、社員一人ひとりにブランド価値を理解してもらい、浸透させることが必要でしょう。また、社員数が多い企業や多拠点展開をしている企業ではオフラインの施策には限界があります。その場合は社内SNSや社内ポータルサイトなど、浸透させるための場の整備や、社内向け動画などのツールを展開することが有効です。

おわりに

BtoCに比べてBtoBのブランディングはまだまだ発展途上といえますが、その重要性は近年一層高まりを見せています。近年の目まぐるしいビジネス環境の変化に追従するため、BtoBブランディングの重要性を捉え、競合との差別化や販売拡大に向けた戦略を策定することは全ての企業にとって必要です。この機会に、ぜひ自社のブランディング戦略を見直し、次のステップに進むための具体的なアクションを起こしましょう。

著者情報
田村 佳士(たむら けいし)
Keishi Tamura
2015年に東証一部上場の人材企業に入社し、新規営業、新規事業開発に従事。2018年に機械学習ベンチャーに出向し、AI技術を駆使した新規事業の企画を推進。その後、2020年に転職し、現在は大手IT企業にてAIプロダクトのプロジェクトマネージャを担当。エンタープライズ企業へAIプロダクトの導入プロジェクトの推進やプロダクト企画に勤めている。