ゼンフォース株式会社では人を中心としたデジタル改革を目指して、営業コンサルティングや営業研修、営業DX支援に取り組んでいます。今回は2023年6月28日に行われたウェビナー「セールスアドバイザー向井俊介氏が語る!営業組織を変革に導く戦略的な人材活用とは」の模様をお届けします。本ウェビナーでは、パーソルキャリア株式会社で副業・フリーランス人材マッチングプラットフォームサービス「HiPro Direct(ハイプロ ダイレクト)」の事業責任者を務める大里 真一朗氏と、ウェルディレクション合同会社 CEOの向井俊介氏が登壇します。
「営業組織の成果が伸び悩んでいる」
「属人化した営業体制になっており、体系化ができず成果の再現性が持てていない」
「これまでの組織の体制を続けてきているが、本当に最適な体制なのかが不安」
顧客のニーズや営業組織に求められる役割が激しく変化する昨今、上記のようなお悩みをお持ちの方も多いのではないでしょうか。スピーカーの向井俊介氏は、2023年3月に社会人大学院を修了し、IT業界における「成果を出し続ける営業の能力とは何か」という題材のもと11万字の論文を執筆しました。その過程で得た知見をもとに、現在の営業組織における課題感や営業の目指すべき姿をお話いただきます。また、後半ではパーソルキャリアの大里 真一朗氏に、目指したい営業組織の組織作りのポイントを解説していただきます。
登壇者情報
営業組織を変革に導く戦略的な人材活用とは
日本の組織の特徴
まずはじめに、1985年に慶応大学の石田教授が発表した日本型組織の形態について紹介します。
欧米型のレンガ組織と相対する概念として、日本はスキマの多いスキマ組織と表現されています。
レンガ組織は、隙間なく業務が積みあがっていて、業務に対して人を充てる、という考え方です。一方、日本は昔からスキマ組織で、誰の仕事かわからず、誰も拾わない仕事ができてしまう可能性があります。しかし皆でひとつの業務に取り組んでいくチームプレーができる、という大きな強みを持っています。近年、SaaS業界やIT業界でジョブ型雇用が話題となっていますが、それは欧米のレンガ組織から来た考え方です。スキマ組織をベースとしているにもかかわらず、ジョブ型の採用にシフトしようとすると、歪みが生まれてしまうかもしれません。
「営業」とは?
営業の広義的な意味は、「継続的に利益を創出する活動」です。その観点で考えると、どの部門に所属する人でも、営業活動をしているといえるのではないでしょうか。日本において営利企業の存在価値は、利益を出して、税金を納めることです。会社に所属するあらゆる人は、たとえ営業の部門に所属していない場合でも、利益を創出するための活動をしているのです。例えば、経理部門に対してソリューションを提供する営業の方がいるとしましょう。商品の説明をいろいろとするかもしれませんが、「利益に紐づくのか」という視点がなければ、経理の方はその製品を採用しません。経営層であればなおさら、利益に紐づかない提案ははじかれてしまいます。
利益を創出する要素は主に3つあります。
・売上を上げる
・コストを下げる
・リスクを下げる
「売上を上げる」や「コストを下げる」は思いついた方も、「リスクを下げる」は思いつかなかったのではないでしょうか。実は、リスクを下げることも、利益に直結するのです。例えば製造業において、次に発表する製品の図面が、人的なセキュリティ面が原因で流出してしまったとしたら、売上を大きく損ねることにつながります。つまり、ビジネス部門は主に売上を上げることで利益を創出し、コーポレート部門は主にコストやリスクを下げることで、利益を創出しています。
「営業職における営業」とは?
売上を上げるとは、具体的に何をすることでしょうか。シンプルに説明すると、「受注する」「お金を回収する」の2つに集約されます。営業職の方で、受注を取ることは考えていても、お金を回収することまで気にしている人は少ないかもしれません。しかしお金を回収しないと、売上にはなりません。営業職の方は、お金を回収することまでが責任ですので、そこまで意識することが求められます。近年は営業職の中でも様々な職務が存在します。インサイドセールスやカスタマーサクセスなど、いろいろな役割が登場しています。これらの職務は、営業という職業の中である一定の役割を持っているはずです。しかし、近年はインサイドセールスなどが職業化してしまい、営業組織内で分断が起こってしまっています。欧米のレンガ組織ではなく、日本のスキマ組織であるにもかかわらず、職業間で分断されてしまうことで大きな弊害が生まれています。例えばマーケティングは、主にリード獲得をすることが役割とされていますが、「リード数の目標を達成すること」「コストを下げてリードを獲得すること」自体が目的になっていることがあります。あるいはインサイドセールスはアポイントを取ることが役割ですが、多くの組織では「アポイントをとること」だけが目的となっています。マーケティングやインサイドセールスは、何のためにリードやアポイントを獲得するのでしょうか。受注をして、売上を上げるためですよね。受注してお金を回収するための直接的な業務をしているのであれば、営業職といえます。アポイントさえ取れればいい、リードさえ取れればいい、という考え方では、利益に直結しない行動になってしまう可能性があります。自分たちは、なんのために仕事をしているのか、何職なのか、組織内で明確に定義しなければなりません。
職務の職業化や、分断が起こる原因として、「営業」の概念が組織内で統一されていないことが挙げられます。みなさんは、「売ること」を目的として営業活動をしてはいないでしょうか。お客さんは、課題を抱えていて、その商品を買うことが「手段」であるはずです。しかし営業は「売ること」を目的としてしまっていて、コミュニケーションがうまくとれないケースがよくあります。前提として、お客さんの「課題を解消する」という目的に対して、その商品を売ることが最適な手段であれば、購買をするわけですよね。
一方「販売」という職務は、売ることが目的で、そのために様々な手法やテクニックが手段となります。自分たちの営業活動は、何のための活動なのか、組織内の認識を統一しなければなりません。仮に外部業者に委託する際にも、それを明確にしなければ、パフォーマンスは向上しないでしょう。
営業組織で起きている問題
営業という仕事の概念や、販売や営業の違いがわからないのに、有名な「the model」のカタチだけをマネしている企業が多く存在しています。マーケティングの人は、リードの獲得やそのコストを下げることを目的として、そのために「まず広告を打とう」「とりあえずウェビナーを開催しよう」と行動する組織はたくさん存在しています。インサイドセールスは、とにかく電話してアポを取ることを目的として、リストを片っ端から電話する組織もあるでしょう。そうしてカタチだけをマネしているために、職務間で衝突が起こります。例えば、フィールドセールスは「なんだよこのアポイント、全然可能性ないんですけど」と文句を言うし、それに対してインサイドセールスは「なんで受注できないんだよ、いいパスしたのに」と文句を言うようなことが、様々な組織で起こっています。
これらの組織では、職務ごとのKPIを達成することが、当人たちの仕事となってしまっています。しかし、リード数が獲得できても、アポ数だけ達成できても、KGIである売上が達成できないことはよくあります。つまり、職務ごとのKPIだけを達成したとしても、売上につながらなければ、意味がないのです。
KGIの売上を達成させるためには、すべての職務が「営業職だよね」と認識をあわせることがとても重要です。ただ数字をおいかけるのではなく。質のいいリードを獲得し、質のいいアポイントを獲得していかなければなりません。ここで、質のいいリードとは何か、という疑問が生まれると思います。実際にお客さんと接しているのがフィールドセールスやカスタマーサクセスであるならば、その人たちに聞きにいけば良いのではないでしょうか。また、フィールドセールスやカスタマーサクセスは、求めているコンテンツをマーケティングに要求すると、質の良いリードが自分たちに回ってきます。こうして考えると、職務間での協力が必要不可欠であることがわかります。「the model」の著者である福田氏は「コラボレーション」が重要だと言っていることからも、協力の重要性がお分かりいただけたのではないでしょうか。
このあたりの表層的な原因は、以下の4つのポイントにまとめられます。
まず、営業に対する解釈がバラバラになっていては、成果をあげることはできません。自分たちはなんのために仕事をしているのか、組織内で明確にしましょう。外部業者に委託する際も、そこを明確に伝えなければ、パフォーマンスは向上しないでしょう。次がKPIの職務偏重です。いままでお話したように、職務間で分断が起こってしまうと、成果をあげることが難しくなってしまいます。3つ目が、KPIがそもそもKGIを達成させるための重要な指標となっていないことです。皮肉な話ですが、重要ではない指標を追いかけてしまっている組織も多く見受けられます。4つ目は今までに触れていませんでしたが、「1日〇件コールしよう」「〇件訪問しよう」と成果や行動の目標だけ設定している会社は多く存在します。しかし「何のために仕事するのか?」が明確になっていないと、モチベーションの維持が難しくなるでしょう。昨今よく言われている仕事の「意義」を、メンバーに伝えることで、この問題が解消できるのではないでしょうか。
これらの本質的な原因は、「コミュニケーションが足りていない」ことです。数字を落とさない優秀な営業マネージャーほど、コミュニケーションを非常に重要視しています。組織作りにおいて、成果を最大化するためには、コミュニケーションが何よりも重要です。昨今はチャットツールなどができているために、会話が少なくなっていることがあります。しかしチャットを送っただけでは、意思が上手く伝わらないことも多くあります。例えば、意思決定や指示をチャットで送った際に、受け手は「なんで?」と疑問に感じることがあるでしょう。不信感をもったまま行動していては、成果を最大化することはできません。組織は人で構成されています。我々はロボットではなく人間ですから、チャットを送っただけで動いてくれるようなものではありません。ChatGPTを活用し文章をきれいに作成してチャットを送るより、相手の感情を考えて、対話をするほうがよっぽど重要です。人は意義をもつと、意識が変わります。意識が変わると、行動が変わります。行動が変わると、成果が変わります。コミュニケーションが取れる環境であれば、どんな人材でも、有機的にコラボレーションしながら成果をだしていけるのではないでしょうか。
営業組織における組織づくりのポイント
人事・採用を取り巻く状況
営業職種の有効求人倍率は上昇し続けており、人材獲得が困難になっています。スーパーセールスを採用すれば売上があがるとは限りませんが、優秀な営業パーソンを採用しづらくなっていることは確かな状況です。
また、多くの企業で営業の育成が課題として挙げられています。「育成できる人材の不足」や「時間の不足」が課題の大きな要因となっています。
このような状況においては、営業組織のスキマに落ちているジョブや課題を明らかにしていくプロセスが重要です。その課題を解決するために、適切な人材が必要ですが、ひとりで組織づくりも行って、育成もして、CRMの設計もできるような人材はあまりいないでしょう。必要に応じて、組織の足りないところを外部のプロ人材でカバーすることも視野に入れてみてはいかがでしょうか。